
高校生遊撃手の有望株は、プロスカウトから高い評価を受けやすい。
2024年のドラフト戦線は高校生遊撃手が大豊作だった。1位指名を受けたのは、石塚裕惺(花咲徳栄→巨人)と齋藤大翔(金沢→西武)のふたり。ほかにも森駿太(桐光学園→中日3位/高校3年時はチーム事情のため、おもに三塁手)、田中陽翔(健大高崎→ヤクルト4位)、宇野真仁朗(早稲田実→ソフトバンク4位)、石見颯真(愛工大名電→ソフトバンク5位)、田内真翔(おかやま山陽→DeNA5位)が支配下でのドラフト指名を勝ち取っている。
支配下から漏れた今坂幸暉(大阪学院大高→オリックス育成1位)にしても、一部球団が支配下での上位指名を検討していた。それほど人材が豊富だったのだ。また森井翔太郎(桐朋→アスレチックスマイナー)のように、NPBを経ずに海を渡った好素材もいた。
【見る者の心を動かす全力疾走】
では、2025年のナンバーワン高校生遊撃手は誰か。昨年と比べると人数は少なく、現段階でずば抜けた存在は見当たらない。
ただし、全国的な実績はないものの、今後の進化次第で突き抜ける可能性を秘めた好素材がいる。山村学園(埼玉)の横田蒼和(そうわ)だ。
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身長180センチ、体重85キロと均整のとれた体格で、走攻守にハイレベルな素養を秘めた右投左打の遊撃手。打撃面は高校通算20本塁打と一定の長打力はあるものの、本人は「当てカンに自信があります」と語るように、確実性の高さが光る。
遊撃守備はスローイングが最大の武器で、軽い腕の振りでも一塁に向かってぐんぐん伸びてくる。投手としても最速140キロを計測し、送球が大きくそれるケースも少ない。横田は「投手経験が送球の精度につながっていると思います」と手応えを語っている。
そして、横田蒼和という選手の最大の魅力は、走り姿から伝わってくる。
攻守交代の際、横田は誰よりも早くベンチを出て、猛烈な勢いで遊撃のポジションまで駆けていく。攻撃中に外野フライに倒れても、二塁ベースまでスピードを緩めることなく猛ダッシュ。チームとして徹底していることとはいえ、この全力疾走には見る者の心を動かすだけの力がある。
どんな思いで走っているのか。そう尋ねると、横田はこう答えた。
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「チームとして徹底していることをやって、いいプレーができたら最高の結果につながります。だからまずは自分が全力を見せて、チームを盛り上げたいと思いながら走っています」
4月29日、県営大宮公園野球場での春季埼玉大会3回戦・花咲徳栄戦は、思わぬ展開になった。山村学園の投手や守備が乱れ、序盤から大量失点を喫する。2対14とワンサイドゲームになり、山村学園は7回コールドで敗れた。
それでも、横田が試合中に全力疾走を緩めることはなかった。そもそも横田が山村学園に進学したのも、この全力疾走に憧れたからだった。
「兄(修大さん)が山村学園にいて、先輩と後輩が仲良くて、守備位置まで全力疾走する姿を見て、高校野球らしくていいなと思ったんです」
修大さんが2番・遊撃手として出場した2019年夏、山村学園は埼玉大会決勝戦に進出。春夏通じて初の甲子園まで、あと1勝に迫っていた。しかし、決勝戦の相手は県内屈指の強豪・花咲徳栄。1回表から6失点を喫した山村学園は、2対11で大敗している。この試合を見て、横田は山村学園で野球をすることを決意した。
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「徳栄さんにボコボコにやられて、『絶対に倒したい』と思いました。でも、徳栄さんとはこれまでに4回戦って、全部負けてしまっているんですけど。夏はなんとか勝ちたいです」
【課題はミート力の低下】
高校卒業後の希望進路は、プロ一本に絞っている。昨夏の埼玉大会で冨士大和(大宮東→西武育成1位)、上原堆我(花咲徳栄→オリックス育成3位)と、プロに進んだ好投手から安打を放ったことで自信をつけた。入学当初は71キロだった体重は2年夏までに85キロに増えている。
その後、体重の増減はないものの、「質」は大きく向上していると横田は語る。
「筋肉測定をしても、数値がだいぶ上がっています。本当はもう少し増やしたいんですけど、今は85キロが適切なのかなと感じます。スピードも上がっていて、30メートル走のタイムは、冬前は4秒5〜6だったのが、今は4秒3に縮まっています」
最近は50メートル走のタイムを計測していないが、2年春に計った際には6秒1だった。当時よりも足が速くなっている実感があるという。
横田が高い資質を持った高校生遊撃手なのは、間違いない。その一方で、横田は今、乗り越えなければならない大きな壁に当たっている。
「ミート力が落ちているように感じるので、そこをなんとか上げていきたいですね」
2年夏までは安打を量産していたが、新チームになった2年秋以降、安打のペースが目に見えて落ちている。誰よりも横田の資質を買っている岡野泰崇監督は、もどかしい様子でこう明かした。
「本当はもっとよくなっていいはずなんです。筋力がついてきて、振りが大きくなって、それまでヒットになっていた打球がファウルになってしまうことが増えたように感じます。発言は立派でいいことを言ってくれるんですけど、まだ精神的に幼いと感じます。本当なら、もっと上の選手になっていると思っていたので、悔しいんですよね」
どんな選手も、右肩上がりに伸び続けられるわけではない。横田も今は低く、かがんでいる状態かもしれないが、それは大きくジャンプするための準備なのだ。
横田蒼和が今夏にかけて殻を破ったその時、ドラフト戦線は大きく変動していく。