日本の大学で頂点に立つ東京大学を目で見て憧れを抱かせようと、幼いうちから東大を訪問する中国人の子供も存在する(※写真はイメージです) 日本の有名大学や大学院で、中国人留学生の割合が増加している。その一部には入学試験というハードルを、カネの力で乗り越えてくる者すらいるという。いったい何が起きているのか。
◆中国人に不正入学を手配する学歴ブローカーが暗躍中!?
日本の出入国在留管理庁によると、’24年末時点で留学の在留資格を持つ外国人は40万人超に達した。
’23年、外国人留学生を「我が国の宝」と呼んだ岸田文雄前首相が打ち立てた、「’33年までに留学生受け入れ40万人」という目標は大幅に前倒しされて達成されたことになる。
しかしそんな宝に、多数の「まがいもの」が紛れ込んでいる可能性がある。
「中国のSNSでは、有償で日本の大学への入学を保証すると謳う『学歴ブローカー』が暗躍しています。『学力・日本語能力不問』と称する者もいて、カネで学歴が買える状況となっています」
そんな衝撃的な事実を明かすのは、中国人ジャーナリストの周来友氏だ。
◆「入学保証」を謳いSNSで堂々と集客
事実、SPA!が中国のSNS、小紅書(RED)で「日本留学」と検索したところ、留学手続きをサポートするエージェントや、日本での大学受験に特化した学習塾などの投稿に混じり、『保送(入学保証)』、『保分(点数保証)』と銘打つ書き込みにいくつも行き当たった。
そのなかには、「東京大学入学保証400万元(約8000万円)、「国立大学院入学100万元(約2000万円)」などという投稿も。
いったい、この投稿主は何者なのか。SNSに跋扈する学歴ブローカーと思しきアカウントにDMを送ってみたところ、「早慶上智30万元(約600万円)」と謳う業者から返信を得た。
数日間やり取りを続けるうち、相手は不正入学の手口の一部を語りはじめた――。
「日本の多くの私立大学では、留学生向けに書類審査のみか、それに加えて面接という選抜区分を設けている。書類審査は、志望者の過去の実績とそれを証明する書類を添付する必要があるが、それはこちらで偽造する。面接はあっても『形だけ』という大学も少なくないので心配はいらない」
にわかに信じられない説明に唖然とするも、「過去の実績を見せてほしい」と食い下がってみた。すると怪しまれたのか、連絡がぱったり途絶えてしまった。
◆有力教授がブローカーのパイプになっている危険性も指摘
前出の周氏によれば、日本の一部の大学院への入学はさらに簡単だという。
「日本の大学院には『研究生制度』という仕組みがあります。これは1年間研究生として特定の研究室に在籍し、翌年に正式な大学院試験を受けるという入学方法です。しかし、実際には『研究室の先生に気に入られれば合格確定』というような、教授の裁量が大きい仕組みになっていることも少なくない。つまり、研究生として潜り込めば、その後の大学院入学は決まったようなものというわけです。さらに研究生の選考も、事実上、ひとりの教授に一任されていたりする。そうした有力な教授とブローカーが癒着し、中国人の志望者に不正入学のルートを提供している可能性がある」
手口はさまざまだが、中国人による“不正入学”は世界各地で起きており、枚挙にいとまがない。
’22年1月には、一橋大学の外国人留学生向け入学試験で不正を行ったとして、中国籍の男ら2人が偽計業務妨害で逮捕されている。
同日、試験会場で受験していた当時22歳の男は、数学や日本語などの出題内容をスマートフォンで撮影し、会場外にいた28歳の男に送信。男は正解を22歳の男に返信していたとみられているのだ。
◆不正入学の背景には習近平の政策の影響
世界中で中国人による不正入学が相次ぐ背景には、習近平政権のとある政策があるという指摘もある。中国事情に詳しいジャーナリストの中島恵氏が語る。
「’21年から実施されている『共同富裕政策』(貧富の格差を是正するための政策)により、新規の学習塾の設立が禁止されました。それまで、遊ぶ暇がないほど出されていた学校の宿題の量も制限されたのですが、人々の受験熱は冷めやらず、『隠れ学習塾』が出現。熾烈な学歴至上主義は緩和されていません。一方で、中国でも大学が増えすぎて大卒者が急増したために受け皿となる雇用が足りず、受験戦争を戦い抜いても報われない状況となっている。そうしたなかで生まれた、中国社会を抜け出そうという動きが海外留学熱となり、なかには不正に手を染める者も出てきている、という構図がある」
いわば、中国脱出の手段としての海外留学。その行き先は、近年、日本に向かっているという。
「かつては日本への留学生は富裕層に限られていましたが、中国が経済発展を遂げた今、中間層でも留学が可能になった。さらに円安もあって、日本の大学の学費や生活費の安さが際立っています。また早稲田をはじめとする私立大学には、中国で大学説明会を開催するなど、優秀な学生の青田買いに余念がないところも。双方による相乗効果で、日本への留学熱が高まっているのです。そうしたなか、中国人留学生向けの学習塾など、留学関連ビジネスはいまや成長市場となっている。実力では入学できない留学生に、不正入学を唆す業者が紛れ込んでいる可能性も否定はできません」(中島氏)
◆日本の入試制度は性善説に頼りすぎている?
