トランプ政権と中国共産党の板挟みで企業は失速、民主派最大政党も解散へ......アジアと世界をつなぐ国際金融都市はどうなる? 米中関税戦争のウラで衰退する香港の今

1

2025年05月09日 06:10  週プレNEWS

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

週プレNEWS

1997年7月に香港の主権がイギリスから中国に返還されて以降、街中には中国と香港ふたつの旗が並ぶ

トランプと習近平が過去に類を見ない関税戦争を展開する中、その影響をもろに受けるのが米中経済の架け橋である香港だ。香港の今とこれからについて、中国・香港事情に精通する専門家に聞いた。

* * *

■不況にあえぐ香港経済に相互関税が追い打ち

第2次トランプ政権が打ち出した「相互関税」の衝撃に揺れる世界経済。

なかでもトランプ政権に狙い撃ちされ、145%という高関税を課された中国経済への影響が注目されている。

悪化の一途をたどる米中関係だが、そのはざまでさらに厳しい状況へと追い込まれているのが「香港」だ。

「香港は1997年にイギリスから返還された後も、中国政府の『一国二制度』の下で幅広い自治と自由な経済活動が認められ、中国本土と世界を結ぶ貿易や投資の重要なハブとして大きな役割を果たしてきました」と語るのは、中国政治・経済に詳しいジャーナリストで千葉大学客員教授を務める高口康太氏。

「ところが、トランプ政権は今回の相互関税で、香港を中国と一体と見なして中国本土と同じ145%の高関税を適用しました。

これが、自由貿易を基盤とする香港経済にとって重大なダメージとなるのはもちろんですが、中国政府の香港に対する影響力はここ数年で急激に増し、香港の自治や一国二制度の形骸化が危惧されていました。

そんな中で、習近平の中国政府ではなく、トランプ政権のアメリカまでもが、香港を中国と一体に扱ってしまったというのはつらい話だと思います。

そうでなくても、ここ数年、香港経済は不況にあえいでいました。2020年の香港国家安全維持法(国安法)制定以降、香港政府の優先事項が経済から社会秩序の維持に変わり、それに嫌気が差した香港人が次々と国外に流出。香港当局の推計では、20年からの4年間で約50万人が国外に逃れたのではないかといわれています。

また、中国政府の干渉が強まり、香港ならではの自由な雰囲気が失われつつある中で、それまで香港に拠点を置いていた海外の企業なども続々と撤退。そればかりか、中国のグローバル企業までもが、シンガポールなど香港以外の場所へと本部を移すケースも多く、かつては『世界一高い』といわれていた香港の不動産価格は大幅に下落。深刻なインフレにも見舞われました」

こうしてすでに厳しい状況にあった香港経済に文字どおり追い打ちをかけるのが、今回のトランプ関税だ。

■米中対立のはざまで苦悩する香港企業

高口氏によれば、香港の企業は対立を強める米中両政府から二重のプレッシャーをかけられているという。

その象徴的な例が、先日、パナマ運河の権益を売却しようとして中国政府から差し止めをかけられた香港の巨大企業、CKハチソンホールディングスだ。

「CKハチソンの創業者、李嘉誠氏は香港を代表する実業家で『賢者』とも呼ばれる人物です。

彼がトランプリスクを避けるため、パナマ運河の港湾事業の権益を米国企業に売却しようとしたところ、香港の親中派新聞『大公報』が、『民間企業も愛国的であるべきだ』とCKハチソンを厳しく批判する記事を掲載。中国政府も売却の差し止めに向けて動き出しました。

素早く、的確な経営判断でトランプ政権による経済リスクに対応しようとしても、中国政府の政治的な介入で動けない。この板挟み状態が香港企業をさらに苦しめているのです」

■失われる香港の魅力と活力

現代中国研究が専門の社会学者で、香港大学大学院への留学経験もある東京大学の阿古智子教授も、香港の衰退に心を痛めているひとりだ。

「20年の国安法制定以降、自由貿易港としての香港を支えてきた自治や自由が急速に失われ、今や中国政府の言いなりに近い。香港最大の民主派政党の民主党も解散手続きを開始し、香港は中国の一部になりつつあります。

つい先日も、アメリカがこれまで免税扱いだった800ドル以下の郵便小包を課税対象としたことに対抗して、香港郵政がアメリカ向けの小包の受け付けを停止すると発表しました。

関税政策に関しても、中国政府がアメリカに対抗措置を取ると言えば、香港も従わざるをえない状況です。

こうして米中という世界の二大経済大国が対立し、共にグローバル経済に背を向ける状態が続けば、自由貿易港としての香港の魅力が失われてゆく。現在、相互関税の対象となっている物品の貿易だけでなく、香港への投資も縮小してしまえば、やがて香港の国際金融センターとしての立場も危うくなるでしょう。

イギリス統治時代の最後の年となった96年から00年までの約4年間を香港で過ごした私にとっても、香港は自由で楽しい街でした。しかし、ここ数年は不況で活気がなく、香港に暮らす友人に『最近は夜9時以降ほとんどのレストランが閉まっている』と聞き、本当に信じられないような気持ちです」

自由と活気を失う香港はこのまま衰退を続けてしまうのか? 今後、日本は香港とどう付き合えばよいのだろう? 前出の高口氏は語る。

「日本の企業が中国で何かビジネスをしたいと考えたとき、いきなり中国本土を相手にするより、いったん、香港を経由したほうがやりやすいのは、香港から自由な雰囲気が失われつつある今でもあると思います。

それに、香港がトランプ関税で対米貿易に苦しんでいる今こそ、この機会に日本から香港企業にアプローチして歓迎される、という逆張りの発想もアリかもしれません。

香港の人は日本が大好きで、一説には香港人の7割が日本を訪れたことがあるともいわれている。この機会に日本の企業も香港との新しい付き合い方を考えてみてはどうでしょう」

前出の阿古氏もこう語る。

「今は厳しい状況が続く香港ですが、そうした中でも民間レベルの交流や支援はできる。最近は、香港で活動が難しくなったアーティストの来日公演でチケットが即日完売するなど、日本での活動に活路を見いだす人も増えています。

こうした民間レベルの交流や支援を通じて、香港が長年育んできた自由で活発な文化を支えていくことも、香港の未来のために大事なことだと思います」

日本と同じく、米中という超大国に翻弄される運命を背負った香港の動向を今後も注視したい。

取材・文/川喜田 研 写真/共同通信社

このニュースに関するつぶやき

  • 「米中関税戦争のウラで衰退する香港の今」って、今更何言ってる?(笑)香港は中共の手に落ちた瞬間から衰退中だよ(笑)
    • イイネ!4
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

前日のランキングへ

ニュース設定