画像提供:マイナビニュース宮城県大衡村を拠点にトマトなどの農産物を生産する未来彩園では、NTT東日本の協力の下、トマトの自動販売機を設置。現在は自社の敷地内に設置されているが、今後は近隣の工業団地などへの設置が検討されている。
未来彩園は、「『安心・良質・安定』の農産物生産システムの構築」をテーマとしており、自然環境に配慮した有機培地の椰子ガラスラブを使った有機栽培が特徴。コンピューターによって潅水・環境制御などの管理が行われており、栽培環境を常時清潔に保った、病害虫が少ない安全・安心なトマトが栽培されている。
今回、トマトの自動販売機の設置をした狙いについて、未来彩園の加藤氏は「トマトの美味しさの発信」を第一に挙げる。「皆さんもそうだと思いますが、大事なものや大事な人というのは他人に紹介したくなるじゃないですか。それと同じです」と笑顔を見せ、「大衡村には特産物が何も無い」という現状を指摘。「トマトをきっかけに、大衡村が世間に広まってくれればいいなと思っています」と続ける。
自動販売機とNTT東日本という組み合わせには、少し違和感を覚えるが、今回の自動販売機は、グループ会社であるNTTアグリテクノロジーがサービスとして提供しているもの。「私たちは、通信インフラといったサービスだけではなく、様々なグループ会社の商材も活かしながら、お客様の課題解決に取り組んでいます」と話す、NTT東日本 宮城支店 ビジネスイノベーション部 まちづくりコーディネート担当 チーフの菊地浩紀氏は、「これまで通信事業者として、長く地域に根ざした活動を行ってきましたが、これからも地域の持続可能性やサスティナビリティを大切にしながら、地域の皆様と一緒に成長していく必要がある」との見解を示し、「その中で、NTTアグリテクノロジーという専業会社を立ち上げ、その商材を扱うことで、農業をはじめとする一次産業を、日本において、より長く、持続可能な成長分野にしていきたい」との思いから、今回は地域連携を深めるひとつの手段として、自動販売機に着目したという。
未来彩園では、すでに自社のトマトを工業団地の社員食堂に卸すなど「地場のものを工場で働く社員に提供する」といった取り組みを宮城県とともに進めているが、自動販売機の導入は、より手軽にトマトなどを手にとってもらえる機会であり、「美味しいトマトを皆さんのご家庭に届ける」ための大きな武器になると捉えている。
いわゆる無人販売所などと比べると、自動販売機であれば「鮮度を保てるだけでなく、セキュリティ面でのメリットが大きい」というNTT東日本の菊地氏。盗難のリスクを低減できるだけでなく、今回導入された自動販売機は完全キャッシュレスとなっており、釣り銭の管理なども不要で、効率的な稼働が見込める。この完全キャッシュレスという点について、未来彩園の加藤氏は「時代の流れ」としつつ、「現状では、年輩の方が購入できないかもしれない」という可能性を指摘。その配慮として、未来彩園では店頭販売も行われているが、今後については状況を見ながら判断していくとした。
そして「本当は人と人とのふれあいの中で営業していくのが基本」であるとしつつも、「例えば夜に購入できるとか、消費者の方の都合にあわせることができる」ところを、自動販売機ならではの大きなメリットして言及。その一方で、「遠隔操作がどこまで可能か」という点を一番の課題として挙げる。現在は、未来彩園の敷地内に1台のみが運用されているが、今後自動販売機の数が増えた時、「誰が野菜の管理をするのか」が問題となり、「常に新鮮なものに入れ替えないといけないのですが、おそらく1週間に1回くらいしか回れないので、そのあたりは今後の課題になる」と在庫管理の問題を危惧する。
今回、導入されている自動販売機は、完全キャッシュレスの機種であるため、クラウドと連携して、在庫などを管理することは可能。しかし、キャッシュレスではない機種の場合は、「一部、難しいところがある」というNTT東日本の菊地氏。今後、自動販売機を増やしていく場合、完全キャッシュレスではない機種が導入される可能性もあるため、その場合の対策は今後の検討課題になるという。(※自販機導入には一定の条件がある)
現在の計画では、県内40カ所程度の設置が予定されているため、「まずは管理方法を確立して、しっかりとしたマニュアルを作らなければならない」という未来彩園の加藤氏。現在、設置されている自動販売機は、試験運用という形でのトライアルで、ノウハウの蓄積を狙っている部分もあるが、人通りが少なく、なおかつ敷地内にあるため、「まだあまり知られていない」のが現状であり、「今後の商品展開も含めて、情報を広く発信していければ」と今後の展開を明かす。
今回の自動販売機は、設置代や工事費用などの初期費用もなく、商品ごとの販売手数料を徴収する形式になっているのも特徴のひとつ。「清涼飲料水などと違って、野菜は生産時期が決まっているため、販売ができない端境期のようなものができてしまう」ことが大きな理由となっており、「一般的な自動販売機の月額固定でのリースのような形で運用すると、どうしても赤字の期間ができてしまうので、売れた分だけいただくという形式でやらせてもらっている」とNTT東日本の菊地氏は説明する。
そして、今後もNTT東日本と連携していきたいと期待を寄せつつも、「まずはこの自動販売機を成功させて、軌道に乗せてから次のことは考えたい」という未来彩園の加藤氏。「人口が減り、衣食住が厳しくなっていく中で生き残れる人はやはり力のある人」との持論を明かし、「うちは若いメンバーが多いので、力をつけてもらって、どこでも働けるようになってもらいたいし、トマトについてもどこにも負けないトマトを作っていきたい。そのためにも、NTTさんの力をお借りして、安定した事業を展開していきたい」と今後の展望を示した。
糸井一臣 この著者の記事一覧はこちら(糸井一臣)