“ガチキャンプ勢”だけでなく、“長期連泊勢”にも刺さる「深い製品」を投入するEcoFlow その狙いは

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2025年05月09日 15:41  ITmedia NEWS

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 ポータブル電源大手の中国EcoFlowは4月24日、電源そのものではない製品として、ポータブルエアコン「EcoFlow WAVE 3」、ポータブル冷蔵庫「EcoFlow GLACIER Classic」を発表した。また車のオルタネータから電源を取る「EcoFlow 500W Alternator Charger」も発表した。


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 これらの製品は、すでに先行商品がある。ポータブルエアコンはすでに3世代目だし、ポータブル冷蔵庫も「EcoFlow GLACIER」という製品が2023年6月に発売されていた。Alternator Chargerも、「800W Alternator Charger」という製品が先行している。


 2024年には、多くのメディアがキャンプブームの終焉を宣言した。コロナ禍の中、アウトドアであってもパーソナルスペースが確保できる遊びとしてソロキャンプが流行したが、それにはまらなかった人たちは、3密政策が終了すると以前からの趣味に戻ってしまった。


 一方でコロナ禍以前からキャンプを趣味としている人にとっては、キャンプ用品がたたき売りされたり中古市場が活況となる状況を喜んで受け入れ、装備の充実が図られた。その結果、多くのキャンパーは週末一泊といったライトなキャンプではなく、車中泊しながら数日を過ごすといった、ヘヴィな行動をとるようになっていったと考えられる。


 関東近郊のキャンプ場は、ゴールデンウィークから夏休み期間に繁忙期を迎える。ブーム時のようにサイトがぎゅうぎゅうで「どこがソロキャンプやねん」といった異常事態ではなく、常識的なスペースを確保した状態ですでに予約は埋まり、盛況であるという。


●「Alternator Charger」の盛況から見えること


 個人的にはまず、Alternator Chargerの盛況ぶりに注目したい。


 「オルタネータ」とは、車のガソリンエンジンに接続されている発電機で、車のメインバッテリーを充電するのに使用される。このオルタネータの発電能力を利用して、ある意味電力を横取りするのがAlternator Chargerである。横取りした電気を使って、ポータブル電源を充電できる。


 EV車やハイブリッド車であれば車内からも大電力が取り出せるが、一般のガソリン車ではシガーソケットからの12〜24V程度に限られる。しかしAlternator Chargerを取り付ければ、500Wや800Wといった電力を取り出せることになる。


 またECOFLOWの独自機能として、「逆充電機能」がある。これはメインバッテリーが枯渇した際に、Alternator Chargerにつながっているポータブルバッテリーから電気を逆流させてメインバッテリーを充電する機能だ。ある意味メインバッテリーのバックアップともいえる使い方ができる。


 Alternator Chargerは、ECOFLOWはもちろんとして、BLUETTI、DJIなど大型ポータブルバッテリーを製品化しているメーカーからはだいたい製品が出ている。市場としては500Wクラスの製品が主力で、ECOFLOWの800Wはやや大電力である。今回あえて小さめの500Wを投入したのは、人気クラスの価格帯に参入するということだろう。500Wモデルの公式サイト価格は6万6000円だが、現在は50%オフの3万3000円で販売されている。ちなみに800Wモデルは8万8000円であった。


 Alternator Charger自体の取り付けは、基本的には端子を車のバッテリーに並列につなぎ込むだけなので、マイナス側がアースだということを知っていて、電気に関する基本的な知識があれば、難しいものではない。


 難しいのは、そのケーブルを車内からどうやってエンジンルーム側に引き出すか、である。これは車体設計やエンジンの位置などによって、どこからどのように引き回せるかが変わってくる。


 普通車であれば、多くは助手席の足元に引き込みの穴があり、すでに通っているケーブルもあるので、そこを利用することになる。自分でオーディオアンプなどを取り付けたことがある人なら、よくご存じだろう。


 ただAlternator Charger用のケーブルは大容量の電力が通るために頑丈にシールドされており、かなり太い。穴のカバーに切れ目を入れたり、そこが通らなければ別の穴を開けたりといった加工が必要になる場合がある。


