直撃取材に対し、足早に去る詐欺師。この後、周囲には海外逃亡を示唆したという 色恋を餌に、言葉巧みに金品を引っ張る――。「いただき女子」りりちゃんによってマニュアル化された“錬金術”は、若い女性の専売特許ではなかった。60代、詐欺を重ねてきた男が年下女性からカネを巻き上げた、その手口とは?
◆人気のマッチングアプリで妙齢の女性を探す詐欺師
JR新宿駅近くの喫茶店。煙草の煙が充満する店内に、男は悠然と座っていた。
ストライプのシャツにジャケットを羽織った男に記者が名刺を渡し要件を告げると、態度は一変。伝票を掴むや出口へと突進し、捨て台詞を吐いた。
「こんなところでお前に話すことはないっ! 金なら返す! 今はこれしかないっ!」
そう言うと1万円札を出し、釣り銭を受け取ると足早に店を去った。4月某日のことだ。
男の正体は、資産数十億円を自称し、妙齢の女性を相手にマッチングアプリで詐欺行為を繰り返す人物だ。SPA!取材班は、男の“毒牙”にかかってしまった女性に接触。その手口を聞いた。
◆「応援するし、出資もする」会ったその日に本気モード
「自分の貯金を丸ごと。親からも借りて、総額800万円を騙し取られました。悔しくて仕方ありません」
手を震わせ詐欺被害を訴えるのは、都内の美容クリニックで看護師として働く西村梨沙子さん(仮名・46歳)。彼女が詐欺師と出会ったのは、累計会員数2000万人を誇る人気マッチングアプリだ。
「相手は60代で年齢は結構いってたけど若々しい雰囲気で、文面も丁寧。何より経済的に裕福そうな雰囲気に惹かれました。初顔合わせは帝国ホテルのラウンジ。シンガポールに20億円の資産があると聞き、ラフな服装も本物のお金持ちだからと思ってしまった」
富豪との出会いに、舞い上がってしまったという西村さん。だが、その心理状態は詐欺師にだだ漏れだった。「コンサル会社会長」を自称する詐欺師は、言葉巧みに西村さんを誘導し始めたのだ。
「将来の夢を聞かれたので、私がダイエットビジネスをやりたいと話すと、『全力で応援するし、出資もする』と言ってくれて。500万円を即決してくれたんです。同時に『大好き』『魅力的な女性で活力をもらえる』なんて口説かれて、私は富豪に見初められたんだと勘違いさせられてしまった」
出資するはずの500万円は西村さんの手に渡るどころか、逆に“立て替え”を頻繁に頼まれるようになった。
「彼の会社が新規事業を立ち上げるのに保証金が必要で、国際送金の都合で立て替えてほしいとか、ホテルの宿泊費とか……。『あとで返す』と自信たっぷりに言うので疑う気持ちは芽生えませんでした。機嫌を損ねちゃいけない、関係を悪くしてはいけない一心でお金は用立てました」
リターンをにおわせ、性愛も金品も貪る。この「いただき」の手口に気づくには、西村さんはあまりに無知だった。
◆何げない会話から資産や悩み事を察する“熟練の技”
悲劇はここで終わらない。利に聡い詐欺師は、西村さんが潮時と察するや、その周辺にまで触手を伸ばしたのだ。
標的にされたのは、西村さんの友人で専業主婦の竹林裕美さん(仮名・50歳)。彼女に話を聞くことができた。
「デート中の西村さんから連絡があり、3人でお茶をしたんです。『どんな暮らしをしてるの?』なんて何げない会話を振られて、専業主婦であること、母の介護を見据えて新居を探していることなど、余計なことを話してしまった。すると、『不動産事業も手がけているから僕が力になる』と言われて。私が不動産の知識がないことは、この時点で見透かされてましたね」
親切な振る舞いにすっかり心を許した竹林さん。ここから大金を詐取されるのに、そう時間はかからなかった。
◆実母の老後資金2700万円を吸い取られた
「賃貸契約なのに、『いい物件が出たから手付金を払わないと』などと言われて。さらに、私が海外旅行中に母親に会いに行ったりされて、自分がいないところで現金を渡させたり。総額2700万円です。これは私が管理を任されていた母の老後資金なんです……。しかも後で聞いたら、この中から西村さんに200万円ほど返金していたこともわかり、人間不信に陥ってます」
途方もない金額を奪われ、意気消沈する竹林さん。詐欺師について調べていくと、男は名字を変えており、結婚詐欺で逮捕された過去があることも判明した。
そんな竹林さんが詐欺師と会うというので、記者も同行したのが冒頭のくだりだ。前述の通り、男は「返せない」の一点張りで、質問を遮る形でその場を去った。
その後ろ姿は、富裕層の余裕も会長職の威厳もなく、ただただみすぼらしかった。
◆なぜ40、50代は詐欺に引っかかるのか?
アプリに巣くう詐欺師に、いとも簡単に騙されてしまう女性たち。ネットのトラブルに詳しい弁護士の清水祐太郎氏は、詐欺の温床と化している状況に警鐘を鳴らす。
「私の事務所にも、週に数件マッチングアプリ関連の相談があり、年々増加し続けています。その多くが投資、副業、マルチ商法の詐欺。結婚をチラつかせる古典的なロマンス詐欺も健在です。被害者は40、50代が中心で、被害額は数百万円から2000万円ほどが多い印象ですが、返金を含めた解決は正直難しいのが現状。
そもそも出会いを求めているはずのマッチングアプリで、相手から『儲かる話がある』などお金の話が出たら、その時点で疑って然るべき。『口座凍結を解除しなければならないから送金してほしい』というのも、詐欺の常套手段です」
◆国内の口座なら凍結ハードルは低い!
被害に気がついたら、まず証拠保全すべきだ。
「やり取りのスクリーンショットや振り込み明細、プロフィール写真など、相手の特定につながる情報はすべて残しておくこと。昨今、詐欺は組織犯罪があまりにも多く、警察も人手不足。証拠が乏しいとなかなか捜査に着手してもらえません。また、どうしても最初に『お金を返して!』と言いがちですが、民事不介入で弁護士に相談するよう追い返されます。『返金よりも処罰を強く望む』と訴えるほうが、捜査には繋がりやすくなります」
大金を巻き上げられても多くが泣き寝入りしているとは、あまりにもやり切れない。
「警察と弁護士に相談した上でですが、詐欺が疑われる事案の場合、日本の銀行であれば比較的すぐに振込先の口座を凍結することは可能です。詐欺師本人と接触する機会が多いロマンス詐欺は、身元を特定しやすい。私が担当した事案でも、逮捕に至り、少しですが返金されたケースもあります。被害から早ければ早いほど解決しやすくなりますから、諦めないでください」
覆水盆に返らず、と諦めがちだが、やれる手立てはすべて打つべきなのだ。
【弁護士・清水祐太郎氏】
グラディアトル法律事務所新潟オフィス代表。離婚、労働、相続から誹謗中傷などのネットトラブル、詐欺被害を含む債権回収に注力
取材・文・撮影/週刊SPA!編集部
―[婚活女性を狙う[いただき爺さん]って何者?]―