日本HPの「PCリユースプログラム」に注目が集まっている。使用済みとなった法人向けPCを処分する際に、廃棄するのではなく回収したPCを再生し、リユースするプログラムで、Windows 10のサポート終了に伴う買い替え需要によって排出されるPCや、GIGAスクール構想第二期(GIGA 2.0)の導入本格化によって生まれる既存PCの回収手段としても活用されている。
日本HPの岡戸伸樹社長は、「2023年5月からサービスを開始し、約2年が経過したが、プログラムを利用する企業数は右肩上がりで増加している。使用済みのPCを廃棄するという選択肢だけでなく、リユースするという仕組みを選べるようにした。この仕組みを活用すれば、企業の環境活動にも貢献できる」とする。日本HPのPCリユースプログラムとは、果たしてどのようなものなのだろうか。
●稼働するPCを買い取りして安全にデータ消去し海外で活用してもらう
日本HPのリユースプログラムは、日本HPの法人向けPCに買い替える際に利用できるPC買い取りプログラムで、法人向けWindows PCは1台あたり5000円の定額で買い取りし、法人向けChromebookや教育向けWindows PC/Chromebookは、1台あたり500円で買い取ることになる。
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一般的に、PCを廃棄するためには費用が発生するケースが多いが、むしろ買い取ってもらえるというメリットが企業側には生まれる。
買い取りの対象となるPCは、第8世代以降のIntel Coreプロセッサを搭載したPC、あるいはAMD Ryzen以降のCPUを備えたPCだ。また、対象世代以前のCeleronやAthlonなどは500円、第7世代のIntel Coreプロセッサを採用したPCも500円で買い取る。
HPブランドのノートPC/デスクトップPC/ワークステーションだけでなく、他社製の法人向けPCも同様の条件で買い取りを行う。キーボードやマウス、電源ケーブルなど、PCの動作に必要な付属品も含めた回収が必要となるが、1台から買い取ってもらうことが可能だ。
日本HPの岡戸伸樹社長は、「企業においては、社員一人ひとりに最適なPCを提供し、セキュアな環境で運用するということが重視される一方で、正しく処分するといったライフサイクル全体を捉えたPCの活用が重視されている。日本HPでは、導入から廃棄までのライフサイクル全体に渡ったサービス整備の一環として、PCリユースプログラムを用意している」と、この仕組みを位置付ける。
PCリユースプログラムでは、日本HPのPCを購入した企業が、同プログラムの専用フォームから申し込むと、日本HPから見積書が送られ、プログラムを利用できる。確認後、回収予定日を調整し、日本HPが契約する物流業者が直接回収する。回収に関する費用はかからない。
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また一度に大量のPCを回収する際にも、日本HPが機器分別作業を請け負ってPCの起動の確認、CPUの世代確認などを行って、リユース可能なPCを選定する。回収後に申し込みをしたPCであることを確認し、検収を行って企業の支払い条件に沿って、日本HPは買い取った費用を支払う。その後、データ消去を無償で行い、PCは再生されてリユースPCとして海外で販売されることになる。日本での再販は行わない。
企業にとっては、買い取ってもらったPCの費用を新しいPCの購入予算に充当できるため、事実上、低価格でのPC調達が可能になるというメリットが生まれる点も、このプログラムの特徴だといえよう。
重要なポイントは、回収したPCのデータ消去の作業を、日本HPが責任を持って行う点だ。
日本HPの岡戸社長は「企業がPCを廃棄する際には、そこからデータが漏えいしてしまうことが最も懸念されている。PCリユースプログラムでは、買い取ったPCは国際規格に準拠し、米国防総省の基準をクリアした安全な仕組みと作業環境でデータ消去を実施する。また、データ消去作業完了証明書も発行する。セキュリティ面でも安心してもらえる」と語る。
データセキュリティ対策では、国際規格準拠の情報セキュリティ管理システムであるNIST SP-800シリーズ/ISO27001に対応し、DoD 5220.22-M/NIST 800-88 Clear・Purgeに準拠し、作業を行うことになる。
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なお、企業側で、事前にHDDやSSDを物理的に破壊してから回収してもらうことも可能だ。その際には、1台あたりの買い取り価格は2000円となる。