 また荷物室が大きなハイエースなどのバンタイプの車は、エンジンルームが前ではなく運転席や助手席の下にあったりするので、配線は車種によってだいぶ違ってくる。


 こうした車体加工になると、誰でも、というわけにはいかない。多くはディーラーや車体修理業者に依頼することになるだろう。ただ事業者によっては経験がないために断られたり、工賃として結構な額を請求されたりといったこともあるようだ。それが昨今では、「オルタネータチャージャー取り付け承ります」を売りにする事業者も出てきた。これは大きな変化だ。


 オルタネータチャージャーが必要になるのは、屋外でソーラーパネルを展開したぐらいでは追い付かないレベルの大容量バッテリーを充電する場合である。つまり従来のような、「キャンプ地に行ったらソーラーパネルを広げましょう、そこでコーヒーでも飲んでるうちにポータブル電源も充電もできますね」みたいな小規模なイメージではなくなった、ということだ。それだけガチ勢がメインになってきたということの裏付けでもある。


●「ポータブルエアコン」の盛況から見えること


 コロナ禍時代には、家庭内においてエアコンのない部屋に一時的に設置して部屋を涼しくする、「スポットクーラー」が注目された時期があった。旧製品の「EcoFlow WAVE」もそうした文脈で語られることもあったが、基本的にはAC電源ではなくバッテリーで動くエアコンなので、一般家庭に常設で使うような製品ではない。今回発売されるWAVE 3に至っては、本体と専用バッテリーパック合わせると25万円ぐらいするので、その金額出すなら普通のルームエアコンが付けられる。


 つまりWAVE 3は、電源が引けない場所で使うことが前提の商品だ。1つは建売住宅の建築現場などにおいて、まだ電気工事が終了していない時点で労働環境を保全するといった目的が考えられる。ただこれは、ポータブルバッテリーとスポットクーラーでも解決できる。


 WAVE 3が強みを発揮するのは、車内やテント内である。6畳以下の空間温度を15分程度で約8度下げる冷却能力がある。車載のカーエアコンはエンジンをかけないと冷風が出せないが、エンジンがかけられない時間帯もあるだろう。


 またスポットクーラーとの違いは、暖房や除湿もできるということである。動作モードとしては、自動/冷房/暖房/除湿/送風の5種類を備えている。


 また今回から、「ペットケア機能」が追加された。これはアプリで温度設定しておくと、自動で冷房がオンになる機能である。またアプリにもアラートが通知される。


 スーパーの駐車場などでは、ペットを車に残したままで買い物している人をよく見かける。今の季節は問題ないだろうが、キャンプが盛況となる夏場は心配だろう。ユーザーの要望があって追加された機能だという。


 可搬型だがちゃんとしたエアコンなので、排気と吸気のダクトを車外に出す必要がある。このため、窓に取り付けてダクトを出すための窓シートが別売で販売されている。マグネットでくっつけるタイプなので、多くの車に対応できるだろう。


 関連アクセサリーとして、シャワーキットがある。屋外では汚れた車や靴を洗ったりと、意外に水洗いの機会は多いものだが、貴重な飲料水を使うのはためらわれる。WAVE 3は一般のエアコンのように、内部の結露を水として排水するので、この排水を溜めておき、無駄なくシャワーとして使えるというものだ。また清潔な水が手に入る場合は、それを使って自分の手や身体を洗ったりペットを洗ったりといった用途にも使える。


 動作時間は、専用バッテリーパックでエコモードなら約8時間。ただ夏場は夜でも、エコモードでは厳しいだろう。ACでも駆動できるので、夏場はポータブル電源と併用して通常モードで使った方が、就寝時間は確保できる。


 動作音は44〜58dBとなっている。静かじゃないと眠れないという人がキャンガチ勢にいるか分からないが、動作音が気になるなら、本体を屋外に出し、ダクトで冷気を車内に引き込むというセットアップにも変更できる。室内を広く使いたい場合にも有効だ。


 ちなみに重量は、本体とバッテリーパックで25kgぐらいになる。かなりガチ勢でなければ手を出せない代物だが、これが第3世代になるまで日本で支持されているわけである。


