レノボ・ジャパンとレノボ・エンタープライズ・ソリューションズは5月27日、2025年度(2025年4月〜2026年3月)の事業戦略説明会を開催した。同年度の注力領域としてGIGAスクール構想第2期(Next GIGA)による特需やWindows10のサポート終了に伴う買い替え需要、端末管理のモダナイズの進展などによる「顕在化するニーズへの対応」と、クライアントデバイスでのSLM(小型言語モデル)活用やエッジからプライベートクラウドでのAIワークロードの増加を捉えた「中長期のコンピューティングパワーの活用」の2点を掲げた。
●2025年度は「前半」と「後半」で注力ポイントが変わる
2社を代表して事業戦略を説明したレノボ・ジャパンの檜山太郎社長は、「2025年度は慎重な舵取りが求められる1年になる。10月14日のWindows 10のサポート終了に伴いWindows 11への移行が進展すると共に、GIGAスクール構想第2期による大量のPC出荷が想定されている。前半の6カ月間(4月〜9月)はユーザーのニーズを聞きながら、数量を出荷する活動を活発化させる」と語る。
その上で「(Windows 10のサポート終了を迎える)11月以降はユーザーのニーズに合わせて良いものを提供し、事業領域を確立する活動に変えていかなくてはならない。これに向けた準備も必要であり、レノボグループが持つ技術の活用、AIへの取り組み強化が重要になる」との見方を示した。
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また檜山社長は、国内市場では「機動性」が重要になると指摘する。レノボ・ジャパンがMM総研に委託して行った調査によると、テレワーク制度の導入率が64%、テレワーカーのコワーキングスペース利用経験率が39%、オフィスにおけるフリーアドレスの導入率が68%だったという。
そのような国内の状況を捉えながら、「いつでも、どこでも、誰とでも仕事ができる環境が整っている。PCメーカーとして、この働き方をサポートしていかなくてはならない。1kg以下のThinkPadや、ConnectINによる常時接続の実現などによってニーズに応える」とした。
Next GIGA向けには、学習用端末だけでなく各種サービスをセットした「Lenovo GIGA School Edition」を投入した。「レノボは(GIGAスクール構想の)第1期でトップシェアを取った。これにより、多くの児童/生徒から要望を聞くことができた。米国防総省のMIL規格に準拠した頑丈さを兼ね備えたPC開発しているが、小学生の使い方は米国防総省が求める規格を上回る必要がある。設計に工夫を凝らして、児童/生徒にしっかりと使ってもらえるPCを用意した」と胸を張る。
加えて、檜山社長はIT部門の負担を減らすためのサービスとして「Lenovo Services」を用意していることをアピールする。
「コロナ禍以降、働き方が大きく変わり、IT管理部門の業務が35%も増加している。(Lenovo Servicesでは)デバイスの配布からヘルプデスク対応、資産管理、廃棄といったPCのライフサイクル全体に渡るサービスをサブスクリプションモデルで提供し、IT部門の負担を削減することができる。IT部門は、空いた時間を使って業務の変革やデータ活用による貢献などに取り組んでもらえるようになる」と、企業のIT管理部門の負担軽減につながることを強調した。
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従量課金モデル「Lenovo TruScale」も契約数が着実に増加しているといい、社名は明らかにはできないものの、「グローバルで最大のDaaS(Device as a Service)案件は日本の大手製造業である」という。社名が明らかとなった事例としては、日揮ホールディングスでは「デジタル・ワークプレイス・ソリューション」とDaaSの採用により、約6000台の国内拠点のPCを刷新したという。また島根銀行ではTruScaleのIaaS(Infrastructure as a Service)を採用し、“所有しないインフラ運用モデル”に移行することで資産管理の煩雑さから解放されたとのことだ。
●AIのためのデバイスを一気通貫で提供
2025年度の取り組みでは「AI(人工知能)」も重点分野に据えている。グローバルのLenovoグループでも新たなメッセージとして「Smarter AI for all」を打ち出しており、日本でも日本市場に合わせた形で展開することになる。
檜山社長は「この1年間は、AIの広がりに向けて『デバイス』『サービス』『使い勝手』を強化していく」とした上で、「あらゆる領域にAIが溶け込む中で『Personal AI』『Enterprise AI』『Public AI』を組み合わせたハイブリッドAIが重要になる。ポケットからクラウドまでのインフラを提供し、その上でAIを活用できる環境を整える」と語った。
デバイスという観点では、AI処理を強化したPC/ワークステーションやタブレットはレノボ・ジャパンの他、NECパーソナルコンピュータ(NECPC)や富士通クライアントコンピューティングといったグループ企業も提供している。スマートフォンならモトローラ・モビリティ・ジャパンやFCNTもある。レノボ・エンタープライズ・ソリューションズはサーバやネットワーク機器を手掛ける。グループ全体で“一気通貫”できるのが強みといえる。
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檜山社長は「中でも『Copilot+ PC』は重要になる。業界で最も広いラインアップにより、ユーザーの環境に合わせた提案が可能になる」と胸を張る。フォルダブル端末の提供の他、高性能カメラを搭載するPC、画面内にカメラを埋め込んで表示を最大化したPC、世界初のNPU搭載会議室専用コンピューティングデバイスの投入など、他社(グループ)にはない差別化要素もある。
また、「ThinkPad X1 Carbon Gen 13 Aura Edition」はSGSによる「High Performance AI PC Certification」を世界で初めて取得しており「AIによって求められる高機能の実現だけでなく、環境負荷の低減にも考慮している」ことを示した。