一方で前出の周氏は「日本の受験会場のチェック体制は甘すぎる」と指摘する。
「中国だと、試験当日は周囲の電波を遮断したり、入試会場で空港のような持ち物検査を実施します。でも日本では対策がほとんどなく、普通に携帯や電子機器が持ち込める環境もある。だから、『日本はちょろい』と舐められて、不正が蔓延っている」
このような実態を、日本の大学当局はどこまで把握しているのか。
「本学ではひどいブローカーが存在していることは把握してますし、残念でもありますが、丁寧な書類審査と審査種別によっては面接試験を課すことにより、適切に対応している」と回答を寄せたのは、上智大学。
一方で早稲田大学は、ブローカーの存在や裏口入試について、「把握していない。不正があれば厳正に対処している」と回答。
慶應大学もおおむね同様で、「本学では、公平・公正な入学試験を実施しておりますが、不正行為が確認された際には厳正に対処します」と回答。
東京大学に至っては、「(不正入試等は)把握していない」とのことだった。
不正入学の数だけ、入学できるはずだった受験生の涙があることを忘れてはならない。教育の機会均等を掲げるのであれば、高等教育の無償化よりもまず、入学試験の不正一掃が先決ではなかろうか。
◆世界各国で勃発する中国人の不正入学事件簿
’19年5月《7億円の「寄付金」で裏口入学》
スタンフォード大学の裏口入学スキャンダルで、中国人の母親がブローカーに約7億2400万円を支払っていた。母親は「正当な寄付と説明された」と主張し、訴追は免れている
’19年9月《息子を「サッカー選手」に偽装》
カリフォルニア大学ロサンゼルス校への裏口入学を図った中国人の母親が、ブローカーに約4300万円を支払い、スペインで拘束された。息子はサッカー選手を装い不正に入学した
’22年1月《一橋大学で試験問題がSNS流出》
一橋大学の留学生向け入試で試験問題が不正流出。中国人学生と家庭教師が関与し、SNSで解答者を募ったとして逮捕された。コロナ禍による特例措置の隙を突いた犯行だった
’23年12月《1万人以上の大規模学歴詐欺事件》
中国山東省で大規模な偽造学歴詐欺が摘発され、偽の卒業証書7000枚超と偽印章2300個以上が押収された。証書は1万〜16万円で取引され、購入者は1万2000人を超えるという
’24年9月《詐欺の学位取得プログラムが横行》
「速成学历」と称し、約63万円の頭金で「有名大学の卒業資格が得られる」「出席確認は不要」と謳う詐欺の学位取得プログラムが横行。日本の有名大学もリストに含まれていた
【ジャーナリスト・周 来友氏】
1963年、中国生まれ。1987年に来日、東京学芸大学大学院を修了。テレビや週刊誌で中国事情について論評している
【ジャーナリスト・中島 恵氏】
新聞記者を経て現職。主に中国の社会事情を取材。『中国人が日本を買う理由』『日本のなかの中国』など著書多数
取材・文/週刊SPA!編集部
―[中国人に買われる[日本の学歴]]―