 ECOFLOWの自社調査によれば、ポータブルエアコンの利用者は約半分が1人車中泊、ペット同伴の車中泊も合わせれば、65%にも上る。


 車中泊でポータブルエアコンの需要が高いのは、1つはやはり車中の暑さ寒さは、テントとは違う対策が必要ということだろう。もう1つは、治安の問題である。テント泊の場合、それほど金目のものを持っている可能性もないので、盗難が起こったとしても盗まれるのは食料ぐらいだろう。だが長期の車中泊の場合は高価な装備や現金もあるだろうし、女性の場合は身体への危険もある。窓を閉めてロックして寝るという事情も大きいのだろう。


●「ポータブル冷蔵庫」の盛況から見えること


 「EcoFlow GLACIER Classic」はポータブル冷蔵庫としては第2世代となるが、今回は35L/45L/55Lの3サイズのシリーズ展開となった。1台で冷蔵、冷凍に使い分けができるが、45Lと55Lは2室あるので、それぞれを冷蔵と冷凍に分けて設定できる。35Lは一室しかないので、冷蔵か冷凍かどちらかを選ぶことになる。


 前モデルは天面にディスプレイと製氷機の開け口があったので、要するにフタが2つあるような作りだったが、今回は天板全体が1枚でフルフラットになっている。これはこの上が調理台になったりテーブル代わりになるようにという配慮である。またこのフタは、前側からでも後ろ側からでも開くように改良された。シャープの冷蔵庫のような、「どっちもドア」のような構造と言えば分かるだろうか。


 ポイントは、かなり低消費電力ということだ。専用の内蔵可能なバッテリーはそれほど大きくないが、35Lは最長43時間、45L/55Lは最長39時間使用できる。その他、ACやシガーソケット電源からでも駆動できるので、それらを組み合わせていけばかなりの長時間使用が可能だ。


 冷蔵庫は当然食品を入れるものだが、これだけの連続稼働時間が必要ということは、当然朝買い出ししたものを夜食べるというレベルではない。1度の買い出しで数日間は食料の追加買い出しせずに連泊するというレベルのキャンプ、あるいは車中泊が想定される。


 重量は35Lモデルが20.5kg、45Lモデルが23.2kg、55Lモデルが25.2kgとなっている。仮に55Lモデルの中身を食材や飲料で満杯にしたら、総重量は80kg近くになるだろう。食材が入った状態で積み降ろしするには、大人4人ぐらいいないと難しい。


 こちらもECOFLOWの自社調査によれば、ポータブル冷蔵庫の利用者は67%が車中泊やキャンプでの利用であり、およそ3割が防災・非常時対応となっている。


 GLACIER Classicは、執筆時点ではまだ価格が発表されていない。前作のGLACIERはすでに販売終了のアナウンスが出ているが、容量38Lで13万1560円であった。Classicの45Lや55Lは、それよりも高くなる可能性が高い。そうなるとやはり価格的にも、相当なガチ勢向けということになる。


 ガソリン車のオルタネータから電源を取ってポータブル電源にチャージするというところから始まり、エアコンや冷蔵・冷凍庫も動かしていくという流れである。ポータブル製品なので一般の同種製品より値が張るが、いわゆるキャンピングカーでなくてもこれだけの装備があれば、長期連泊でも不自由なく過ごせるだろう。数百万かけてキャンピングカーを購入するより、今ある車で出掛けられると考えれば、逆にコスパがいいという考え方もできる。


 キャンプと車中泊はどちらもアウトドアに分類されるが、似ているようで微妙に違う。キャンプは特定の場所での屋外生活が目的だが、車中泊の場合は旅や長距離移動そのものが目的となるケースが多い。キャンプより車中泊の方が、長期化には向いている。


 この背景には、一時のキャンプブームによって各地にオートキャンプ場が整備されたことや、車中泊というものが世間に広く認知され、ハードルが下がったことがあるだろう。


 かつてのブームではターゲットが広く浅くだったのに対し、現在は狭く深くなっている。長期オートキャンプの本場はアメリカだが、でっかいキャンピングカーで家電も一通り積んでるみたいなスケール感なのに対し、バッテリー技術を応用し、コンパクトで深いターゲットに刺さるアウトドア製品は、日本の方が芽があるということだろう。



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