
ブンデスリーガ日本人選手 シーズンレポート 後編
ブンデスリーガ日本人選手の今シーズンのまとめレポート。後編では板倉滉と町野修斗の活躍ぶりを、現地ドイツで取材を重ねるライターの林遼平氏に詳しく伝えてもらった。
前編「キャリアハイの堂安律、日本人で最も評価を高めた佐野海舟」>>
【最終ラインで獅子奮迅の活躍】
板倉滉(ボルシアMG/28歳)
シーズンの終盤を迎えるにつれ、板倉滉の移籍報道が熱を帯びてきた。ブンデスリーガの上位チームであるバイエルンやレバークーゼンに加え、ドルトムントやフランクフルト、イングランドからの関心も伝えられるように、今夏の移籍市場における注目のひとりとなっている。
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これは今季の板倉のパフォーマンスが傑出していたからに他ならない。ボルシアMGに加入して3年目となった今季は、移籍初年度の24試合を大幅に超える31試合に出場。近年はケガで欠場する試合が多かったが、今季はフィジカルコンディションをしっかりと整えながら、最終ラインの大黒柱として獅子奮迅の活躍を見せるに至った。
チームが好調を維持したことも板倉の成長につながった。加入してからはなかなか上位争いに絡めなかったが、今季は最終ラインの安定と最前線のティム・クラインディーンストの活躍もあって成績が向上。シーズン終盤まで上位争いに加わることができた。最終的には10位に沈んでしまったが、「今季はチーム内の雰囲気としてずっといい緊迫感があって、どうにか上に食い込みたいというモチベーションのなかで長い間プレーすることができていた。それは自分にとってすごく大きかった」。緊張感のある試合が続くなかで、チームの勝利のために戦い続けたことが成長を促したのである。
忘れられないのは第30節のドルトムント戦のゴールだ。センターサークル付近からドリブルを開始すると、最後は壁パスのような形で5人が絡む密集を抜け出し、GKのポジションを冷静に見ながらシュートをゴールへと流し込んだ。現地メディア『ビルト』が「ドルトムントに衝撃が走った」と絶賛したこのゴールに限らず、ビルドアップや前線への持ち出しを含め、攻撃面で違いを作り出すことができているのも進化している部分のひとつと言っていいだろう。ボルシアMGの指揮官であるジェラルド・セオアネ監督は、移籍の可能性がある板倉に対して称賛の言葉を送っている。
「コウがこの3〜4年間に見せたパフォーマンスによって、他クラブからの関心を集めているのはわかっている。彼がトップクラブに移籍し、競技面でさらにステップアップできるのであれば、我々は彼とともに喜ぶ。例え、チームの要である彼を恋しく思うことになったとしてもね」
日本代表の活動に参加しながら、大きなケガをせず1年を通して活躍できたのは自信に繋がるはず。来季はどのチームで戦うことになるかわからないが、板倉は次なるレベルを目指して進化を続けていく。
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【降格チームで二桁得点】
町野修斗(キール/25歳)
ブンデスリーガ初挑戦。期待と希望に満ちた新シーズンは、山あり谷ありの1年だった。
開幕5試合で4得点を奪った時には、誰もが今季の活躍を疑いはしなかった。ただ、そこからは苦しむ期間が続いた。在籍するキール自体が、なかなか勝ち星に恵まれなかったことも影響していたと言っていい。攻撃的なサッカーを志向していたなかで、失点の多さによって守備に舵を振ったりとチームが迷走する時期もあり、町野の出番は少しずつ減っていった。
シーズン中盤には「調子は悪くないけど、何故かスタメンから外れることが多い。どうしたらいいかわからない」とこぼすほど、苦悩を抱えた。年明け以降は4月まで1点しか奪えず、結果を残せなかった。
それでも自身の価値を証明するため、トレーニングから取り組み続けた。すると、前半戦以上にボールへの絡み方や守備時の切り替えなどが大きく変化。加えて、ゴール前での仕事が増えたことで別格の決定力を示していくと、再びスタメンの座を確保した。
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気づけば、後半戦のキールは町野を中心に回っていた。前線で起点となりつつ、プレスのスタート地点としても奔走。攻守に走り回りながら、飛び込んできたチャンスをしっかりとゴールへと結実させた。その結果、シーズンのスタート時に目標として掲げていた二桁得点である11ゴールを記録。「二桁得点はめちゃくちゃ意識していたので本当に嬉しい。3カ月ぐらい取れてなかった時は本当に不安もあった。ただもう一度、イチから練習をして取るしかないなとやってきた。この二桁のために日々頑張ってきました」。チームは降格の憂き目にあってしまったが、苦しむチームのなかで確かな数字を残すに至ったのである。
『ビルト』は「ブンデスリーガでのこの1年間で、名前を知られる存在となった。降格チームで二桁得点を挙げるのは、並大抵のことではない」と町野を高く評価。現在、アウクスブルクやブレーメン、マインツ、ボルシアMGらが獲得に興味を示していると報じられており、今季の活躍を考えれば今夏の移籍は濃厚と言っていいだろう。
来年、日本代表の一員としてワールドカップに出場するためには、ステップアップを果たした上でどこまでの結果を残せるかが鍵となることは明らか。ブンデスリーガで飛躍を遂げたストライカーからまだまだ目が離せそうにない。
【ケガで苦しいシーズンに】
伊藤洋輝(バイエルン/26歳)&三好康児(ボーフム/28歳)
苦しいシーズンに終わってしまったのは、移籍1年目となった伊藤洋輝と三好康児だ。前者はバイエルン、後者はボーフムで活躍を期待されていたが、互いに負傷が続いて出場機会を失う結果に。新たな舞台での挑戦の1年だっただけに、悔しい形でシーズンを終えることになってしまった。
伊藤は最初の負傷から復帰した後はチームへの順応を示しており、ピッチに立った試合では決して悪くないパフォーマンスを見せていた。二度目の負傷でシーズンを棒に振ってしまったが、チームのスタイルに対する理解度は見せただけに、来季はしっかりケガを治してレギュラー争いに加わってほしいところだ。
三好はシーズン序盤は活躍を見せていたものの、調子が上がってきたタイミングで退場処分により2試合の出場停止を受けたことが痛かった。そこからはケガなどもありチャンスを得られず。15試合の出場に終わり失意の1年となった。来季の動向は気になるところだが、もし残留した場合は2部に降格してしまったボーフムを1年でブンデスリーガに戻す役目を担えるか注目したい。