
連続テレビ小説「あんぱん」の放送が3月31日から始まった。「あんぱん」は高知県出身のやなせたかし氏とその妻・暢(のぶ)をモデルに描いた物語。ドラマの放送に先立ち、やなせたかし氏ゆかりの地、高知県物部川(ものべがわ)エリアを舞台に、自然や食、歴史、文化を体感できる「ものべがわエリア観光博覧会 ものべすと」がスタートした。
白髪山を源流とし土佐湾に流れ込む延長71kmの物部川流域は山地が約9割を占め、日本の滝百選にも選ばれた「轟の滝」や「べふ峡」は紅葉の名所でも知られ、下流では天然のアユが上ってくる。物部川流域の豊かな自然は、林業や伝統的な染業をはじめ、ゆず、米、ショウガ、ニラなどの栽培に不可欠で、多様な鳥類や昆虫も生息。県内有数の野鳥観察スポットにもなっている。
観光博「ものべすと」は、南国市、香南市、香美市の3市で25年3月から26年2月にかけて開催。香美市のやなせたかし記念館や龍河洞、南国市の海洋堂Space Factoryなんこく、香南市の絵金蔵、土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線のあかおか駅をはじめとする観光・文化施設や交通機関などが、やなせたかし氏が故郷に残した思いと数々のキャラクターや詩、イラストでつながり、3市全体を盛り上げていくもの。「ものべすと」のオープニングイベントが3月29日・30日に3市でそれぞれ行われた。
■やなせたかし記念館がリニューアルオープン
「ものべすと」で必ず訪れたいのが、3月29日にリニューアルオープンした「やなせたかし記念館」。記念館は、やなせたかし氏の故郷で自然豊かな香美市香北町に位置し、アンパンマンミュージアム、詩とメルヘン絵本館、別館などで構成されている。アンパンマンミュージアムのエントランスは、開放感のある空間で天井から床までアンパンマンの世界が広がり、ミュージアムの地階にはアンパンマンたちが暮らす町を再現した巨大ジオラマなどもある。館内の移動は自由で、どのフロアから回っても大人から子どもまで楽しめる工夫がされている。
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記念館では、やなせたかし氏の特別展「ぼくと詩と絵と人生と」を9月28日まで開催。自筆作品が300点を超える過去最大の展示企画となっている。第一会場のアンパンマンミュージアム4階のギャラリーでは、長年にわたり描かれたアンパンマンの変遷を自筆の原画で紹介。第二会場の詩とメルヘン絵本館では、やなせ氏の作業机が再現されているほか、30年間編集長を務めた雑誌『詩とメルヘン』を全冊展示。表紙やイラストの不思議で優しい世界が待っている。第三会場の別館では、1966年発行の詩集『愛する歌』を中心とした詩を多数展示。優しく心に響く言葉の数々が、リズムに乗って伝わってくる不思議な感覚に包まれる。詩によって変わる字体にもメッセージが秘められているようだ。さらに、妻・暢(のぶ)さんを思い執筆した原稿用紙9枚にもわたる「オブちゃんありがとう」からは、二人の強い絆と深い愛が読み取れ、心が揺さぶられる。ドラマ「あんぱん」を見ている人も、これから見る人も、ぜひ読んでほしい。
■南国市、香南市、香美市の3市で「ものべすと」は盛り上がる
幕末の絵師「金蔵(通称、絵金)」が描いた芝居絵屏風が並ぶ、香南市・絵金蔵(えきんぐら)では、6月29日まで企画展「ごめん・なはり線キャラクターの由来を知ろう!」を開催。やなせたかし氏が考案した土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線のキャラクターの由来や地域の特産品をパネル展示。また絵金蔵では、7月第3土日に「土佐赤岡絵金祭り」が行われ、商店街に芝居絵屏風を展示。ろうそくに照らされた幻想的な世界が街中に広がる。
南国市の海洋堂Space Factoryなんこくでは、26年2月まで特別展「〜連続テレビ小説あんぱん〜のぶと嵩(たかし)のおらんく展」を開催。南国市はやなせ氏の伯父の家があり、やなせ氏が育った土地。特別展では、やなせ氏の人生に影響を与えたといわれる3匹のライオン「伯父の家にあった石造りのライオン」「就職した日本橋三越のシンボルのライオン像」「絵本作家として初めて出版したやさしいライオン」のほか、初公開となる自筆のイラストなどを展示。南国市の商店街にはキャラクターの石像やシャッターアートなどが並び、やなせたかしロードとして親しまれている。
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物部川エリアを訪れたら、各地の観光ガイドツアーへの参加がおススメ。「やなせたかし先生ゆかりの地 香北町さんぽ(香美市)」、「やなせたかしが育ったまちを知る ごめん・ありがとうコース(南国市)」では、やなせ氏を愛してやまないガイドと一緒に故郷ならではのエピソードを聞きながら、ゆかりの地を巡ることができる。ほかにも「赤岡町まちあるき(香南市)」「牧野博士ゆかりの「香北の自然公園」ガイドツアー(香美市)」など、テーマ別のツアーも。
物部川エリアは、高知龍馬空港からも高知市内からもアクセスが便利。年間を通じて、さまざまなイベントや祭りも行われる。うなぎ、どろめ(水揚げしたてのイワシの稚魚)をはじめ、季節のグルメもご賞味あれ。
■優しく響く言葉やメッセージに包まれた「ものべすと」
ものべすとのオープニングイベントに登壇した依光・香美市長は「南国市、香南市、香美市が協力して、やなせ先生のブームを巻き起こしていきたい。やなせ先生は、最後まで作品に対して情熱を持ち続けた方。香美市は探究のまちをスローガンにもしているため、生涯学び続けられる町づくりを進めていきたい」と観光博への期待を寄せた。
地域の人々は「子どものころから大切なメッセージを伝えてもらった」「心に響くたくさんの言葉を残してくれた」と、やなせたかし氏にそれぞれの思いを寄せる。残した詩やイラスト、キャラクターは多くの人を励まし、勇気づけている。そんな優しく響く言葉、生きる希望にあふれた作品の数々にみなさんも触れてみてほしい。
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高知県が誇る「牧野富太郎博士」と「やなせたかし氏」が次々と連続テレビ小説のモデルになったのを記念に、牧野植物園とやなせたかし記念館のお得な入場セット券も販売中。牧野植物園では、6月にかけて、ヤマアジサイや牧野博士ゆかりのヒメアジサイなど、さまざまなアジサイ属の植物が見ごろを迎える。また、絶滅危惧種ガンゼキランの大群落が、5月23日から30日までの間に限って、一般公開される。牧野植物園のガンゼキランは、2012年から株分けしながら植栽を続け、ようやく斜面の下から美しい大群落を見渡すことができるようになったという。絶滅危惧種ガンゼキランの大群落が鑑賞できるまたとない機会をお見逃しなく。18haを超える広大な自然の中に身を置く事で、植物の素晴らしさや、植物を守ることの大切さを改めて感じてみよう。
※やなせたかし記念館(アンパンマンミュージアム、詩とメルヘン館、別館)への入館は事前予約が必要。予約はやなせたかし記念館のウェブサイトから。
「人生は、よろこばせごっこ」、やなせたかし氏のこの言葉を胸に、「ものべすと」に関わる地域の人々は、多くの訪問客を迎える準備ができている。