2022年の財務省データによると、不動産市場の規模は46兆2682億円で全産業の2.9%を占める重要な産業の一つです。都市部を中心としたマンション価格の高騰、空き家問題、労働力不足などさまざまな課題を抱える中、今後どのような変化が起きていくのか、市場データをもとに整理します(今回は市場編。次回は営業編)。
【画像】不動産業界の状況を整理した分かりやすい図(計13枚)
まず、不動産価格と給与額の推移について次のグラフをご覧ください。
不動産価格の上昇に対して給与の上昇率が追い付いておらず、今後、住宅購入を検討する人の多くが、従来よりも予算を抑えざるを得ない状況になると予想されます。地域別に見ると、東京は2010年と比較して約1.7倍、全国平均は約1.4倍。当時と比較して下がっているエリアはありません。
次は戸建てとマンションに分けて見ていきましょう。戸建てはマンションほど上昇しておらず、全国平均は2010年対比116%です。2023年からこの2年間は各エリアとも減少傾向にあり、特に北海道の下がり幅が顕著でした。タワーマンションの建設ラッシュや建設工事費の高騰が影響していることがうかがえます。一方で北海道のマンション価格は約3倍となり、全国平均の2.1倍を大きく上回ります(2010年対比)。
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工事原価を2015年と比較すると、集合住宅・住宅ともに約1.4倍に高騰。販売価格に転嫁するか、利益を下げて売るかを迫られている状況が続いています。
これらが単価に影響する因子だとすれば、客数はどうかというと、こちらも厳しい状況です。
●空き家が増えているのに、新規の建設工事も進んでいる
国内の「市区町村間移動者数」は減少傾向にあり、2019年の540万人をピークに、2024年には3.5%減。2014年と同水準まで縮小しました。
プラス要素としては海外からの移住者が増加していることでしょうか。年間74万人にのぼり、これを国内移動者に加えると14%ほど押し上げるインパクトがあります。とはいえ海外への転出者も増加しており、海外転出と転入を差し引くと37万人が純増している計算です。
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今後は人口が減少していきます。世帯数は2050年までに467万世帯の減少が見込まれ、核家族世帯に対して増えるのが単独世帯です。単独世帯や海外転入者向けの不動産商品は、今後やや有利になっていくでしょう。
ここで現在の住宅ストック数を確認してみましょう。次のグラフにある通り、現状は約6505万戸に対して総世帯数は5622万戸。約900万戸が空き家です。既に供給余剰であるのが日本の不動産市場の特徴であり、空き家問題は社会問題となっています。
こうした供給過剰の市場下においても、新設住宅着工は行われていきます。これはまるで、既に店舗が人口に対して飽和しているのに、さらに出店を繰り返して競争がさらに激化していく小売市場と似ているものがあります。
不動産価格は上昇している、賃金はその上昇に追いついていない、既に住宅は余剰である――にもかかわらず、賃貸と分譲住宅の新設着工戸数は増え続けているのです。
●都内で買うなら中古マンションしかない
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不動産企業からすれば、家を新しく作らなくては大きな売上拡大にはならないため、仕方ないことでもあります。しかし、果たしてこのように不動産価格が高騰している状況下で、多くの人は円滑に不動産を購入できるのでしょうか。
年収に対して6〜7倍が住宅ローンを組める一つの目安といわれている中、世代別の平均世帯年収と、住宅ローンを整理しました。
首都圏の新規登録平均価格は新築戸建ての4759万円をはじめ、中古戸建、中古マンションも4000万円を超えています。住宅ローン目安がその金額に追いついているのは40代辺りから。つまり、20〜30代で家を購入しようと思った場合、低価格な物件を探す=エリアや居住面積を希望より下げるしかなくなるのです。不動産会社側の目線で言えば、低価格競争がさらに激化し、原価の高騰も相まって、利益をさらに圧迫しかねない状況です。
さらに次のグラフは、現在賃貸物件に住んでいる人が住宅の購入を考えた場合、新築マンション、中古マンション、新築戸建てを選ぶと「月額家賃よりも安くなるのか、高くなるのか」を整理したものです。
結果は一目瞭然です。中古マンションは賃貸負担額よりも安くなるが、新築マンション、戸建ては明らかに負担額が高くなります。これは住宅ローンを購入価格全てに充当し、かつ同じ区内で引っ越したい場合を想定しているので、個々の初期資金によって変動する点は注意ですが、実際問題「都内で買うなら中古マンションしかない」、どうしても新築が良い場合は「エリアか価格を下げた物件を検討する」ことを迫られるのが現状です。
