
チャンピオンズリーグ(CL)準決勝インテル対バルセロナ。ファーストレグのスコアは3−3だった。前評判で勝るホームのバルサが、撃ち合いの末、引き分けた一戦である。
攻撃自慢のチームが堅守自慢の相手に打ち勝つことができなかった。ショックが大きかったのはバルサのほうだったと思われるが、一方のインテルも、堅守を自慢にしながら3ゴールを奪われていた。どんなに後ろを固めても、守り倒せそうもないことがハッキリとわかった試合でもあった。
第2戦は第1戦を受けて立ち上がりの攻防に注目は集まった。インテルの布陣は5−3−2(3−3−2−2)。第1戦と同様の守備的な布陣を敷きながらも、第1戦との違いは明白となった。精神は布陣とは異なり、限りなく攻撃的だった。
2−2で迎えた第1戦のハーフタイム明けのインテルと、同じ匂いを感じた。その第1戦では、幸先よく2−0とリードするも、前半のうちにバルサに2−2に追いつかれる。守備固めに走って2−2を維持する作戦に出るのかと思いきや、意外にも前に出てきた。同点に追いつき、落ち着いてしまったバルサとは対照的な姿を見せた。
後半、その流れでインテルはウイングバック(WB)デンゼル・ダンフリース(オランダ代表)がCKからゴールを奪い3−2とリード。その後、バルサに反撃を許し、左ウイング、ラフィーニャ(ブラジル代表)に同点弾を浴びたが、前評判を覆す3−3のスコアで折り返すことができた。
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第2戦で、インテルのシモーネ・インザーギ監督はこれを教訓としたのだろう。穏やかにスタートし、実力勝負に持ち込みたいバルサの意表を突く作戦に出た。前半21分。攻撃的な証であるプレッシングを炸裂させる。
バルサ陣内の深い位置でMFダニ・オルモ(スペイン代表)を3人で囲みボールを奪取するや、右WBフェデリコ・ディマルコ(イタリア代表)がダンフリースにつなぐ。その折り返しをFWラウタロ・マルティネス(アルゼンチン代表)が流し込み、先制点とした。合計スコア4−3。インテルはこの準決勝において3度目のリードを奪った。
【勝負勘が欠けていたバルサ】
そこでようやくバルサに続けてチャンスが訪れる。前半25分、34分、36分と惜しいチャンスを作ったが、インテルもまだ前方向へのベクトルを鈍らせていなかった。ヘンリク・ムヒタリアン(元アルメニア代表)、ハカン・チャルハノール(トルコ代表)が立て続けに際どいシュートを放つ。
そして迎えた43分。ムヒタリアンのパスを受けたマルティネスがパウ・クバルシ(スペイン代表)のタックルを受けて転倒すると、VARの末に判定はPKに覆る。チャルハノールがこれを決め合計スコアは5−3に。バルサの敗色は濃厚になったかに見えた。
セカンドレグも試合運びの拙さを際立たせることになったバルサ。だが、それで持ち前の技術が失われるわけではない。バルサは後半9分、左SBジェラール・マルティン(元U−21スペイン代表)のクロスに右SBエリック・ガルシア(スペイン代表)が右足で合わせ、通算スコアを5−4にする。さらに15分。ジェラール・マルティンのクロスをダニ・オルモが拝むようなヘディングで同点にした。
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この準決勝、3度目の同点劇である。インテルは5バックの態勢から前に出た無理がたたり、足が止まる。バルサのいい時間はなお続いた。後半23分にはムヒタリアンが、ペナルティエリアのライン上でラミン・ヤマル(スペイン代表)を倒す。主審はPKスポットを指したが、VARの結果、ファウルはラインのほんのわずか手前で起きたと、ジャッジを覆した。振り返れば、バルサには痛手となる判定だった。
試合の流れはバルサにあった。だが、それに乗じる勝負勘がバルサには欠けていた。2−2になった段階で、お人好し気質を全開にして落ち着いてしまったファーストレグを想起させる展開になりつつあった。
だが、この短所を技術が必死にカバーする。後半42分、MFペドリ(スペイン代表)のパスを受けたラフィーニャが左足シュート。GKヤン・ゾマー(元スイス代表)がいったんセーブするも、そのこぼれに再びラフィーニャが反応、ゴール右隅に鋭い一撃が吸い込まれていった。
【最も活躍したのはヤマルだったが...】
合計スコア6−5。バルサがこの準決勝で、初めてインテルに対してリードを奪った瞬間である。だが大激戦に終止符が打たれたという感じは不思議にも湧かなかった。
5分と表示されたロスタイムに入ってもバルサは攻めた。その2分後にはヤマルがインテルゴールにポスト直撃弾を見舞っている。試合巧者ならばボールを回す。バルサにはそれができる技術がある。それを怠ったツケが1分後(後半48分)に訪れた。
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右サイドをダンフリースに割られると、その折り返しをフランチェスコ・アチェルビ(イタリア代表)に押し込まれ、試合を合計スコア6-6とされてしまう。
平均年齢でインテルを大幅に下回るバルサ。若さというより、気質的な緩さを露呈させたというべきだろう。延長戦を、しぶとさ比べでは負けないインテルが制したのは当然の帰結だったのかもしれない。
合計スコアを7−6とする決勝弾が生まれたのは、延長前半9分だった。
右サイドでFWマルクス・テュラム(フランス代表)が、バルサDFロナルド・アラウホ(ウルグアイ代表)に競り勝ち、ペナルティエリア内へ侵入。メフディ・タレミ(イラン代表)にボールを預ける。その落としたボールに反応したのがMFダビデ・フラッテージ(イタリア代表)だった。はやる気持ちを抑えるように、ワンフェイントを入れながらサイドネットに蹴り込んだ。
ヤマルは延長後半9分と11分にGKゾマーを泳がせる際どいシュートを放っている。採点すれば10点満点中9をつけたくなる活躍だった。両軍で最も活躍した選手である。だが、結果論を承知で言えば、ヤマルの活躍とバルサの敗戦は関連性があるように見えた。
バルサのサッカーは、気がつけばヤマル頼みになっていた。ヤマルのスゴさが、チームとしてのバラエティさ、攻撃のバランスを、逆に失わせる結果を招いていた。攻撃のベクトルは3方向(左、右、中央)均等ではなく、大きく右に偏った。ヤマルの登場回数が多すぎる弊害を思わずにいられなかった。
ヤマルがマン・オブ・ザ・マッチ級の活躍を見せたにもかかわらず、勝ったのはインテルだった。
実際のマン・オブ・ザ・マッチにはゾマーが選ばれているが、もうひとりヒーローを挙げるなら、2戦を通して2ゴール3アシストを記録したダンフリースになる。バルサは右サイドこそ制圧したが、左サイドを狙われ、全7失点中、5点を相手の右WBにやられた。
バルサの敗因はその構造的な問題にある。魅力は存分に発揮したけれど、このままでは欧州一の座に返り咲くことはできない。バルサには何よりバランスが欠けていた。