「ボタン」は歴史と文化、技術が丸ごと詰まっている小さな芸術品 圧巻の8000点展示でも「コレクションの半分」と笑う収集家の一押しは

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2025年05月10日 12:00  まいどなニュース

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花や鳥が一つ一つ丁寧に手描きされた薩摩ボタン

小さなボタンが秘めた魅力を紹介する特別展示「ときめきのボタンたち」が5月18日まで岡山県立美術館(岡山市北区天神町)で開かれている。藍染め作家加藤喜代美さん(76)=岡山県赤磐市=のコレクションで、圧巻の約8千点が会場を彩っている。加藤さんは「ボタンは小さな芸術品。作られた時代の歴史と文化、技術が丸ごと詰まっているんです」と熱く“ボタン愛”を語る。

【写真】加藤さん一押しのリア・スタンさんのセルロイドボタン

白く輝きを放つシェル(貝)や細密な模様が施されたメタル(金属)、色とりどりのガラス。素材はもとより、ハート形やチョウ、リスなどの小動物を模した自在な形。展示会場に足を運ぶと、19〜20世紀に作られたさまざまなアンティークボタンたちが額の中で整然と並び、入場者を迎える。

欧州の歴史を感じさせるのが、繊細なデザインが目を引くブラックガラスボタン。イギリスのビクトリア女王が1861年に夫を亡くして以降、ずっと黒い衣装を身に着けていたことから庶民の間で流行したという。金属製の土台にベルベットの生地を貼ったフランスのパフュームボタンは、布地に香水を染み込ませて使うアイデア品。戦地へ行く男性に、女性が愛用の香りを付けて贈ったのだとか。

加藤さんのお気に入りは、フランス生まれのアクセサリーデザイナー、リア・スタンさんが手がけたシリーズ。セルロイドを何色も重ねた後でカットし、断層面の鮮やかな色彩と存在感のあるデザインを生みだした。短期間しか作られなかったため、コレクターの間でも人気が高いという。

「日本製」を逆輸入したものもある。陶製の薩摩ボタンは江戸時代末期、薩摩藩が軍資金を調達するために作って輸出した。わずか数センチの丸いボタンの中には、花や紅葉、七福神などが一点一点丁寧に手描きされ、当時の職人たちの細やかな仕事が光る。

加藤さんがボタン収集を始めたのは25年ほど前。岡山市の雑貨店で透明なガラスボタンが目に留まった。つまむとキラキラと輝き、あまりの美しさに「ときめいた」瞬間だった。以来、藍染めの作品展で海外を訪れた際、のみの市やアンティークショップを巡ったり、インターネットオークションで探したりしながら集めてきた。

夢中になったのが、凝った装飾やデザインが多い19〜20世紀の欧州のボタン。気が付くと膨大な量になり「整理が大変なの」とこぼしつつも「まだまだ持っていないものだらけ。種類が多くて集め出したらきりがないのよ。展示しているのもコレクションの半分でしかない」と加藤さんは笑う。

大規模なコレクション展は、2016年の神戸ファッション美術館(神戸市)以来2回目。前回展の際「ボタンの概念が変わった」「全部の写真を撮りました」といった来場者の反響を聞き、いつか岡山でも開きたいとの思いを温めていた。岡山県立美術館では19世紀末から20世紀初頭にかけてパリで花開いた文化を紹介する特別展「ベル・エポック 美しき時代」(5月18日まで)も開催中で、「同じ時代の流行や美意識をボタンからも感じてもらいたい。技術の発展や量産化の流れで、昔の手仕事がどんどん消えようとしている。すてきなボタンたちを後世に残していけたら」と願っている。

(まいどなニュース/山陽新聞)

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