
ブンデスリーガ日本人選手 シーズンレポート 前編
ブンデスリーガは5月17日に全日程を終了。今季は多くの日本人選手たちの活躍が見られた。現地ドイツで取材を重ねるライターの林遼平氏に、各選手の今シーズンのプレーぶりを振り返ってもらった。
【キャリアハイのシーズン。二桁ゴール達成】
堂安律(フライブルク/26歳)
キャリアハイのシーズンだったと言って過言ではないだろう。2022年に加入して3年目。ブンデスリーガの戦いに慣れ、クラブのスタイルも理解した上で挑んだ今シーズンは、高い評価を得るに値する飛躍の1年となった。
シーズンを振り返ると、すべてがうまくいっていたかと言われるとそうではない。最初の10試合で4得点を奪う最高のスタートを切ったが、12月から2月頭にかけてはチームが苦戦するなかで自身も目立ったパフォーマンスを見せることができず。今季唯一の途中出場があったりと難しい時期も経験した。
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それでも、今季の堂安はそこでブレなかった。「チームがよくない時でも我慢しながらタスクをこなしていれば、来るべき時にボールが来ると。その嗅覚、その瞬間を待ってクオリティーを発揮して欲しいと監督に言われている」。周りに対して要求を続け、自らのプレーを前面に出し続けたからこそ、少しずつチームが変化していく。
前半戦は攻撃を組み立てる際に左サイドのヴィンチェンツォ・グリフォを経由することが多かったが、後半戦を迎えると堂安にボールが入る回数が急激に増加。堂安がボールを持つことによりチャンスが増え、それに乗じてチームの成績も上がっていった。
「前半戦はボールが出てこないことにすごく葛藤があって、『(自分を)使えよ』みたいなところがありました。だけど、数字を残すことができていたらチームメイトも信頼してくれる。後半戦はそこの変化を感じます」
また、堂安への信頼が高まったのは攻撃面だけが理由ではない。指揮官のユリアン・シュスター監督が「彼が今日もどれほど守備に汗をかいてくれたことか。どれほどの競り合いで勝利してくれたことか。どれほどチームのために全力でプレーをしてくれたことか。そこに本質的な価値がある」と褒め称えるように、試合全体を通したハードワークもチームトップクラス。攻守にフル稼働を続け、チームを変貌させていったのだ。
堂安は最終的にキャリア初の二桁となる10得点を達成し、アシストも7つ記録した。ただ、この数字に満足しないのも彼らしい。
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「1シーズンに二桁得点することはラッキーな年だったら誰でもできるもの。いつもソン・フンミンの凄さを例に挙げているけど、やはり毎シーズンのようにプレミアリーグの舞台で二桁取り続けているというのが凄さだと思う。それが本当のクオリティーだと思うので、そういう選手になりたいです」
今季のパフォーマンスもあり、フランクフルトやドルトムントを中心に多くのクラブから関心を持たれている。今後のキャリアを考えても"移籍するタイミング"であることは間違いない。来季どのユニフォームで試合を見られるか、楽しみにしたい。
【今季最も評価を高めた日本人】
佐野海舟(マインツ/24歳)
今季のブンデスリーガにおいて最も評価を高めた日本人は誰かと聞かれれば、即座に佐野海舟と答えるだろう。それほど今季のパフォーマンスは傑出していたと言っていい。
開幕直後は不安もあった。キャンプへの出遅れもあり、チームのスタイルに馴染んでいくのに時間がかかるのではという声も聞かれていた。実際、開幕戦ではブンデスリーガの洗礼を浴びるような形で低調なパフォーマンスで終わった。試合後の「今まで感じたことのないプレッシャーだったり、相手の強度だったりをすごく感じた。これにいち早く慣れないといけないと思います」との言葉にも、新たな舞台に難しさを感じているのを察することができた。
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しかし、佐野はここから試合をこなすごとに自身の価値を高めていく。プレー面の特長であるボール奪取力と広範囲に動き回れる運動量がチームにマッチした。そして「毎日の練習で自分の課題と向き合ってやること」によって徐々にブンデスリーガの舞台に順応。ドイツ代表MFナディーム・アミリとともにリーグ屈指のダブルボランチを形成し、攻守に存在感を増していった。
11月のドルトムント戦、12月のバイエルン戦で対峙したアタッカーを完璧に抑えきったことでドイツ国内での評価が急上昇。シーズン終盤はチームに欠かせないひとりとして活躍し、来季のUEFAカンファレンスリーグの出場権獲得につながる6位フィニッシュに大きく貢献した。
佐野の貢献度はシーズンを通した数字にもよく表れている。ブンデスリーガの公式サイトによれば、総走行距離で393.7kmを記録。これはバイエルンのヨシュア・キミッヒが記録した390.4kmを抑えて1位に輝いている。また、デュエル勝利数で369回、インテンシブラン数(高強度のスプリント・ランニング)で2700回を記録。どちらもリーグ4位となっており、数字を見てもいかに佐野が際立ったパフォーマンスを披露していたかがわかるだろう。
現地メディア『ビルト』も最終節が終わった後、佐野に対して「無数のボールを奪い、すべての競り合いに体を張って挑み、さらに攻撃面でも輝きを見せる。この調子なら、ビッグクラブからの注目が集まる日も近いだろう」とコメント。欧州カップの出場権を手にしたこともあり1年でクラブを去る可能性は低いが、他クラブから高い関心を得ているのは間違いない。今後、マインツや日本代表の舞台で活躍する姿をもっと見せられれば、ステップアップする日はそう遠くないはずだ。
後編「来季はステップアップ移籍? 板倉滉&町野修斗の活躍ぶり」につづく>>