消費税減税は物価高に苦しむ家計支援が目的、そのメリット、デメリットとは【播摩卓士の経済コラム】

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2025年05月10日 14:05  TBS NEWS DIG

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物価高への対策として、野党だけでなく与党内からも高まっている消費税減税論に対し、石破総理大臣が実施しない意向を固めたと報じられました。税金をめぐる議論には常にメリットとデメリットがあり、最後は、国民の「判断」の問題です。私なりに問題を整理してみました。

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「物価高対策」ではなく「家計支援」

減税の議論では、まず、「目的」をはっきりさせることが重要です。「物価高対策」という表現が一般的に使われていますが、私は、消費税減税を「物価高対策」と呼ぶのは正確ではないと考えています。

「物価高対策」とは、「物価を抑える」政策です。ガソリンや電気・ガス代に補助金を出したり、公定価格を引き下げたりすることが「物価高対策」になります。確かに食料品の消費税を一時的にゼロにすれば、名目価格は8%分下がりますが、それは1回限りのことで、1年経てば、インフレ率への効果はなくなります。

むしろ、減税であれ、給付金であれ、大型財政出動によって、需要を刺激すれば、むしろ物価押し上げ効果も持つことにもなります。従って、消費税減税を「物価高対策」と呼ぶのは適切ではありません。

消費税減税は、賃金が物価に追いつかない、つまり実質所得のマイナスが続く中で、家計の負担を減らすことが目的です。家計支援によって、消費の失速や景気後退を避け、需要を下支え、創出することが目的なのです。その意味では、「家計支援」、「需要創出」が、今必要かどうかが、まず議論されるべきでしょう。

今、家計支援が必要な時か

想定以上のインフレが続き、世帯によっては困窮の度が増していることや、今後、トランプ関税政策の影響で、需要の減退が顕著になって、経済成長が押し下げられる事態になることを想定すれば、何らかの対策が必要だと言う考え方には一理あると言えるでしょう。

ただ、コロナ禍のように一気に需要が喪失するような状況とは少し違っているのではないでしょうか。まず、現状と目的の共通認識が必要なように思います。

仮に今すぐ、「家計支援」、「需要創出」が必要だとして、それには、いくつか選択肢があります。現金給付や、昨年度行われた所得税減税(定額減税)、そして今議論されている消費税減税などです。財政が出動して家計に直接働きかけると言う意味では同じですが、それぞれに一長一短があります。

消費税減税のメリットとは

では、消費税減税が優れているのは、どういう点でしょうか。

まず挙げられるのは、消費をするすべての人、事実上、すべての国民に恩恵が及ぶ点です。所得税減税は所得税を払っていない人などには恩恵が及ばないので、別途、給付金を考える必要がありますが、消費税減税にはそうした必要がありません。所得制限もありません。消費額に応じて減税されるのですから、ある意味、「公平」です。

次に、需要創出の効果が大きいことです。給付金や所得税減税では、一部が貯蓄に回ってしまい、すべて消費されるわけではありません。しかし、消費税減税は、消費しなければ、そもそも発生しない減税ですので、需要創出の乗数効果が極めて高いのです。もちろん消費税減税に見合うお金を貯蓄に回すことは、理屈としてはあり得ますが、消費税減税でお得になった分、余分に購入したり、少し贅沢をしたりというように、消費が増える方が、消費者の感覚に近いのではないでしょうか。

また消費税が元々、逆進性の強い税制、つまり低所得者には相対的に負担が重い税制なので、消費税減税によって、その逆進性を緩和することは、中低所得者の家計支援という理にかなっていると、言えるのではないでしょうか。

消費税減税のデメリットは

その一方、消費税減税の難しさは、これまでも度々指摘されている通りです。

まず、財源の大きさでしょう。今や、消費税は基幹3税(所得税、法人税、消費税)の中で最大の税目です。食料品の軽減税率をゼロにすると、1年で5兆円です。恒久減税となれば、やはり5兆円分の財源を見つけなくてはなりません。

そこで、家計支援や需要創出が必要な時期だけ時限で、と言う話が出てくるのですが、いったん引き下げた税率を、1〜2年後に再び上げることには、相当の政治的困難が伴います。ガソリンの補助金さえ打ち切れないのに、例えば、食料品の消費税率をゼロから8%に上げることなど、現実的には、ほとんど不可能なような気がします。

また、すべての国民が対象になるということは、高所得者にも家計支援が行われると言うことになるので、焦点が絞り切れていないと言った批判もあるかもしれません。

さらに税率変更には、レジや企業会計のシステム変更など、相当の準備期間とコストがかかります。税率変更に伴う、買い控えや買いだめと言った反動もそれなりにあって、実体経済のかく乱要因になり得るでしょう。

税制改革の中で消費税の位置づけを

こうして見てみると、消費税の見直しは、短期的な経済対策として行うよりは、税制全体の改革の中で、改めて位置づけを考える方が適しているように、私には思えます。インフレ時代の到来や、格差拡大が加速する中で、例えば、食料品の8%が高過ぎはしないのか、所得税とのバランスで適当なのか、といった点は、大いに議論されるべきでしょう。もちろん、緊急性の高い、経済対策として今、議論すべきだと言う考え方もあり得るでしょう。

いずれにせよ、以上のような、メリットとデメリットを勘案した上で、各政党がそれぞれの提案を行い、最終的には、国民が「判断」すべき課題だということになります。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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