
「米不足と言いつつ、まだまだ平然と廃棄されているお弁当は山ほどあると思います 弁松では売れ残っても廃棄はせず、誰かしらには食べてもらうようにしております。」
2024年の夏から続いている米不足。スーパーなどの米売り場あるいはネット販売では品切れあるいは購入点数の限定が常態化しています。米不足のなか、ムダに捨てられるお米について指摘したXでの投稿が話題に。
江戸時代後期から、日本橋でお弁当を作り続け、日本最古の弁当屋とされている日本橋弁松総本店のコメントには、
「米には八十八柱の神様が宿ります」
「米が不足している今、皆で考えるきっかけになれば」
「廃棄のことまで考えてなかった」
「きっと、言うは易し、行うは難しのハードルがあるのだろうとお察しします。だから、余計にお弁当が美味しくなるのかな」
「全食品生産業の皆さん、こうであってほしい」
などの声が寄せられました。
日本の食文化の中心的存在が揺らぐ現状に危機感を募らせる同店8代目樋口代表に取材しました。
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米不足以前から廃棄しない努力
東京都内(都外は千葉県千葉市のみ)の百貨店などでお弁当をはじめさまざまな料理を製造販売している同店では、米不足問題以前からお弁当を廃棄しないように努めてきました。
「売れ行きが悪い日はまず夕方店頭にて値引き。それでも残りそう、または残った場合は、店舗が入っている百貨店の社員通用口などでさらに値引きして販売を行っています」
また、台風や大雪、猛暑の日などは売れ行きが鈍くなるため、製造数を調整するなど、「売れ残りを作らない、廃棄をしない」ために知恵を絞り、工夫を凝らしてきました。
それでも売れ残ってしまうこともありますが、「廃棄したくないので、百貨店の社員さんや同じデパートに入っている別の店舗で働く方、うちの店の販売スタッフに持ち帰ってもらっています」と樋口代表。
閉店まで商品がそろうことを目的に多めに生産したり、値下げを推奨しなかったりと、廃棄を前提とする企業もあります。また、管理者が売上を操作するなど横領につながる懸念から、小売業では廃棄商品の持ち帰りを禁止されていることが一般的と言えます。
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そんななか、弁松では商品の廃棄を回避する以外に、商品を作る過程で、売り物にならないものの廃棄も避けるため、創意工夫。
「昔々は玉子焼をカットした際に余る両端や少し壊れた煮物は、工場のスタッフが持ち帰ったり、出入り業者の人にあげていましたが、現在はそれらもお得商品として販売しています。去年は出汁をとった後に捨てていた大量の鰹節をふりかけとして商品にしましたら、小さいながらもヒットにつながりました」
農林水産省・環境省(※1)によると2000年度は事業系食品の食品ロス量は、547万トンあったところ、2022年度はコロナ禍で236万トンとなっています。2030年度の目指すところは事業系食品は273万トン、家庭系で216万トンを目標とし、施策を次々と打ち出しています。そんななか、「弁松」はかつてから独自で取り組みを続けてきました。
そんな努力を重ねてきた中での米不足だからこそ、フードロスが続く世の中に、声を上げずにはいられなかったという樋口代表。
「短期間で何度も米の価格が上がってしまい、これでは政府がなんの策も講じてこなかったのと同然ではないでしょうか、そこに付け入る転売ヤーが話題になるなど、忸怩たる思いを持っています。
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米を扱う、ある程度の規模の会社であれば、年間契約で米を仕入れ、値上がりしても優先して確保してくれることが考えられますが、その都度購入している小さな食堂などでは、仕入れにも苦心しているのでは…と心配になります」
農林水産大臣が交代し、米を巡る問題は刻一刻と変化していますが、一過性のものでないことを願うばかり。
「価格が下がってよかったで終わらせるのではなく、根本的な改革が必要です。今回の米不足は、単なる天候不順などによる不作からの米不足ではありません。
外米を入れるためのシナリオなのではないか? 農林中金の投資失敗の穴埋めのためではないか? 農水省の利権構造が原因なのでは? 今の状態ではこういった懸念や憶測も生まれかねません。私たちも何が真実なのかを注視しなければならないと思います。
政府には、日本人と日本文化ファーストの政策を望みますし、我々も選挙に行かなくてはなりません。米は日本の食文化の中心にあることを肝に銘じて欲しいです」
ペリー来航の3年前…1850年からお弁当を作り続けている弁松。現存するお弁当屋の中では日本最古とされています。甘辛の濃い味つけのおかずは冷めてもおいしく、ごはんとの相性も抜群です。ずっと米を大事にしてきた弁松さんだからこそ、その言葉に重みを感じずにはいられません。
(※1)「令和6年6月 食品リサイクル法に基づく基本方針等の見直しについて」より
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・宮前 晶子)