レノボ・ジャパンは、PCベースのワークステーションにおいて国内シェアが25%で、特にモバイルワークステーションではトップシェアを獲得している。檜山社長は「エッジにおけるAIワークロードの拡大に対応するために、コンピューティングパワーが求められている。その結果、モバイルワークステーションのニーズが高まっている」という。
サーバではレノボ独自の液体冷却テクノロジー「Neptune」が第6世代まで進化していることを示した他、用途や業種ごとに用意したカスタマイズ可能なAIスイート製品「Lenovo AI Library」を用意していることを紹介した。デバイス/インフラ/データ/ソフトウェア/基盤モデル/サービスの組み合わせを事前技術検証し、提供しているという。
●AIの具体的なAIの使い方も提案
檜山社長は具体的なAI活用のシーンも提案した。
1日のスケジュールを元に、仕事を開始する2時間前にAIがアラームで起こし、朝食の時間に就寝中に届いていたメールの件数や内容を報告。その中から最も重要だと思われる上司からのメールについては、内容を基づいて必要な資料をAIが用意する。 返信のドラフトをAIが書くことまで自動化で行う。AIが書いたメールは、これまでの履歴などをベースに、ユーザーの書き方を踏襲しており、本人が書いたような内容になっている。 出社すると、午前中のスケジュールがいっぱいであることをAIが検知し、午後の訪問先のアニュアルレポートの要約版をAIが事前に作り、仕事の効率化に貢献する。
檜山社長は「これは、技術的には既に可能な世界である。だが、仕事と個人のデータをシームレスに結びつけることは、これからの課題となる。また、個人の生活の中にAIが入ってくることを嫌う人もいる。こうした状況を捉えながら、AIの利活用の提案を進めていくことになる」として、技術先行ではなく、ユーザーニーズの高まりや社会寛容度の変化などを捉えながら提案していくことが重要であることを強調した。
Enterprise AI領域での活用としては、レノボ自らが生産/開発/営業/サービス/サプライチェーンにおいてAIを導入している事例が紹介された。セールス/マーケティング部門では、コンテンツ作成時の効率が90%向上したり、サプライチェーンにおける判断を60%高速化したり、「Microsoft 365 Copilot」の活用によって、週1.9時間の空き時間を生み出し、顧客対応の時間に活用したりといった効果が出ているという。
NECPCとレノボ・ジャパンのPC修理業務を担うNECPCの群馬事業場(群馬県太田市)では、故障部位の特定作業にAI診断を活用しているという。これにより、新人エンジニアの修理対応台数が5倍になったという。「熟練エンジニアが特定していた故障部位を、新人エンジニアでも把握できるようになった。これまでの修理データをAIに読み込ませて実現したもので、日々精度が高まっている。現在、1回目の診断で故障が特定できる確率は85〜90%にまで達している」という。
「ここで活用しているアルゴリズムは、クリニック(病院や診療所)の診断でも応用できる。サービスセンターで生まれた技術が、別の産業でも利用できると考えている」とも語った。
●AIは「オンプレミス」での活用が増えそう
LenovoグループではIDCに委託し、日本を含むアジア太平洋地域の12市場のIT/ビジネスにおける意思決定者を含む2900人以上に調査した「Lenovo CIO Playbook 2025」を発表した。
その中で日本の調査結果に絞って見てみると、IT支出に占めるAIの割合が5.8倍に拡大していること、AI PC(NPUを内蔵するPC)を導入済あるいは、試験導入中という企業が37%に達していることなどが明らかになった。
AI活用の活用方法に着目すると、「オンプレミス(据え置き)」や「プライベートクラウド」、あるいは両社を組み合わせた「ハイブリッドクラウド」が増加していることが分かった。檜山社長は「IT産業の歴史は、メインフレームからサーバ/PCに分散化し、その後クラウドによって集中化した。だが、AIの広がりによって、オンプレミスでの活用が増え、新たな分散化の流れが起こると考えている」という。
この結果について、2025年1月に日本マイクロソフトからレノボ・ジャパンに移籍した佐藤久副社長は「セキュリティ/レイテンシー/コストといった3つの理由から、今後はクラウドで構築したAIをエッジに移行する『AI Edge offloading』が進むことになる。MCPサーバもその1つになる」と語る。
Lenovoグループの2024年度(2025年4月〜2026年3月)の業績は、売上高は前年度比21%増の691億ドルとなり、PC以外の売上構成比が47%に達した。Lenovoグループの持株会社(Lenovo Group Limited)は香港証券取引所に上場しているが、同取引所の会計基準に準拠しない指標(Non-HKFRS)を含む純利益は前年度比36%の14億ドルとなった。
コアビジネスにおける着実な成長の他、PC以外の領域でのパートナーやユーザーとの協業機会の増加、ハイブリッドAI時代に向けたポケットからクラウドまでのポートフォリオ拡大において、成果が上がっているという。
Lenovoグループは現在、約180の国と地域に展開し、6万9500人の従業員を擁し、世界18カ所の開発拠点、30以上の生産拠点を持つ。檜山社長は「国際情勢の変化に合わせて生産拠点の新設と閉鎖(スクラップ・アンド・ビルド)を進めている。世界中で何が起きても、サプライチェーンを含めて、柔軟に対応できる体制をとり、良い製品を開発し、生産し届けられるようにしている」と語る。
日本では、メタバースを活用した不登校支援サービスを東京/大阪/静岡で展開。大阪・関西万博では、「PASONA NATUREVERSE」パビリオンのスタッフが軟骨伝導イヤフォンによるインカムシステムを導入し、スタッフ間の円滑なコミュニケーションを実現している例を紹介した。また、F1のメインスポンサーであること、2026年にはFIFAワールドカップのスポンサーで務めることも紹介した。
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