写真 新生サブウェイは成功するのか?
食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、食トレンド、スーパーマーケットやスタバ、ダイエットフード、食育などの情報を“食の専門家”として日々発信しています
2024年10月にワタミがサブウェイを買収したニュースを覚えていますか? 改めて整理をすると、ワタミ株式会社(本社:東京都大田区、以下ワタミ)の子会社であるWATAMI FAST CASUAL MANAGEMENT合同会社がサブウェイの日本法人を買収。契約期間は10年間で、日本においてサブウェイを独占的に展開することになりました。
◆10年間でサブウェイ店舗数を6倍にすると発表!
さらに同社はこの発表の翌月に、10年間で店舗数を現在(約180店)の6倍に増やす構想を発表したのです。えっ、6倍? 数字の計算をすると1000店を超えるということ。これはサイゼリヤ(1038店)やドトール(1286店)の規模感になるということを意味しているのです。
おいおい、さすがにそれはないだろ! と思う人もいるかもしれませんが、イメージだけで言い切ることはできません。サブウェイ歴30年の私は正直なところ、この時代にワタミは最高の買い物をしたと思ったほどです。
そこで今回は、現状のサブウェイのサンドイッチを実食しながら、10年6倍構想は本当に成功するのか? 成功のカギはどこにあるのか? について、大躍進を続ける韓国サブウェイの事例を交えながら考えていきたいと思います。
◆1965年にアメリカで誕生。創業者は当時17歳
サブウェイの誕生は、1965年。アメリカコネチカット州で、当時17歳のフレッド・デルーカが大学進学の学費を稼ぐために対面スタイルのサンドイッチ店をスタートさせたのがはじまりです。
日本には1992年に上陸し、2016年までサントリーHDが運営。2014年には500店近くにまで拡大していたしていたものの、その後は低迷し現在は約180店(2025年2月時点)にまで縮小してしまいました。
しかしながらサブウェイを世界規模で見ていくと100か国以上で約3万7000店を展開。なんと、マクドナルドに次ぐ世界2位の飲食店チェーンなのです。つまり日本では不本意な状況に甘んじているのかも……。
飲食業界におけるファストカジュアル化、さらなる健康志向、野菜をもっと食べようという機運の高まり、同ジャンルにおけるライバル不在など、野菜たっぷりな作りたてサンドイッチを看板商品とするサブウェイには追い風ばかりのように思えてなりません。
つまりやり方次第でかなりの成長が期待でき、ワタミが掲げる10年で6倍という数字は決して夢物語ではないのかもしれません。それでは現段階において、日本のサブウェイには何が足りていないのでしょうか? サンドイッチを実食しながら考察を進めていくことにしましょう。
◆日本サブウェイのサンドイッチは、“ファストフードの優等生”
期間限定の新作「えびめんたいマヨたま」(590円)に野菜多め、アボカドトッピング(150円)をカスタマイズして食べてみました(※誤解のないように言えば、この商品はワタミ体制で生まれたものではありません)。
えびとアボカドの組み合わせは過去に大ヒットしたエビアボカドの世界観。そこに明太マヨソースとたまごサラダが加わり、お世辞抜きにおいしいではないですか! 野菜の食べ応えやヘルシーさを実感できるだけでなく、全体として日本らしい味わいまでしっかり堪能できるようになっています。
そんなこんなで素直に心酔していたのですが、そこで私は気がつきました。日本サブウェイのサンドイッチは“ファストフードの優等生”なのだということを……。そして同時に、海外におけるサブウェイのメニューと比較して、ある確信を持ったのです。
◆大躍進中の韓国サブウェイの魅力とは
韓国のサブウェイを見てみましょう。実は韓国では絶好調。日本の4分の1という国土の狭い韓国において、店舗数が500店をはるかに超えているのです。
10年前は100店ほどだったことからも、大躍進を遂げていると言って間違いありません。また、韓国ドラマにサブウェイがたびたび登場することなどからも、存在感の強さは想像できるでしょう。
人気の理由はサンドイッチをみれば一目瞭然です。例えば、「プルドポークバーベキュー」。家庭やコンビニではなかなか食べられないようなごちそう肉“プルドポーク”が主役になり、チーズのシズル感がサンドイッチ全体の魅力を引き立てています。
もう一つ見てみましょう。「ビーフ&マッシュルーム」は牛肉だけでなくマッシュルームなどのきのこがたっぷり乗り、罪悪感フリーな食欲のツボを押してくれています。焼いたきのこが乗っているって、テンション上がりますよね。もちろんチーズもしっかり入っています。
つまり韓国サブウェイでは、ワクワクするような肉料理をサンドイッチというスタイルでがっつり食べることができる、ちょっぴり非日常な食体験ができるのです。もちろん野菜をたっぷり食べたいという願望もしっかり満たしています。
そして韓国が得意とする“映え”もバツグン。おいしそうな断面をアピールしたメニュー写真には心をつかまれてしまいます(日本のサンドイッチメニューは新商品を除いて斜めアングルからの写真になっています)。
◆成功のカギは、具材選びと見せ方にあり
ワタミは新生サブウェイの戦略として、都心部を中心に店舗網を広げていくことを明らかにしています。
具体的な強みとしては、もっとおいしいサンドイッチを目指すために、有機農業を手がける「ワタミファーム」で栽培した野菜をサブウェイ全店に採用すること。産地を追跡できるトレーサビリティーの仕組みを確立することで、食の安全・安心を提供することなどとなっています。
有機野菜だからおいしいということではないですし、飛躍のためには斬新なアイデアも必要です。店舗数6倍を達成するためにはさらなる戦略が求められるでしょう。
先日オープンした旗艦店「大鳥居店」では、ワタミが生み出した新サンドイッチ「牛カルビチーズ」や「シーフードグラタン」が限定メニューとして登場しました。
みなさんは、これらをどう評価しますか? 何度も食べたくなるような強い魅力を感じるでしょうか? 新生サブウェイが熱狂的な支持を獲得できるかについては、短期的な判断ではなく、冷静に今年1年の動向を見ていく必要があるでしょう。
30年来のサブウェイファンとしては、大きな話題を呼ぶようなブレイクスルーに期待をしていきたいところです!
今回はあえてサンドイッチに絞りましたが、他にもファストフード最強と称賛されるポテトや店舗で焼かれるパンにも大きな魅力や可能性を感じています。それらの動向はまた別の機会にご紹介したいと思います。
<文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>
【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12