
外食大手『すかいらーくホールディングス』が買収し出店拡大している「資(すけ)さんうどん」が人気だ。物価高を逆手に“賃金を上げつつ業績を伸ばす”成長戦略を谷真会長に聞く。
集客力の秘密は「九州の味」「朝6時半から並んだ」(40代男性)
「うどん大好き。週に2〜3回は食べる」(30代男性)
4月18日金曜日、朝9時30分。開店前から長い行列ができていたのは、この日オープンした埼玉県初の『資さんうどん』(鴻巣市)。10時の開店からわずか15分で、93ある客席が全て埋まった。
やや濃い目の味つけとほんのりとした甘さが残る黄金色の出汁は“また食べたくなる味”で、柔らかさのなかにコシのある麺もこの店の特徴だ。
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名物は客の半分近くが注文するという「ごぼ天うどん」。大ぶりのごぼう天が5本トッピングされて570円。(※価格は店舗によって異なります)
「関東とは違うトッピング。なかなかごぼうの天ぷらは食べられない」(70代男性)
「うどんの汁が透き通っているのは埼玉では珍しい」(30代女性)
「資さんうどん」は創業49年の北九州発祥のうどんチェーンで、九州を中心に約70店舗を展開し、熱狂的なファンが多いことで知られている。
関東出店にあたりとことんこだわったのが“北九州の資さんと同じ味”を提供することだったという。
『資さんうどん』崎田晴義会長:
「九州出身の方が懐かしくなって久しぶりに資さんうどん食べたという声が聞けると、非常に私も嬉しい」
そこで、すかいらーくが力を入れているのがトレーニングだ。
キッチンの経験が浅く自信がないクルーでも、目指す味に達するようマニュアルを映像化。
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例えば難易度が高いとされる「ごぼ天」の揚げ方では手順に加え、仕上がりを決める大事なポイント「バッター液のトロみ具合」も、NG/OKの違いを比較した映像で見せている。
“24時間&多メニュー”かつ「1人1000円未満」2024年11月、『すかいらーくホールディングス』は「資さんうどん」を240億円で買収。理由はその圧倒的な“集客力”だ。
2024年12月に関東1号店として開店した「資さんうどん」千葉・八千代店は、▼1日あたりの客数2000人超▼売上200万円以上と、既存店の平均を大きく上回る。
なぜ資さんに人は集まるのかー
客の多くが【100種類以上というメニューの豊富さ】と【24時間営業】を挙げる。
「うどんは体にやさしいから夜中でも食べられる」(女性客)
「夜は家族で晩御飯。メニューがたくさんあるから選ぶ楽しみもあるし、何回も来られる」(男性客)
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【価格】も重要な要素だ。例えば
▼牛すじ・大根・たまご・厚揚げ・しらたきの「おでんセット」(630円)
▼本格スパイスカレーがルーツの「資さんカレー」(650円)
▼エビ天が2本のった「大海老天うどん」(880円)
(※価格は店舗によって異なります)
『資さんうどん』崎田会長:
「家族で食事に行くとき“1人1000円未満で済む”と想像がつくことが大事。家族3人で食べても3000円でお釣りが来てお腹いっぱいになる」
すかいらーくは「資さんうどん」を最終的に全国約300店まで拡大する計画で、グループ既存店からの転換も進めている。
同一エリア内で、グループの飲食店同士の競合を解消し、エリア全体の利益を底上げするのが狙いだ。
5月8日まで和食ファミレス「藍屋」として営業していた埼玉・三郷市の店舗は現在工事中で、6月末に「資さんうどん三郷店」としてリニューアルオープンの予定。部分的な改修で出店コストは3分の2程度で済むという。
5月24日時点で全国79店舗で、関東に4店、関西に6店出店済。今後も強気の出店を計画している。
【資さんうどんの出店計画】
▼2025年⇒関東・関西で21店
▼2026年⇒関東・関西を中心に50店
▼2027年以降⇒年間100店ペースで全国展開(200店程度の転換候補店舗を検討)
2027年以降は、200程度のグループ既存店を資さんに転換する予定だが、その背景には何があるのか?
“資さんファン”を公言し、「35年前から食べ続けている」という『すかいらーくホールディングス』の谷真会長に聞いた。
谷真 代表取締役会長CEO:
「人口減少や高齢化も含めて、当社の基盤であった地方の郊外・ロードサイドの店舗群は少しずつ地盤沈下している。資さんへの業態転換によってその地域のポテンシャルをもう一度引っ張り出そうと。今のところ売り上げはものすごく高いし、大体年間6店の新店と、グループ内の既存店を20店ぐらい転換してくと十分採算が合う」
ーー例えば「ガスト」が3店あるようなエリアでは?
