2025年度(2026年3月期)の国内IT需要の動きはどうなるか。国内ITサービス大手の富士通とNECが相次いで発表した2024年度(2025年3月期)の決算から、通期および第4四半期(2025年1〜3月)の受注状況と、それを踏まえた2025年度の業績予想をチェックしながら、両社の見立てを基に考察する。
富士通とNECの業績見通しから探る「2025年度国内IT需要の行方」
●富士通は2025年度国内IT需要をどう見ているか
富士通が2025年4月24日に開いた決算会見では時田隆仁氏(代表取締役社長 CEO)と、磯部武司氏(代表取締役副社長 CFO《最高財務責任者》)が説明した。時田氏は2025年度に向けた思いとして、「サービスソリューションを中心に収益性の拡大を見込んでおり、引き続き事業のモデルやポートフォリオの変革を進めていきたい」と述べた。なお、本稿では同社の「サービスソリューション」をITサービスとして扱う。
同社が発表したITサービスにおける国内受注状況は通期で前期比105%、第4四半期で同111%と伸長した。業種別では、エンタープライズビジネス(製造業などの産業・流通・小売)が通期で同106%(第4四半期で同109%)、ファイナンスビジネス(金融・保険)が同114%(同130%)、パブリック&ヘルスケア(官公庁・自治体・医療)が同98%(同105%)、ミッションクリティカル他が同111%(同110%)となった(表1)。
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この受注状況について、磯部氏は業種ごとの動きも合わせて次のように説明した。
「国内の受注は全体として高水準で推移しており、(表1の右端に記された)2022年度(2023年3月期)を起点とした3カ年のCAGR(年平均成長率)は10%増と力強い伸びを維持している。エンタープライズビジネスは製造やモビリティ、リテールなど幅広い範囲で受注が拡大している。ファイナンスビジネスは第4四半期でメガバンクの基幹システム保守など複数年契約の大型商談を獲得した。パブリック&ヘルスケアは前年に官公庁向けで複数年契約の大型商談を獲得した反動によって通期でマイナスとなったが、システム更改案件を複数獲得しており、2022年度起点のCAGRでは7%増と引き続き伸長している。ミッションクリティカル領域も2023年度の高い水準をさらに上回って推移している」
富士通はこうした受注状況を踏まえ、2025年度の業績予想を明らかにした。サービスソリューションでは、売上高に相当する売上収益として前期比3.7%増の2兆3300億円、営業利益として同24.2%増を見込む。磯部氏によると「サービスソリューションの国内での売上収益の伸びは前期比9%増を見込んでいる」とのことだ(表2)。
こうした業績見通しとともに最近の国際情勢も踏まえて、富士通は2025年度の国内IT需要の動きをどう見ているか。
「米国政府による関税政策の影響については、当社のビジネスにとっては限定的だが、対応に苦慮されているお客さまもいる。世界的に景気が後退しかねないという懸念がある。そうした動きがIT需要にどれくらい影響を及ぼすのか、注視する必要がある。一方で、こうした苦難の時こそDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進めて、一段と競争力をつけるという考え方もある」(磯部氏)
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●NECは2025年度国内IT需要をどう見ているか
NECが2025年4月28日に開いた決算会見では森田隆之氏(取締役 代表執行役社長 兼 CEO)と藤川 修氏(取締役 代表執行役 Corporate EVP 兼 CFO)が説明した。森田氏は2025年度に向けた思いとして、「現在進行中の中期経営計画の最終年度となる2025年度は、目標達成とともに2026年度以降の成長を見据えた“スタート台”をしっかりとつくる年にしたい」と述べた。
同社が発表したITサービスにおける国内受注状況は、通期で前期比12%増(第4四半期で前期比7%増)と伸長した。業種別では、パブリックが同31%増(第4四半期で同18%増)、エンタープライズが前期並み(同6%増)、その他が前期比5%増(同1%減)となった。エンタープライズの内訳では、金融が同9%減(同5%増)、製造が同9%増(同1%増)、流通・サービスが同5%増(同6%増)だった(表3)。
この受注状況について、森田氏は業種ごとの動きも合わせて次のように説明した。
「受注の動向については、全体として通期で前期比12%増となり、パブリック領域を中心に引き続き堅調に推移した。パブリックは自治体向けシステム標準化の案件増に加えて、中央省庁向けの案件が堅調だった。エンタープライズの各分野を見ると、金融は前期実績の反動減があったものの案件のパイプラインは引き続き旺盛な状況だ。製造は選別受注が一巡しDX関連の案件が増えた。流通・サービスも堅調に推移した。その他も子会社のアビームコンサルティングが引き続き好調だ」
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NECはこうした受注状況を踏まえ、2025年度の業績予想を明らかにした。ITサービスでは、売上収益として前期比0.9%減の2兆150億円(うち国内は同0.7%減の1兆7000億円)、営業利益として同10.9%増の2630億円(うち国内は同4.5%増の2250億円)を見込む。森田氏によると、「国内は法人向けPCの販売機能移管に伴って減収するものの、継続的な収益性向上によって増益を計画している」とのことだ(表4)。
こうした業績見通しとともに最近の国際情勢も踏まえて、NECは2025年度の国内IT需要の動きをどう見ているか。
「2025年度の国内IT需要については、現時点でマクロ経済の動きがどうなるか見通せないので、まずは第1四半期(4〜6月)の状況を注視したい。業績予想の数字については、どんな状況になろうとも達成するつもりで示している。お客さまの業績への影響が大きくなれば、IT投資が抑制されるリスクはある。ただし、DXについてはどの企業も本業の競争力に関わる取り組みになってきているので、スローダウンするわけにはいかないのではないか」(森田氏)
●AIエージェントの取り組みを急ぐべき理由
以上が富士通とNECにおける2025年度の国内IT需要に対する見方だ。最近の国際情勢の不透明さもあってほぼ同様の懸念を示していることがお分かりいただけるだろう。その中でも印象的なのは、異口同音に「DXは今や企業の競争力に直結している」ことを強調している点だ。
これを踏まえて、最後に筆者からも一言。2025年度のDXの目玉は間違いなく「AIエージェント」だ。AIエージェントについては本連載でもこのところ頻度高く取り上げているのでそれをご参照いただくとして、なぜAIエージェントへの取り組みを急ぐべきかというとAIエージェントを「育成」する必要があるからだ。
どんなところからでも早く取り掛かって使い方を習得していけば、それだけ早く競争力に直結する可能性が大いにある。これまでの取材でその点を確信しているので、この機会に訴求しておきたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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