【漫画】読者からのファンレター、なぜ読めなくなった? 適応障害の悩みを綴る実体験エッセイが話題

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2025年05月17日 07:00  リアルサウンド

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『適応障害と診断されたBL漫画家、読者さんのお手紙が読めなくなってしまいました。』(ミナモトカズキ)

 エッセイ漫画にはさまざまな切り口があるが、特に作者の辛い体験を題材にした作品を読むと、不思議と誰かに優しくしたくなる。


 商業漫画家として活躍するミナモトカズキさん(@minamotokazuki)の実体験に基づいて制作され、Xにて3月下旬に投稿されたエッセイ漫画『適応障害と診断されたBL漫画家、読者さんのお手紙が読めなくなってしまいました。』は、適応障害に苦しむ人の辛さ、誰かを応援することの素晴らしさを感じられる、読み応え十分な作品だ。


 クリエイターがいかに応援している人に支えられているか、応援の声の大事さに改めて気づかせてくれる本作。その誕生の背景について、話を伺った。(望月悠木)


参考:【漫画】『適応障害と診断されたBL漫画家、読者さんのお手紙が読めなくなってしまいました。』を読む


◼︎ファンレターが読めず感じた、読者への罪悪感


――本作を制作したキッカケは?


ミナモト:読者さんにずっと嘘をついているような感覚で、申し訳ない気持ちでいっぱいだったので、心身の状態が良くなってきたタイミングで描こうと決心しました。ただ、適応障害という診断を受けたことは、周囲の人にもほとんど話していなかったため、決心してから形にするまでは半年くらいかかってしまいました。


――本作は完全な実話ということで良いのですか?


ミナモト:完全な実話です。エッセイ漫画を描く時は、嘘偽りなく、100%本当のことを描くと決めているので。


――ちなみにエッセイ漫画とオリジナルストーリーの漫画を描くうえで、違いはどういったところにありますか?


ミナモト:エッセイ漫画は自分自身とひたすら対峙して描かないといけないので、精神的には結構削られます。自分の嫌いな部分やダメな部分とも四六時中向き合うなんて、普通はしたくないことだと思いますし(笑)。一方、オリジナルストーリーはそういう意味での苦しさは少ないです。とはいえ、登場するキャラたちが悩み苦しんでいると、結局自分も共感して一緒に悩んだりもするので、実は遠からず近からずなのかもしれません。


――完全な実話であれば、「ファンレターと向き合えなかった過去」など、つらい経験を思い出す必要があり、制作は相当大変だったのではないでしょうか。


ミナモト:「読者さんに悪いことをしてしまっていた」という罪悪感がすごかったので、やっぱり当時のことを細かく思い出すのはとても苦しかったです。でも同時に、「こんなに苦しくなるくらい、自分にとって読者さんは傷つけたくない大切な存在なんだ」と改めて実感できたので、とても有意義な時間でした。


――改めて、完成した時の心境を教えてください。


ミナモト:作品が仕上がった時は「どう思われるかな」「余計傷つけてしまったり、重荷を背負わせてしまったりするかな」と不安な気持ちがありました。ただ、読者のみなさんがあまりにも温かい反応をしてくれたので、結局こちらがたくさん励まされて元気をもらいました。


――前向きな気持ちになれたのですね。


ミナモト:はい。適応障害とは今も付き合い続けていますが、オープンにしたことでかなり気持ちが楽になって、生きやすくなりました。改めて受け入れてくれたみなさんに感謝してもしきれません。


◼︎好きなものの力はすごい


――「ミュージカルにハマったことで心が軽くなった」と作中で描かれていました。「ミナモトさんの作品で心が軽くなった」という読者も多くいるかと思いますが、今回の経験を経て、漫画家としての心境に変化はありましたか?


ミナモト:「好きなものの力ってすごいんだな」と強く感じた出来事でした。自分がミュージカルに救われたように、自分の描く作品で救われたり元気になったりしてくれる人がいるなら、これ以上幸せなことはありません。これからも全力で正直に、漫画にも読者さんにも向き合っていこうと改めて思いました。


――また、本作は2025年3月23日に開催された同人誌即売会「J.GARDEN57(J庭57)」でも出展されたそうですね。J庭57に参加された際、印象に残っている出来事などはありますか?


ミナモト:「こういう漫画を描いた後だと、読者さんにも気を遣わせてしまうんじゃないかな」と緊張しながらの参加だったのですが、みなさんいい意味でいつも通りな雰囲気で来てくれました。おかげで自分でも驚くほど1日気持ちが安定していて、終始笑顔でいられました。ただ、自分のそんな姿を見てホッとして泣いてくれる人もいて、「温かい読者さんに囲まれて、自分は幸せ者だな」と感謝してもしきれない1日でした。


――可能な範囲で構いませんので、適応障害と診断された際の心境も教えてください。


ミナモト:適応障害と診断されたことで、むしろ気持ちはかなり楽になりました。心身の不調がずっと続いていて、人間ドックに行っても原因がわからず不安な日々だったので、しっかりと名前をつけてもらえたことにホッとしたのを覚えています。


――最後に、今後の漫画制作の展望について教えてください。


ミナモト:実は今年中には、適応障害と向き合った日々のエッセイ漫画を、商業のほうでも連載として描かせていただく予定です。診断される前、診断された後、さまざまなことがあったので、より深く赤裸々に描くつもりです。同じように悩んでいる人の支えになれたら嬉しいですし、少しでもこの症状について知ってもらえるキッカケになれたらと思っています。


(文・取材=望月悠木)



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