「2時間も雑談が続いてしまって、本当に困っています……」
ある広告代理店業の部長からこんな相談を受けた。コロナが落ち着いてオフィス出勤が復活し、久しぶりの対面コミュニケーションに社員たちは盛り上がっている。しかし雑談が長すぎて、肝心の業務に支障が出始めているというのだ。週1〜2回の貴重な出社日なのに、半日近くを雑談で過ごしてしまう社員もいる。注意したいが、せっかく活性化したコミュニケーションを萎縮させたくない。
こうした事例は決して珍しいことではないだろう。ABEMAニュースでも2023年1月の放送回で「デスク爆弾」という現象を取り上げ、「職場などで自分のデスクに前触れもなく近づいてきて、延々と雑談や仕事の相談をされること」の是非を議論していた。
そこで今回はオフィス出勤復活に伴う課題と、上司として空気を悪くせずに注意するコツについて解説する。リアルコミュニケーションとのバランスに悩んでいる管理職は、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
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著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
●世界的なオフィス回帰の流れ
コロナ禍で一気に普及したリモートワーク。ところが2023年以降、世界的にオフィス出勤を復活させる企業が増えている。
米国ではアマゾンが2025年から週5日の完全出社を義務化すると発表した。同社は「イノベーションと企業文化の維持のため」と説明している。JPモルガン・チェースも同様に、全社員に週5日出社を求めている。
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日本でも出社回帰の動きが加速している。全面的な出社回帰ではなく、週1〜3回のハイブリッド勤務を採用する企業が主流だ。
注目すべきはIT企業の方針転換である。LINEヤフーは2020年にリモートワークを積極推進していたが、2025年から段階的にオフィス出勤を強化している。同社の幹部は「対面でのコミュニケーションがイノベーション創出に不可欠」と説明した。楽天グループも完全リモートから原則週4回の出社へ移行する。
これらIT企業の判断はインパクトが強い。デジタル技術を熟知している企業でさえ、リアルなコミュニケーションの価値を再認識しているのだ。
背景にあるのは、リモートワークによる生産性低下への懸念だ。とりわけ創造性やイノベーションが求められる業務では、対面でのコラボレーションが重要視されている。また新入社員の育成においても、非言語コミュニケーションの重要性を伝えるうえでも、対面の必要性が高まっているケースが増えている。
●リアルコミュニケーションの価値と課題
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オフィス出勤の復活により、リアルコミュニケーションの価値が見直されている。
最大のメリットは、数値で測れない(非認知的)情報の伝達だ。表情、声のトーン、身振り手振りといった非言語コミュニケーションは、テキストや音声だけでは伝わらない。心理学者のメラビアンの研究では、コミュニケーション全体の93%が非言語情報だとされている。
特に新入社員にとって、この非言語情報は貴重だ。先輩の仕事への取り組み方、顧客との接し方、困難な局面での判断力などは、言葉では説明しきれない。こうしたスキルは実際に同じ空間で働くことで自然と学習できる。
しかしリアルコミュニケーションには課題もある。オンラインでは制御しやすかった雑談や私語が、対面では長時間化しやすいのだ。週1〜2回の貴重な出社日だからこそ、コミュニケーションへの期待が高まり、結果として非生産的な時間が増えてしまう。
●オフィス出勤の3つのデメリット
オフィス出勤の復活に伴い、以下のデメリットが顕在化している。
雑談の長時間化
リモートワーク中心だった社員にとって、対面での会話は新鮮だ。そのため、ついつい話が長くなってしまう。週に数回しか会えないという希少性が、かえって会話を長引かせているのだろう。
集中力の分散
オープンオフィスでは、他人の会話が気になって集中できない社員が続出している。在宅勤務に慣れた社員にとって、周囲の雑音は想像以上のストレスだ。ロッテ(東京都新宿区)の調査によると、オフィス復帰後に「集中できない」と回答した社員は8割に達したという。
無駄な会議の復活
「せっかく集まったのだから」という理由で、本来不要な会議が復活している。リモートワーク期間中に効率化された業務フローが、オフィス出勤により元に戻ってしまうケースが多い。30分で済む議題を2時間かけて議論するような、非生産的な会議が再び増えている。
これらのデメリットを放置すると、せっかくのオフィス出勤の効果が半減してしまう。だからこそ、上司としての適切な指導が必要なのだ。
●空気を悪くせず注意する3つのコツ
それではチームの雰囲気を壊さずに、長時間の雑談を注意するコツを紹介しよう。以下の3つを心掛けたい。
時間を意識させる
最も重要なのは、雑談そのものを否定しないことだ。「みんなで情報共有できていいよね。ただ、今日は午後3時までに資料を仕上げる必要がある。そろそろ切り上げて作業を始めよう」このように、まずは雑談の価値を認めることだ。
全体への声かけをする
特定の社員を名指しで注意しないほうがいい。チーム全体への声かけにしてはどうか。「今日は出社日なので、午前中は集中作業、午後は打ち合わせという流れでいきましょう」と全体に向けて話すのだ。メールでチーム全員に注意喚起するのもいい。
タイムボクシングを採用する
前回の連載でも紹介した、「タイムボクシング」というテクニックを組織内に広めるのもいい。どの時間帯にどの作業に集中するのか。あらかじめスケジュールに「タイムボックス」として表記し、チーム全体で共有するのだ。こうすれば、終わりの時間を意識せずに雑談を続けることはなくなるだろう。
大事なことは「雑談をするな」と指示しないことだ。「ただ黙々と業務に打ち込めというのなら、在宅ワークのほうがよっぽどいい」「私たちを監視したいのか?」と思われては本末転倒だ。「時間を有効活用しよう」という提案として伝えることが重要である。
これらのコツを実践する際は以下の点に注意したい。
まず、上司自身が雑談に参加していた場合は、素直に認めることだ。「私も楽しくて話し込んでしまいましたが」と前置きすることで、メンバーも受け入れやすくなる。
また、タイミングも重要だ。雑談が最も盛り上がっている瞬間ではなく、少し落ち着いたタイミングで声をかける。急に話を遮ると、かえって反発を招く可能性がある。
●まとめ
オフィス出勤の復活により、リアルコミュニケーションの重要性が再認識された。しかし、貴重な出社日を非生産的な雑談で消費してしまってはデメリットのほうが多くなる。
上司として必要なのは、コミュニケーションの価値を認めつつ、適切な時間管理を促すこと。雑談を完全に禁止するのではなく、メリハリをつけて効果的に活用しよう。コロナの時代を越え、チームとしての真価が問われる時代になってきた。ただ「元通り」にするだけではなく、より生産性の高いチームとして進化させるきっかけにしたい。
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