【大学駅伝】駒澤大・藤田監督「課題は3年生以下」 関東インカレを終えた新チームは「このままじゃいけない」

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2025年05月20日 07:20  webスポルティーバ

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【関東インカレはやや物足りない結果に】

「今回の関カレは、昨年よりはちょっといいかなという感じですね」

 関東インカレ(関東学生対校選手権、5月8日〜11日)終了後、駒澤大の藤田敦史監督は落ち着いた声で、そう言った。

 昨年の関東インカレで、2部の駒大は5000mで桑田駿介(当時1年)が5位入賞を果たしたが、10000m、ハーフマラソンは入賞者ゼロ。「これはさすがにまずい」と、当時主将だった篠原倖太朗(現・富士通)は危機感を覚え、夏は「Ggoat」(駒大の大八木弘明総監督が指導するチーム)の海外合宿ではなく、チームの夏合宿に帯同することを決めた。

 藤田監督も「このままじゃ(箱根の)優勝争いは厳しい」と危機感を露わにしていた。だが、夏合宿でチームが引き締まり、2年生が台頭し、3大駅伝(出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝)ですべて2位という結果を残した。

 今季は、昨年活躍した2年生が3年生になってさらに成長し、キャプテンの山川拓馬(4年)もロードでの強さを見せてくれるだろう。そんな期待感にあふれていたが、滑り出しの関東インカレはやや物足りない結果に終わった。

「ハーフで帰山(侑大、4年)が勝ってくれたので、それは非常によかったですし、3000m障害で(牟田)颯太(1年)が(5位)入賞してくれたのは、今後に向けて明るい兆しが見えたかなと思います。でも、5000mと10000mですよね。もっと戦いたかったですし、ハーフも山川に勝ってほしかったのですが......」(藤田監督)

 5000mは篠和真(1年)と牟田凜太(1年)が出場。篠は熱中症の疑いで途中棄権し、牟田は16位。10000mは安原海晴(3年)が17位とふるわなかった。ハーフは山川が終始先頭集団で走り、優勝への気迫を見せた。だが、周回コースのラスト1周で國學院大の高山豪起(4年)が仕掛けたのに対し、帰山は反応して逆に高山を突き放しにかかったが、山川はついていけなかった(結果は4位)。

「山川は、箱根、(2月の)丸亀国際ハーフ、(3月の)EXPO駅伝と大外しはしていないんですけど、もうひとつというレースが続いていました。この関東インカレは勝ちきるレースをしないと、周囲から『山川、大したことないよね』と言われてしまう。だから、このハーフに集中して合わせてきましたけど、自分自身をコントロールできなかったですね」(藤田監督)

 山川は途中で腹痛が起きたというが、藤田監督が指摘したのは、その時の対応であり、レースの持っていき方だった。

「強い選手はどんな状況においても冷静に戦えると思うんです。2020年の東京マラソンで大迫(傑)君は差し込みで先頭集団から1回下がったあと、盛り返し、日本記録を出しました。その時のように、レース中に何か起きた際に自分でコントロールしていかないと、勝てないですよ。

 山川はキャプテンになり、そのプレッシャーがあるでしょうし、自分が引っ張っていかないといけないという気持ちも強い。私もそれを重々理解していますけど、彼に求めるところは高い。その高みに届いてほしいなって思うので、厳しいことを言うんですけどね」

【帰山がすばらしい走りを見せてハーフ優勝】

 4位でゴールした山川は、脇腹を押さえていた。その後、待機所に戻って休むのかと思ったが、「いくぞ」と周囲に声をかけ、60分間走をやるために飛び出していった。ハーフのレースを走り終えたばかりなのに大丈夫かと筆者は驚いたが、戻ってきたあと、具合が悪化し、病院に向かった。

「ハーフで勝てなくて悔しい気持ちはわかるんですが、それでどんどん自分を追い込んで、制御できなくなってしまう。とにかくやりすぎてしまうんですよ。私が休めといっても聞かないんです。そういう気の強さがあるから、昨年の全日本のような走りができるんですけど。でも、それは諸刃の剣で、いい時はいいですけど、ダメな時はとことんダメになってしまう。このままでは潰れてしまうので、山川はちょっと休ませます」(藤田監督)

 山川の「自分がやらないと」という気持ちは、痛いほど伝わってくる。だが、藤田監督が言うように休養も競技者にとっては練習と同じぐらい重要だ。疲労を抜いて、リフレッシュしてレースの舞台に戻ってきてほしい。

 一方、その山川と同じ4年の帰山はハーフですばらしい走りを見せた。関東インカレの2週間ほど前に行なわれた日本学生個人選手権10000mではコンディションがよくなく、10位に終わった。その後も調子が上がらす、最後の調整も体が重かったという。

