
レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英は、世界に冠たるレアル・マドリードとサンティアゴ・ベルナベウでどう戦ったか?
日本国内では、そうした話題が先行するのだろう。しかし、タイトルや欧州カップ戦への出場権、降格など何もかかっていない"消化試合"で、結果そのものへの関心は低かった。"お祭り色"が強かったと言えるだろう。
レアル・マドリードのレジェンドと言えるルカ・モドリッチの退団が決まっており、試合前から万雷の拍手が送られていた。彼がコーナーキックを蹴るたび、声援が広がる。そして終盤、交代する時には両チームの選手が花道を作り、その栄誉をたたえた。試合中に花道を作るのは異例。そこにモドリッチの妻子も駆け寄り、彼自身も感極まっていた。なかでも、長年中盤でタッグを組んだトニ・クロースとの熱い抱擁は感動を誘った。
「モドリッチのラストゲーム」
それが"試合の看板"と言える。ただ、久保がそのゲームで見せた姿は、今後の彼の行くべき道も暗示していた。
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開幕前から、筆者はラ・レアルの補強がうまくいっていないことを強く指摘してきた。戦力が揃わなければ、100%の力は発揮できない。先日、イマノル・アルグアシル監督が「スビエタ組(下部組織出身者)で戦いたい」と洩らして炎上騒ぎになったが、過去3シーズン、獲得した選手で戦力になったのが、久保、ブライス・メンデス、ナイエフ・アゲルドだけではうんざりするだろう。
ダビド・シルバの突然の引退は気の毒だったが、アレクサンダー・セルロート(アトレティコ・マドリード)、ミケル・メリーノ(アーセナル)の穴は大きかった。モハメド・アリ・チョ(ニース)、アルセン・ザハリャン、ルカ・スチッチ、ウマル・サディク、アンドレ・シルバ、オーリ・オスカールソン、シェラルド・ベッカーとことごとく期待外れ。右サイドバックもアマリ・トラオレ、ジョン・アランブル、アルバロ・オドリオソラに大金を投じるなら、アンドニ・ゴロサベル(アスレティック・ビルバオ)、アレックス・ソラ(ヘタフェ)で十分だった。
【久保はエムバペではない】
レアル・マドリード戦も、久保は孤軍奮闘が目立っている。
久保はボールを受けると技量を示した。後半になると、中に入って攻撃の起点になった。右サイドでは鼻先でダニ・セバージョスをかわし、ゴールラインぎりぎりで左足で折り返した。ペナルティエリア内で、縦パスのフリックから相手のハンドか、というシーンはVARのオフサイド判定で取り消されたが、チャンスを作っていた。自陣からのドリブルでは、モドリッチに背後からチャージを受けながらも負けずに持ち出し、再び人を引きつけてラストパスを出している。
久保のプレーは悪くなかったが、周りの選手の反応が鈍かった、もしくは技術が追いついていない。その結果、ゴールにはつながらなかった。
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今シーズンはその繰り返しだったと言える。レアル・マドリード戦は数人の主力を欠いていたこともあり、久保がボールを持った時、スペースに入ったり、受けようと近づいたり、コンビネーションを高められる選手も皆無に等しかった。チャンスメーカーとしては十分に戦える力を見せたが、深刻な得点力不足を解決することはできなかった。
久保自身も今季、ラ・リーガでは5得点だった。
一方、レアル・マドリードのエースであるキリアン・エムバペは、ラ・レアル戦もたったひとりでゴールに突っ込む爆発力を感じさせた。相手の逆を取るうまさだけでなく、ゴールに向かってプレーする馬力があり、実際にゴールネットを揺らしている。そのパワーが、ラ・リーガ得点王の31ゴールにつながった。単独でも、爆発を引き起こせるのだ。
ポジションも特性も異なるふたりの比較は簡単にするべきではない。
しかし、久保が輝きを放つのは、周りの選手とコンビネーションを組むことで選択肢を広げ、俊敏性を高め、相手を翻弄できるところにある。その点で言えば、エムバペと遜色ないだろう。しかし単騎で群がる相手を振り切って、20点、30点とゴールを重ねるタイプではない。
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そうであれば、たとえ資金力があって名前もあるビッグクラブでも、積極的に移籍するべきか?
もし、そのチームのスタイルが安定せず、結果も出ず、監督の座も揺らぐような年月を過ごすようになるなら、非常に危うい。最初は物珍しいおもちゃのように扱われるだろうが、すぐに飽きて捨てられてしまう可能性もある。
久保はラ・レアルでの過去3シーズン、確かに成長を示した。結果、森保ジャパンのなかでさえ序列を上げている。しかし、それはあくまで人とボールを大事にする考え方のラ・レアルで切磋琢磨できたからで、プレーヤーの特性は変わっていない。マジョルカでも、ビジャレアルでも、ヘタフェでも、「まずは守備から」「戦術を重んじよ」という監督のもとでは窮屈そうだった。相性の悪さは変わっていないはずだ。
日本では、「久保は来季どこへ?」と移籍を前提で語られるが、今はラ・レアルと契約があり(2029年6月末まで)、残留が前提である。その上で6000万ユーロ(約96億円)とも言われる大金を支払い、獲得するチームがあるか。ビッグクラブがエースに近い選手に提示する移籍金としては、むしろ安いくらいだが......。
久保はラ・レアルでの3シーズン目を終えた。日本人選手として誇るべきシーズンだった。ワールドカップに向けた来季に関しては、これからの話になる。