配送時についても、セキュリティを確保できる。GPSを搭載したカゴテナーを使用し、輸送中のPCの位置情報を把握。安全な輸送を行っていることを確認できるセキュリティ搬送サービスをオプションで提供しているという。
そして、PCリユースプログラムという名称からも分かるように、これらのPCは、修理および再生して、リユースすることになる。
●リユースにまつわる2つのポイント
リユースという観点では、2つのポイントがある。
1つは、廃棄をせずにリユースすることで、環境負荷を減らすことに貢献できるという点だ。
日本HPの岡戸社長は「環境の観点からPCのライフサイクル全体を見ると、最もCO2を排出しているのは製造フェーズとなる。使用済みのPCを全て廃棄するのではなく、使えるものは再利用することで、CO2排出量の削減につながり、環境にも貢献できる」と語る。
岡戸社長が指摘するように、PCのライフサイクル全体を見ると部品調達/生産/輸送までの段階で、PC1台あたりのCO2排出量は全体の50%以上を占め、中には90%を占める場合もあるという。つまり、長年に渡るPCの使用や、最後の廃棄という部分でのCO2排出量は、最低で10%程度にとどまるという構造なのだ。
使用済みのPCを廃棄せずに価値があるものとして再利用することで、PCを新たに生産するのに比べて、環境への影響を大幅に減らすことができるというわけだ。
PCリユースプログラムでは、回収したPCがHP製の場合に限定して、CO2削減量を記載した証明書を送付できる。CO2削減量を可視化することによって、企業のESG経営をサポートすることが可能になるのだ。
もう1つのポイントが、回収したPCは日本国内でデータ消去および再生作業を行った後に、リユースPCとしてアフリカに輸出され、販売されるという点である。
日本HPは従来、デモ用のPCや返品されたPCなどを中心に、再販パートナーとの連携によって新興国向けにリユースPCとして販売していた経緯がある。今回のPCリユースプログラムでも、アフリカのいくつかの国に限定してリユースPCとして再販を行い、現地で再利用されることになる。
再販の対象となるのは、PCが必要ではあるが新製品を購入するために十分な予算を確保できない中小企業や学校、病院などだという。アフリカにおけるPCの普及率は低く、インターネットに接続し、触れることができる人口比率はスマホを含めても約40%とも言われている。
日本HPの岡戸社長は「PCの普及率が低い新興国において、この仕組みを活用することで、世界とのデジタル格差を埋める手段の1つになる」と位置付ける。
世界的なデジタル格差の問題が指摘される中で、日本HPのリユースPCの仕組みが課題解決の一助になるというわけだ。
PCリユースプログラムにおいて、協力会社として各種業務を行っているのがTT Globalだ。ITリユースの専門会社で世界40カ国以上に展開しており、2024年8月には創業から25周年を迎えた。
創業当初から、先進国市場と新興国市場の間の技術的ギャップを埋めるというビジョンを掲げ、リユースPCを新興国のオフィスや学校などに販売してきた実績がある。HPを始めとして世界各国のPCメーカーと連携しながら、新興国市場におけるオフィスや学校などにリユースPCを再販している。
日本では、GIGAスクール構想第二期においてサポートすることを発表した。2019年からの同第1期で導入されたPCを回収し、新興国市場に再販する取り組みを開始している。
同社では、「教育分野に使用されていたPCをリユースPCとして再販できることで、新興国の家族や学生のデジタル化を促進できる。新興国に対して、手の届く価格帯でリユースPCを再販することは、デジタル格差を縮小する上でも有効である。TT Globalは、新興国と先進国の間にあるデジタル格差の縮小に貢献していく」と述べている。
日本HPでは、PCリユースプログラムについて「より安全に、より簡単に、サステナブルな調達が可能になると共に企業のESG経営を支え、脱炭素社会作りに貢献できる」とする。
日本HPは国内PC市場において、ブランド別シェアでは13四半期連続で首位を維持し続けている。PCリユースプログラムによって法人ユーザーや新興国市場にもたらすメリットは大きいが、それにも増して、トップシェアメーカーである日本HPが率先してPCの再生利用に積極的に取り組む姿勢は、高く評価できるだろう。
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