谷会長:
「ガストは1つ残して、1つは資さん、1つは“良い食事で豊かな時間を過ごしたい”というニーズに応える<カジュアルダイニング>に変えていくようなことが、この5年から10年の間で確実に起こってくる」
そもそも、すかいらーくが「資さんうどん」を買収した背景には、【グループ内の国内ブランドの“空白領域”】がある。
▼【カジュアルダイニング】+【高単価】⇒藍屋・しゃぶ葉・ペルティカなど
▼【ファミリーダイニング】+【高単価】⇒ジョナサン・バーミヤン・「ガスト」など
▼【ファミリーダイニング】+【低単価】⇒“空白領域”
谷会長:
「長い20年、30年のデフレを経て、コロナ禍の後にコストも人件費も上がり、ガストも従来の【ファミリーダイニングで低価格路線】の領域から【高単価】にシフトしている。ファミリーなど客層が広く、かつ低単価のブランドがなくなってきて空白地帯が生まれてきている。そこを国民食のうどん、資さんで埋めたい」
ーーゆくゆくは、ファミリーダイニングでの高価格帯は「ガスト」、低価格帯は「資さんうどん」が背負っていくと
谷会長:
「5年10年を経ずに、<ガスト>と<資さん>がすかいらーくグループの2本柱で、あとは<カジュアルダイニングで高単価>のブランド群、この3つを徐々に成長させていくということになる。資さんうどんは“すかいらーくの大黒柱”になると思う」
そんな『すかいらーくホールディングス』の業績は絶好調だ。
【売上高】⇒2024年は過去最高だった2019年を上回る4011億円。2025年予測は4450億円と、“2年連続で過去最高を更新”する見通し
【株価】⇒2014年の再上場後、“最高値を更新”していて23日の終値は3231円
コロナ禍の2020〜2022年は売上高も株価も下落し、谷会長も「会社が潰れるんじゃないかと思っていた」と話すが、早々と回復し業績を伸ばした背景には「コロナ禍で変わった外食への考え方」があるという。
谷会長:
「コロナの期間中にお客様のライフスタイルが大きく変わり、コンビニエンスストアの実力も上がって、“宅配で物を食べるという食習慣”も新しく生まれた。家庭での料理のレベルも飛躍的に上がった。つまりお客様の選択のレベルがものすごく高くなっている。その中で、それにフィットしたメニューを出したり、フィットした業態開発をすることで業績を伸ばしてきている」
業績好調には、既存店の「客単価」と「客数」が伸びていることも関係しているという。
谷代表取締役会長CEO:
「客単価を上げて業績が上がるならどの経営者もやると思うが、“お客様の納得性がない客単価”というのは逆に衰退に繋がる。この客単価を支持して来店してもらうには、やはり大事な要素があるということ。コロナ禍で選択レベルが上がったが、しっかりできているところには客が集まり、客単価が上がることも容認してもらえる。それが業績に繋がっている」
そして、谷会長が「売り上げや収益に直結している」と断言するのが、【従業員の労働環境】だという。例えば人件費。
【春闘賃上げ率】
▼すかいらーく:4.38%(2023年)⇒6.22%(24年)⇒6.5%(25年)
▼連合:3.58%(2023年)⇒5.10%(24年)⇒5.32%(25年)
※連合5月8日・すかいらーく5月12日時点
ーー食材も人件費も上がり外食産業は大変だと思うが、その中で一番大事なことは賃上げを続けて従業員のやる気をだすということか
谷会長:
「その通り。3年連続満額回答して、パートアルバイトの方も時給が上がっているけど、労働時間も増やしている。その代わり、運営が良くなればお客さんに支持してもらえて来店してもらって売り上げが上がって、結果的に人件費率が逆に下がると。こういう構造」
ーー売り上げをどうやって上げるかということが全ての起点。インフレの時代になってそれが逆にできるようになっている
谷会長:
「むしろインフレの時代だからこそ、店舗の優劣、業態間の競争、企業間の競争は熾烈になっている。その中でお客様の高いレベルの選択の中で、選ばれる側になるかならないかが業績の境目になる」
ーーだから単価が安い「資さんうどん」に変えても集客力があって売り上げが上がると。それを狙っている?
谷会長:
「おっしゃる通り。マーケットが縮小しつつありコストが上がってる時に、“コストカットだけで利益が出る”という経営ではとても追いつかない。つまり付加価値を出してお客様が望むものをもっと作り上げていくと。これが売り上げ、収益に繋がっていく」
(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年5月24日放送より)