「正直、レースの前の週の練習もタレてしまって、監督からも『精一杯やっていこう』と、なんか慰めてもらうぐらいの感じでした。たぶん、誰も期待していなかったと思うんですけど、心のなかでは絶対にやってやろうと思っていました。そうしたら意外と走れて(笑)。高山君がラスト1周で仕掛けてきて、ふたりきりになったところで、自分はまだ余裕がありました。予定より少し早めに仕掛けた形になったんですけど、うまくいってよかったです」(帰山)

 チームメイトで同学年の伊藤蒼唯が学生個人選手権の10000mで優勝したことについては、うれしさ半分、悔しさ半分だった。

「仲間とはいえ、やっぱりライバルなので、いい記録を出されると悔しいですし、自分も負けていられないと思います。山川に対しても同じです。ただ、山川はキャプテンになってすごくやる気を出して、いろいろ考えてやってくれているので、チームという部分では山川を自分らが支えていきたいと思います」(帰山)

 帰山の走りには、藤田監督も満足そうな笑みを見せてこう語った。

「学生個人選手権から準備期間が足りないなか、今回、優勝ですからね。あのスパートも一瞬で相手を突き放したので、力がついてきたと思います。帰山を含め、伊藤、(佐藤)圭汰、山川と4年生は強いですし、メンツが揃っていますが、(チーム全体として見ると)今のところ彼らだけですからね。課題はその下の学年です」

 昨年、鈴木芽吹(現・トヨタ自動車)ら強い選手が抜けたあと、選手層が薄くなり、苦戦必至と言われた駒大が3大駅伝すべて2位になるなど、ある程度戦うことができたのは、1年生と2年生が駅伝シーズンにグッと力を上げてきたからだ。

 実際、箱根駅伝では、往路で谷中晴(当時1年)が3区6位、桑田が4区4位、復路では安原が8区4位、村上響(当時2年)が9区5位、小山翔也(当時2年)が10区2位と、1、2年生が好走し、6区2位の伊藤や7区1位の佐藤の活躍もあり、復路優勝を果たした。だが、今季、彼らの走りからは、昨年ほどの勢いは感じられない。

「やっぱり2、3年生が出てこないといけません。(青山学院大の)安島(莉玖)君(2年)が(関東インカレの男子2部10000mで)日本人トップを取りましたが、あの気迫ですよね。これを外したらもう使ってもらえないという危機感が青学大の厳しい競争の表れです。それが、ウチにはまだない。特に3年生は、箱根を1回走って満足しているわけじゃないと思うんですけど、のんびりした雰囲気を見ていると、緊張感や危機感を持っているのかなと思いますね」(藤田監督)

【青学大や國學院大はまんべんなく選手がいる】

 10000mに出場した3年の安原は序盤から先頭集団に絡めなかった。昨年、5000mで5位入賞した桑田も今季はレースで結果が出ておらず、メンタル的に少し落ちているのか、浮かない表情に見えた。

 帰山も危機感を口にする。

「ケガ人が多くて、チームとしてまだまとまっていません。後輩たちも結果が出ていないので、このままじゃいけないという危機感があります。僕ら4年生ががんばっている姿を見せることで、後輩に少しでも刺激を与えることができればと考えていますが、彼らがどれだけ本気になって競技に向かうことができるかですね」

 藤田監督は、他校との差について「青学大や國學院大は、まんべんなく選手がいるので今季も強い。選手層ではウチはまだまだ足りていない」と語る。ただ、帰山以外、まったく光明がなかったわけではない。

 牟田兄弟の双子の兄・颯太が今季、3000m障害の練習をしていないなかで5位入賞を果たした。本人は箱根も視野に入れており、「5区を走りたいです。3000障害やクロスカントリーとか、過酷なコースが得意なので、コンスタントに結果を残していって山を上りたい」と、やる気をみなぎらせていた。

 弟の凜太は5000mでフレッシュな走りを見せた。1000m通過の時点でこれまで自分が経験したことのない速いペースに驚き、自重してしまった感もあるが、「今後は留学生や日本人トップについていけるようにがんばりたいです」と語る。高校生だった昨年は貧血に苦しんだが、今は問題なく走れており、箱根も視野に入れ、「兄の颯太が5区(希望)なら自分は山下り(6区)にいきたいです。(前回区間2位の)伊藤さんに挑みます。ものすごく高い壁ですけど、あきらめずにしっかり戦っていきたいと思います」と、闘争心が湯気のように立ち昇っていた。

 関東インカレ終了直後のミーティングでは、藤田監督やコーチの話を皆、静かに聞いていたが、ふたりは何度も大きくうなずき、成長のためにはちょっとした言葉も聞き逃さないという貪欲さが垣間見えた。

 1年生の勢いが上の学年を刺激することはよくあるが、駒大は上級生が下級生を引っ張り、駅伝はこう走るんだというのを見せて結果を出してきた。チームの目標である3冠達成には今後、2、3年生の奮起が必須になるが、はたして......。

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