AIに特化した法律が成立 進化と共にリスクも…「○○風画像」は問題なし? 悪用に罰則は必要?【Nスタ解説】

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2025年05月28日 20:32  TBS NEWS DIG

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TBS NEWS DIG

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28日、日本ではじめてAIに特化した法律「AI推進法」が成立しました。急速に進化するAIの技術に、制度は追いついていけるのでしょうか?

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生成AIでトラブルも...罰則は必要?

山形純菜キャスター:
28日成立したAI推進法は、日本で初めてAI=人工知能に特化した法律で、AIの活用を推進し、政府の体制強化を目指すものです。この法律で、総理大臣をトップとした全ての閣僚が参加する“AI戦略本部”が新たに設けられるほか、AIの開発や活用に関する“AI基本計画”が策定されます。

AIを利用した「犯罪」「悪質な行為」については、事業者に対し国の調査・指導が可能ですが、罰則はありません。なぜ罰則が設けられなかったのでしょうか?

TBS報道局政治部 防衛省キャップ 渡部将伍 記者:
具体的な罰則は新たに作らなくても、既にある法律で対処できるというのが基本的な政府の考え方なんです。

山形純菜キャスター:
過去にあった生成AIを巡るトラブルとして、具体的に見ていきます。

▼フェイク動画
“ニュース番組”に模した動画で、岸田前総理が卑猥な発言を繰り返す

▼フェイク画像
2022年台風15号、静岡での被害のニセ画像を投稿

▼「ジブリ風」画像
SNSでブームになる一方、物議を醸す

こうした事例についてはどうなんでしょうか?

渡部 記者:
先ほども説明した通り、今ある法律で対処できるというのが今回の政府の考え方なんです。例えば岸田前総理のフェイク動画については、今の法律に当てはめると、岸田前総理に対する名誉毀損や侮辱罪などに問われる可能性があります。

また偽情報であることや、勝手にデザインを使ったことに対しては、テレビ局への偽計業務妨害という罪にも当てはまる可能性があります。

フェイク画像や今流行りの「ジブリ風」画像も、今ある法律でカバーできるのではないかということが今回、罰則が設けられない理由です。

AI進化とともにリスクも

山形キャスター:
そういったことも分かりますが、やはりAIが進化していて、リスクも広がっていますよね。

例えば、有名人との2ショットや卑猥な動画を作成し拡散したり、声優の声を学習させて好きなコメントを言わせるなどのリスクもあると思うんですが、罰則についての議論は実際に行われたんでしょうか?

渡部 記者:
法案作成前の、一般の方に意見を求める「パブリックコメント」のときには、有識者や企業から、「罰則付きの法規制がある程度必要なんじゃないか」という意見がかなり出ていました。ただ実際に法律の作成に携わった政府関係者等に話を聞くと、罰則があることで「イノベーションを阻害しかねない」ということで、現時点では罰則が設けられなくなったんです。

井上貴博キャスター:
確かにAIはリスクもあるけれど、怖がるだけではなくてどう取り込むかを考える必要があります。日本も今後、人口が減っていくので、対応の仕方は迫られます、法律などの面でも。

ニュース解説メディア「The HEADLINE」編集長 石田健さん:
もちろん罰則も重要ですが、その前に推進・活用の点で、そもそも日本がアメリカや中国などに比べて、大規模なAIの領域に投資ができているのかということも重要です。

単純に投資をするのがビジネス的に良いという話だけではなく、そのくらい本腰を入れてやることによって新たなリスクや被害が見えてくる。それをするための大前提として、かなり遅れをとっていると思います。

しかも今は、「民間は民間に任せましょう」「政府は政府で」ということではないと思います。トランプ大統領がOpenAIやソフトバンクを呼んでスターゲイト計画という大規模なプロジェクトをやっているように、各国が官民一体となって取り組んでいるので、まずそこに追いついた上で、規制・罰則にどう折り合いをつけていくかが重要になってくると思います。

先に推進活用にある程度ボリュームがないと、罰則や法規制も、理念法だけにとどまってしまうと思います。実態がつかめないというところが一番難点だと思いますね。

日本 世界と比較したAIの現状

山形キャスター:
日本の現状はこのようになっています。

▼AIへの民間投資額(2023年)
1位 アメリカ 約672億ドル
2位 中国 約78億ドル
3位 イギリス 約38億ドル
12位 日本 約7億ドル

▼生成AIを利用する企業
アメリカ 85%
中国 84%
ドイツ 73%
日本 47%

生成AIを利用する企業を見てみても、日本は47%と遅れが出ているなと感じますね。

渡部 記者:
実際に取材をしてみると、石田さんがお話しされたように「これからAIを知ってからルールを作っていく」という考え方もありますが、個人的には「『問題が起きたら対応』ではなく起きる前に防ぐ」ことが大事だと強く思っています。

先ほども紹介がありましたが、既に芸能人と2ショットの写真や卑猥な動画がSNSに上がっているという現状があるんです。

これを今後どうするかを考えていくよりも、既に事は起こっているので、対処するためには今の法制度が十分なのかを考えるべきだと思います。今ある法律を、ある程度生成AIの技術に適用させるという考え方もありますし、

例えば、「これはAIが作ったものですよ」「こういうデータから出てきたものですよ」とたどれる技術は、現時点でも発展していると思います。ですので、こういった何かしらの防ぎ方もある程度必要なのかなと個人的には感じています。

出水麻衣キャスター:
国境を越えて、グローバルで一つのルールを作るという方向に持っていくのもあると思うんですが、そのあたりの海外の動きはどうなっているのでしょうか。

渡部 記者:
海外ではEUや中国はかなり厳しく、「どういったデータを読み込んでいるのか」や「どういったアルゴリズムの過程でデータが作られているのか」という点にはかなりオープンに厳しくなっています。

一方で、アメリカは「どんどんAIを開発していこう」という考え方なので、規制をするのではなく、ある程度緩くなっています。そのため、アメリカはかなり著作権等の問題が厳しいのですが、勝手にデータが読み込まれたり、勝手にデータを作られたりというように、折り合いがまだついていないのかなとは感じています。

井上キャスター:
国による差は、まだ大きいのかもしれないですね。

==========
〈プロフィール〉
渡部将伍
TBS報道局政治部 防衛省キャップ
山暮らしに強い憧れを抱く

石田健さん
ニュース解説メディア「The HEADLINE」編集長
鋭い視点で政治・経済・社会問題などを解説

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