「怖いままでも空は綺麗だ」暴行のトラウマを抱える女性とネグレクトの少年、夕焼けの絶景が教えてくれた…2人が分かち合った“ささやかな救い”の物語【漫画】

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2025年05月11日 11:50  まいどなニュース

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誘われた公園で、絶景の夕焼けを見た主人公の「私」は… ©️芳野嗣/講談社

生きているなかで嫌な出来事に遭遇すれば、それがトラウマとなっていつまでも記憶に残り続けることもあるでしょう。しかし、そういったトラウマは人との出会いによってやわらぐ場合もあるかもしれません。「アフタヌーン」主催の漫画家に向けた新人賞「2024秋 四季賞」を受賞した読切作品『木漏れ日の針』(作:芳野嗣)は、安アパートに住む主人公の女性とネグレクトを受ける隣人の息子が出会い、それぞれがお互いの苦悩に向き合う様子が描かれた一作です。X(旧Twitter)にポストされると、約8000もの「いいね」が寄せられています。

【漫画】「木漏れ日の針」全編を読む

学生だった「私」は、美しい木漏れ日が差し込む学校の裏手にある小さな雑木林で、男性たちに性的暴行を受けた経験がありました。そして、27歳になった私。勤めていた会社を辞めて3年目、水商売にも疲れ果てて安アパートに引っ越してきたのでした。

ある日、コンビニで買い物を済ませてアパートに戻ってくると、隣人の制服を着た息子が扉の前で座り込んでおり、彼は「うちの鍵失くしちゃって」と言います。私は「そうなんですね…」と言葉を返したところ、「なんでガキに敬語?」「どうもありがとで〜す」と返答する隣人の息子。私は、すぐさま「ニガテなタイプだ」と感じるのでした。

その晩、部屋の壁が薄いこともあり、私は隣人の息子が父親に暴力を振るわれていることを察します。同時に学生の頃の嫌な記憶を思い出し、嘔吐してしまう私。父の暴行が収まると、隣人の異変に気づいた息子が「おねーさん大丈夫?」と声をかけます。そして、壁越しで会話を重ね、私と息子は翌日に改めて会うことになりました。

翌日、アパートの前で落ち合う2人。息子は彼女を警戒していたものの、私が“ただ、ご飯を奢りたいだけ”と知ると、彼女の言葉に甘えてファミレスに。さらに会話を重ねて彼女に下心がないと察した息子は、帰り道にアイスをねだります。

私がコンビニでチューブ型のアイスを買ってあげると、その半分を差し出す息子。そして、「空がさあ」「めっちゃ綺麗なんだよね」と言って公園に誘います。さらに公園のすべり台にのぼり、そこから空を眺める2人。そこには彼の言う通り、絶景の夕焼けが広がっていたのでした。

私は学生時代に好きだった小さな雑木林の木漏れ日を思い出し、涙を流してしまいます。続けて息子に自身の暴行された過去を語って「大人なのにヤバいね こんなに泣いたりしちゃって」と語る私。そんな彼女の様子に、息子は「ヤバいとダメなの」「いいじゃん 今日アイス美味かったよ」と話し、さらに自論を語ったあと「憂鬱じゃなくてもいいかもって あんたが空を綺麗だって言ってくれて思った」「怖いままでもアイスは美味しいし、空は綺麗だ」と続けました。

次の日、私は彼の名前を聞こうと思うも、そのまま再会することなく隣の部屋は空室に。それから4年後、偶然にも私と息子は再会。それをきっかけに、息子は月に1度の頻度で私が働く美容院に来るようになりました。

ある日、いつものように私が息子の髪をカットしていると、彼は「俺みたいなやつが こんな洒落た店に来てんの変じゃない?」と尋ねます。そして、私は昔の彼の姿を思い出しながらも、「変じゃないよ」「寝起きしてれば 髪の毛くらい伸びるもん」と応えるのでした。

読者からは「ただ暗いだけじゃなくて希望のある話」「考えさせられる作品だった」などの反響が。そこで作者である芳野さんに、同作について話を聞きました。

―同作を描いたきっかけを教えてください。

元は連載作品の企画を考えていた時に出たアイデアで、疲れた人が食べることを通じて生きる気力を取り戻していくご飯モノでした!

―同作の中で特にお気に入りの場面があれば、ぜひ理由と一緒にぜひお聞かせください。

見開きの夕陽を見るシーンが好きです。特に葉っぱの光に透ける様子が丁寧に美しく描けたので、作品のテーマに合っているシーンになりました!

―話が変わって恐縮ですが、新作『綺麗な君に殺されたい。』の作画を担当していますが、原作担当と作画の2人で分担している際の大変なこと、特に意識していることを教えてください。

いただいた原作プロットから受け取った魅力を、漫画という形に翻訳していく作業が大変でもあり、楽しい部分でもあります。特に意識していることは、キャラクターの顔の美しさです。美貌が特徴のキャラが出てくるので、パーツのバランスに気を使っています!

―読者に向けてメッセージをお願いいたします。

読者の皆さまに読んでいただくことで初めて、漫画が作品として息づくと思います。本当にありがとうございます!

(海川 まこと/漫画収集家)

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