ソフトバンク宮川社長「値上げの方向性は同じ」、ドコモとKDDIに続くか? 衛星直接通信も2026年に投入へ

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2025年05月08日 22:20  ITmedia Mobile

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コンシューマー事業は2年連続の増収増益となった

 ソフトバンクは5月8日、2025年3月期(2024年度)の連結決算を発表した。決算説明会で宮川潤一社長は、NTTドコモとKDDIが相次いで発表した値上げについて「方向性は同じ」としながらも「タイミングは慎重に見極める」姿勢を示した。


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 さらに独自開発のLLMを利用したチャット型生成AIサービスの投入も予告。質疑応答では、競合他社に続きスマホと衛星の直接通信サービスを2026年に投入する計画も明らかにした。


●値上げ議論、ドコモとKDDIに追随か――競合他社との差別化も図る


 宮川氏は「これだけインフレが社会問題となっている中、通信業界だけが世の中の流れに反して値下げが続いている」と状況を分析。「業界全体の構造的な課題になっている」との認識を示した。


 ドコモとKDDIが相次いで値上げを発表したことについては「1つはチャンス」と捉えている様子を見せ、「われわれも方向性は同じ。値下げでずっと続いていたデフレ業界の構造をなんとか乗り越えようという気持ちで、コスト削減などに努力を続けてきたが、限界に差しかかっている」と説明した。


 一方で具体的な値上げ計画については「もしやるとしても語る時期ではない」としながらも、提供する付加価値サービスについて「1つ2つは頭をよぎっている」と含みを持たせた。


 宮川氏は特に付加価値の提供方法について、「要らないものが付いてきて値上がりした」「優先接続ができるかなと言いながら、他のお客さんが犠牲になるような」サービスではなく、「お客さんが納得してもらえるサービス」を目指す考えを示した。


 この発言は、最近の競合他社の新料金プランを意識したものとみられる。ドコモは4月に「ドコモMAX」を発表し、値上げする一方でスポーツ配信サービス「DAZN for docomo」を標準バンドル。またKDDIは5月に「au 5G Fast Lane」を発表し、混雑時に特定ユーザーに無線リソースを優先的に割り当てるサービスを上位プランに組み込む方針を示している。


●増収増益、スマホ契約数は104万件の純増


 ソフトバンクの2025年3月期の連結決算は、売上高6兆5443億円(前期比7.6%増)、営業利益9890億円(同12.9%増)と好調。純利益は6553億円(同11.0%増)、親会社の所有者に帰属する純利益は5261億円(同7.6%増)となり、全セグメントで増収増益を達成した。


 特にコンシューマー事業は売上高2兆9529億円(前期比4.6%増)、セグメント利益5304億円(同7.1%増)と堅調に推移。モバイルサービスの主要回線契約数は4117.5万件に達し、スマートフォン契約数は3177.3万件(前年度末から104.3万件増)を記録した。「年間純増100万件以上を継続していくという目標」を達成し、特にY!mobileブランドを中心に契約数を伸ばしている。


 「と金プロジェクト」と呼ばれるY!mobileからSoftBankブランドへの顧客育成も好調で、移行収支は「昨年度の上期・下期とも」プラスに転じた。また物販等売上高も713.9億円(前期比12.3%増)と大幅に増加しており、端末の平均販売価格上昇が寄与したとみられる。


 一方、課題としては解約率の上昇が挙げられる。年間平均解約率は1.31%で前年の1.13%から上昇し、特に第4四半期には1.46%まで高まった。


●衛星とスマホの直接通信を2026年に提供へ、HAPS事業も大詰め


 決算説明会の質疑応答では、KDDIがスペースXと提携して4月に提供開始を発表した「au Starlink Direct」についての質問が挙がった。このサービスは衛星とスマートフォンが基地局を介さずに直接通信するもので、圏外エリアでも通信を可能にする技術だ。


 宮川氏は「われわれが進めていたOneWebとは毛並みが違う衛星」と述べた上で、「Mobile Direct(モバイル・ダイレクト)については来年(2026年)に自社サービスとして提供する予定」と明言。「具体的な衛星会社の名前は今日は控えますが、準備は実際は終わっている」と語った。


 衛星とスマートフォンの直接通信は、従来の基地局を介さずに衛星からスマートフォンへ直接電波を送受信する技術で、山間部や災害時など通信インフラが整備されていない地域でも通信を可能にすると期待されている。具体的な詳細は明らかにされていないが、KDDIが既に発表したサービスと競合する形になるとみられる。


