有線イヤフォンが若者の間で再び流行しているという。
若者向けマーケティング機関の「SHIBUYA109 lab.」が発表したZ世代のトレンド予測のファッション・コスメ部門に「有線イヤフォン」が挙がっている。イヤフォンのコードをネクタイのように垂らして使うなど、ファッションアイテムとしても再度注目されているようだ。
ファッション性だけでなく、実用面でも有線イヤフォンが優れている部分は多い。今回はそんな有線イヤフォンのメリットについて考えたい。
●有線イヤフォンはiPod時代にもファッションアイテムだった
|
|
思い返せば、イヤフォンが1つのファッションとして強い影響を与えたものは、iPodに付属していた白いイヤフォンだ。iPodがポケットに入れて使う商品ということを踏まえ、Apple製品だと一目で分かるよう、あえて白いイヤフォンにしたというエピソードはよく知られている。
当時のiPodはシルエット広告で売り出しており、ポップな背景カラーと対照的な影のように黒塗りの人物、さらに対照的な手元の白いiPod、そこから伸びる白いイヤフォンの存在は鮮烈なものだった。後に数多くのパロディー画像が作られるなど、大きな影響を与えた。
当時の記事を振り返ると「白いイヤフォン」=「iPodの付属品」というイメージが強い。音質向上を狙うなら白以外のイヤフォンをチェックしてみようという趣旨の記事もあったほどだ。
他にもファッションアイテムとしての有線イヤフォンでは、直近では100ショップのダイソーにて「ジッパータイプのイヤフォン」が販売されている。ちょうど15年くらい前に流行した商品だが、ここにきてダイソーでも販売されるようになった。一周回った新鮮さが令和の時代に再評価されたようだ。
●有線イヤフォンはエモい? 昔の映像作品で感じたこと
|
|
有線イヤフォンへの注目の背景には、映像作品などの影響もあると感じる。近年はNetflixをはじめとした動画配信サービスにて、過去のテレビドラマ作品を視聴する人も多い。ここに登場する商品が新鮮さという意味で昭和レトロ、平成レトロとしてリバイバルにつながる部分もあるようだ。
ここでは製品だけでなく、有線イヤフォンの適度な距離感で友人と左右片耳ずつシェアして聴く様子や、学生がカーディガンの裾に穴をあけて授業中にこっそり音楽やラジオを聴く様子(袖にイヤフォンを通し、カーディガンの裾の穴から出して使う)といった、当時ならでは文化もエモいと感じる。
筆者も学生の頃は、退屈な授業中に音楽を聴きたいがために工夫したものだが、完全ワイヤレスイヤフォンでこれが簡単にできてしまうことを考えると、その手間暇が新鮮に映るのかもしれない。当時の筆者に今のAirPodsを与えたら、泣いて喜んだことだろう。
●イヤフォンジャックの廃止、iPhoneのUSB Type-C対応が契機に
そんな有線イヤフォンも、時代と共に進化を遂げている。有線イヤフォンが再注目される理由の1つとして、スマートフォンやタブレットから3.5mmイヤフォンジャックが省かれ、USB Type-C端子のイヤフォンが増えたことが大きいと考える。
|
|
コロナ禍を経て、Web会議でマイク付きのヘッドセットを用いる場面が増えたことも、有線イヤフォンに注目する背景と考えられる。
特にiPhoneとiPadがUSB Type-C端子になり、販売されているスマートフォンの大半の充電端子が統一されたことは大きな変化だ。
イヤフォンメーカーはiPhone用にLightning端子、Android端末用にUSB Type-Cの端子を持つ2種類のイヤフォンを用意する必要があり、コストがかさんでいた。そのため、ワイヤレスイヤフォンにトレンドが移行してからは、有線イヤフォンの商品展開を積極的には行っていなかった。
しかし、物理的な端子の壁がなくなったことで、USB Type-Cイヤフォンを大々的に売り出せるようになった。メーカーもこれを機に有線イヤフォンの展開を推進しており、2023年以降は各社から多くの商品が登場している。
●ノイズキャンセリングや高音質化でもUSB Type-Cイヤフォンが有利
多くのUSB Type-C端子のイヤフォンは端子部にDAC(D/Aコンバーター)を搭載している。高コスト要因の1つだったが、このチップがなければiPhoneやPixelではUSB端子から音声出力ができないため、必須の機能となる。廉価なものはダイソーにて500円程度で販売されており、現在ではコスト圧縮も進んでいる。