●これから起こる「団塊世代」の大相続
さらに、今後10年で大きな変化をもたらすのが団塊世代の相続です。団塊世代の持ち家を団塊ジュニア世代に相続した場合に起きる事象を整理したのが次の図です。
団塊世代(1947〜1949年生まれ)は約806万人(※出生ベース)。この団塊世代が42〜48歳を迎えた1995年、住宅ローンの平均年齢はマンション購入融資が36.9歳、マイホーム新築融資が41.4歳(フラット35調査より)でした。団塊世代の持ち家率である86.2%から推計すると約695万世帯が住宅ローンを組んでいることになります。
2023年の厚生労働省のデータによる男性の平均寿命は81.09歳、女性は87.14歳であり中央値は84.12歳。つまり、40歳前後で住宅ローンを組み、35年後完済している住宅が相当数存在しており、2030〜2040年にこの世代が寿命を迎えると大相続時代が到来することになります。当時のローン額はマイホーム新築融資の2612万円から建売住宅購入融資の3899万円まで幅がありますが、この金額が現在では高騰しているのは周知の通りです。
不動産価格指数(住宅総合)は2010年を100%とした場合、2025年1月時点で141.3%で、マンションにいたっては210.7%と驚異的数値となっています。つまり、団塊世代は3700万円〜5500万円ほどの資産を保有していることになり、相続するには多額な相続税がかかります。とはいえ団塊世代の子ども世代である、50代かつ2人以上世帯の平均預貯金は約1253万円です。親が数億単位の資産を持っていない限り、相続税が払える範囲の人が多いことになります。
では相続した後には何が起きるのでしょうか。
●何が起こる?
既に家を持っている人が親から家を相続しても、そこに引っ越すことは考えづらいので、中古物件として売りに出すか賃貸に出す人が増えるでしょう。その際、多くがリノベーションを実施すると想定できます。リノベーション業者には多くの仕事が発生するかもしれません。
持ち家を持たない人の中には、親から相続した家に住むことで賃貸生活を卒業するケースも一定数出てくるでしょう。そうなると賃貸市場の空き物件が増加します。賃貸で住んでいた人は減り、物件供給は増え、せっかくリノベーションしても、いつまでたっても借り手がつかないといった事態が発生します。
しかも築年数が古いことから、築浅の中古マンションのほうが先に売れやすく、親から相続した物件は売れ残る可能性が高まります。その結果、賃貸や築年数の長い中古マンションは供給過多となり、さらなる価格下落が避けられなくなる可能性があります。高価格帯のマンションや都市部の土地を保有している人なら、高値で売却して次の物件を買うサイクルも可能かもしれませんが、安い中古マンションを一度購入すると、次に生活拠点を変えたいときに安価で売却し地方へ転居という選択肢を迫られるでしょう。
こうした市場変化を見据え、不動産会社は次のようなポイントを押さえる必要があります。
●不動産企業に必要な心構え
(1)営業の短期化、施工の短期化、広告費最小モデルで低価格物件でも収益確保
(2)低価格で顧客目線の営業品質によって受注率向上・件数増加
(3)中価格で高品質・高対応:土地探し・設計・建築・セキュリティまでのトータルサポート
(4)単身、海外転入・転出、富裕層、気密性、医療連携など特化したセグメントで強みを確立
(5)中古マンション・空き家の再生力・活用力(リノベーション、古民家カフェ、民泊、オフィス活用、外国人向けサービスなど)
安くする代わり、営業活動も次から次へと数を打てばいいという考えでは失注だけが積み重なってしまいます。よって、(1)は確かに必要ですが自社都合によりすぎないよう注意が必要です。
そういう意味では(1)と(4)はセットになることが多いかもしれません。
(2)は各社が取り組んできたことかと思いますが、市場が飽和し競合性が高まると営業現場には焦りが生じ押し売りになりがちです。こういう市場だからこそ営業の一挙手一投足には細心の注意を払う必要があり、営業現場で見過ごされているミスを是正し、教育やノウハウを再構築しなくてはなりません。
(3)は自社の担当範囲のみに終始するのではなく、顧客にとっての全体最適を意識し、積極的に提案していく姿勢が求められます。事業ドメインの拡大を含めて検討する余地があるでしょう。(5)は今後増大する中古市場を効率的かつ高い品質を維持しながら世の中の循環のハブとなる役割を担うことを意味します。
今回は市場概況を中心に解説しましたが、次回はこれを踏まえて、営業現場で今起きていることを中心に、成功モデルと失注例を挙げながらお伝えしていきます。最後までお読みいただきありがとうございました。
(佐久間俊一)
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