 また、成層圏通信プラットフォーム「HAPS」事業については「国交省と大詰めの段階にある」とし、「可能性があれば早期にサービスを展開したい。話が終わったら早々に発表したい」と述べた。HAPSは地上約20kmの成層圏に無人航空機を滞空させ、広範囲に通信サービスを提供する技術で、地上の基地局が届かない山間部や災害時などの通信手段として期待されている。NTTグループも2026年にHAPSの日本でのサービス化を予定しており、今後の競争が注目される。


●次世代技術への投資、AI基盤の強化進む


 モバイルネットワークについては、2023年に発表していた5G SA(スタンドアロン)の全国展開も進んでいる。今後はスライシングや低遅延などを生かした新サービスを順次投入する計画だ。


 AIインフラについては、3月に大阪府堺市にあるシャープ液晶パネル工場跡地を取得し、AIデータセンターの構築を進めている。2026年中の稼働開始を目指している。


 また、ソフトバンクグループとOpenAIが2025年2月に発表した「Cristal Intelligence」(クリスタル・インテリジェンス)プロジェクトも推進中だ。宮川氏は「現在のAI導入は業務の個別最適にとどまるが、各部門のAI同士が連携して経営全体を変革するプロダクトを目指している」と説明。OpenAIの営利化断念については「Cristalを進める上ではまったく影響がない」とコメントした。


 さらに驚きの発表となったのが、次世代メモリの開発への参入予告だ。AIデータセンターに特化したメモリで、AIの計算処理とデータ転送を効率化するもので、既存のHBM(High Bandwidth Memory)より高性能なメモリの開発に乗り出す。「メモリメーカーになりたいわけではなく、約30億円を投資してサンプル開発のスポンサーとなる」(宮川氏)としている。「誰かがリスクを取らないと」との思いからの参入だ。


 年間の研究開発費については「1000億円レベルの捻出ができる体制になってきた」と説明。「従来通りのAI投資も含め、次期中期経営計画での成長につなげていきたい」とした。また政府が進める電力と通信の連携「ワットビット連携」については「極めて重要な議論。これなしでは全国のAIデータセンター展開は難しい」と期待を示した。


●国産生成AI「Sarashina mini」商用化へ、日本語特化モデルをアピール


 国産LLMの開発については「Sarashina mini」(700億パラメーター)の開発を完了したと発表。基となる「Sarashina」(4600億パラメーター)から蒸留(知識の凝縮)によって作成された軽量モデルで、秋までに商用開始を予定している。デモでは日本語特化モデルとして日本の道路交通法や文化を理解した応答や高速な処理を実演し、「地域性や文化を理解したモデル」としての強みをアピールした。


 宮川氏は「OpenAIのGPT-4o(2000億パラメーター)やGPT-4o mini(80億パラメーター)と比較しても、Sarashina miniはより高速に動作し、日本文化や法規に対する理解度が高い」とアピールした。


 提供方法については「コンシューマー・法人にこだわりなく提供していく」とし、「チャット型サービスから始め、動画生成や絵画生成なども順次提供していく」と述べた。「業界ごとの専用モデルを作っていきたい。フィジカルな世界、IoTやロボットで活躍するAIに育てていきたい」と将来像を語った。


●PayPayは上場準備へ


 「ファイナンス事業」では、PayPayのGMV(決済取扱高)が15.4兆円(前年比23%増)と大幅成長を継続。営業利益も332億円を記録し、前年の50億円の赤字から黒字転換を果たした。PayPayの単体の営業利益は年間で300億円を超える黒字となり、「EBITDA(利息/税金支払いと各種償却前の利益)は353億円で2年連続の黒字」を達成した。


 金融ビジネスの再編も進み、PayPay銀行とPayPay証券の2社を2025年4月にPayPayの直接子会社化する再編は完了。グループの金融サービスをPayPay傘下に集約する形となった。また、PayPayは上場準備を開始しており、宮川氏は「PayPayも上場を機に成長できるチャンスになる」との見方を示した。


●年間1000億円の技術開発投資体制を確立


 ソフトバンクは2025年度の業績について「売上高6兆7000億円、営業利益1兆円超え」を目指すとしている。中期経営計画の目標「9700億円」を大きく上回る営業利益を実現しつつ、将来の成長に向けた積極投資も行う方針だ。


 宮川氏は特に技術開発について「社長就任時から目標としていた年間1000億円レベルの研究開発費を捻出できる体制になってきた」と説明。「これまでサービスを自社で作らない会社だったが、これを作り変えていきたい。サービスを自ら開発できるテック企業になっていきたい」という構想を示した。



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