この仕様のおかげか、スマートフォンに限らずPCのUSBヘッドセットとしても利用できる。変換アダプターなしでそのままUSB端子に挿して使える点はうれしい。
USB端子から直接電源を取れることを生かして、ノイズキャンセリングに対応する機種も存在する。従来の電源は乾電池式が主流で、イヤフォンには電池を収めるコントロールボックスが備えられていた。これには週に1回程度の電池交換が必要な点と物理的に重いという難点があった。
このような悩みもUSB端子から電源供給ができれば一挙に解消でき、電池残量を気にすることなく使えるようになった。また、本体からコントロールボックスも廃されたことで、軽量化や取り回しの向上も図れた。USB Type-Cになったことによる有線イヤフォンの進化がみられる好事例だ。
USB Type-Cイヤフォンは利便性だけでなく、音質強化にも新しい流れをもたらした。一部メーカーの機種には専用のアプリからイヤフォンのチューニングを変更できるものも登場した。
これはDACチップ(アンプ含む)とイヤフォン本体で音の要素が完結する1つのオーディオシステムと評価できる構成になったことで、メーカー側もより多くの環境で意図した音を出せるようになった。この考えは完全ワイヤレスイヤフォンにも通ずるところがある。
同じ方向性で従来の有線イヤフォンをスマートフォンでも高音質で楽しみたいという声には、バスパワー動作のUSB DACが応えてくれる。仕組みはイヤフォンの変換アダプターと同じだが、こちらは主に音質向上を目的とした商品で、細長いものが多いことから一般にスティック型DACともいわれる。廉価なものでは数千円単位から、上位では「iBasso DC Elite」といった7万円クラスの商品も存在する。
スマートフォンにコンパクトなアダプターを装着することで、あっという間に高音質な音楽プレイヤーへと変化する。従来のポータブルヘッドフォンアンプと比較しても軽量コンパクト、充電が不要という点で以前よりも注目されている。
●ワイヤレスと有線イヤフォン、二刀流の使い方がおすすめ
ここまで進化した有線イヤフォンを見てきたが、スマートフォンの変化とともに新たな機能を取り入れ、時代と共に進化してきたことが分かった。特にUSB Type-C端子の端末が増えてからは「音質」以外の部分にフォーカスを当てた商品も登場している。
最後に本誌が実施したイヤフォンは「ワイヤレス」「有線」と題したアンケートの結果を見ていこう。ここではワイヤレスイヤフォンが38%と優勢なものの、有線イヤフォンの利用者も30%と決して少なくないことが分かった。
また、用途や場面に応じて両者を使い分けると回答した方も30%だったことを踏まえると、有線イヤフォンを使う人の割合は半数以上と依然高い。線のある商品が過去のモノのように思われがちだが、実態はそうではないようだ。
現在はワイヤレスイヤフォンが主流になりつつあるが、有線イヤフォンの支持も根強い。一方で、取り回しや利用時のストレスを考慮すると、ワイヤレスイヤフォンが優位な場面が多いことも事実。双方が得意とする用途をカバーすることは難しい。場面に応じて使い分ける二刀流がおすすめと考える。
有線イヤフォンには、高音質や低遅延という利点があることはもちろん、冒頭に触れたファッション要素、エモーショナルな要素もある。長く使うという点でも、物理的なバッテリーを持たないため非常に優位に働く。筆者の手元にも10年以上前に発売された機種がいまだに現役だ。
ワイヤレスイヤフォンの技術の進化は日進月歩。常に目を見張るものがあるが、有線イヤフォンも時代に合わせて進化しているので、ぜひチェックしてみてほしい。
●著者プロフィール
佐藤颯
生まれはギリギリ平成ひと桁のスマホ世代。3度のメシよりスマホが好き。
スマートフォンやイヤフォンを中心としたコラムや記事を執筆。 個人サイト「はやぽんログ!」では、スマホやイヤフォンのレビュー、取材の現地レポート、各種コラムなどを発信中。
・X:https://twitter.com/Hayaponlog
・Webサイト:https://www.hayaponlog.site/
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。