写真はイメージです最近、外国人によるひき逃げや高速道路上での逆走など、悪質な交通事故が増加しています。その背景には「外免切替」という制度が影響しているのではないかと指摘されています。この制度にはいくつかの問題点が浮き彫りになっており、警察庁も制度改正に動き出しました。外免切替とはどんな制度で、どこに問題があるのでしょうか。
◆外国人が日本で運転する3つの方法
外国人ドライバーによる悪質な交通事故が増えています。2025年5月、埼玉県三郷市で小学生4人が負傷したひき逃げ事件で、中国籍の男性2人が逮捕されています。さらに同月に新名神高速道路で、乗用車で逆走し、2台の車両と衝突した事件も発生し、ペルー国籍の男性が逮捕されています。いずれの事件でも、逮捕された容疑者らは外免切替(外国運転免許証による運転免許の切り替え)を利用し、日本の運転免許証を取得していたことがわかっています。
そもそも、外国人が日本で運転する(日本の運転免許証を取得する)ためには、主に3つの方法があります。まず、ジュネーブ条約に基づく国際免許証を取得する方法です。対象となる国は、アイスランド、イギリス、イタリア、スペイン、バチカン、アメリカなど100カ国に限られるため、条約に加盟していない国の出身者は別の方法を探らなければなりません。
2つ目の方法は、外国で取得した運転免許証に日本語翻訳(領事機関などで発行)を付ける方法です。対象となる国はスイス、ドイツ、フランス、ベルギー、モナコ、台湾のみで、この6カ国以外の出身者は、やはり別の方法を検討する必要があります。
3つ目の方法は、日本国内で教習所などに通い試験を受けて免許を取得する、または、外国で取得した運転免許証を日本の運転免許証に切り替える方法です。しかし、日本の教習所に通うのは時間も費用もかかるため日本に永住(または長期滞在)する人以外は、外国の免許証を日本の免許証に切り替える「外免切替」を選択することが多いようです。
中国、ベトナム、ペルーなどは、ジュネーブ条約にも加盟しておらず、運転免許証に日本語翻訳を付けることも難しい。そうなると外免切替を選ぶことになるわけです。
そもそも日本の外免切替によって、運転免許証を国際免許証に切り替えられれば、ジュネーブ条約に加盟している約100カ国で運転できるとあって、非常にコスパが良く、中国人やベトナム人の申請が殺到しているのですが、この外免切替がいま問題になっています。
◆外免切替の急速な拡大と問題点
警察庁運転免許統計によると、2024年の外免切替制度を利用して日本の運転免許証を取得した人は7万5905人。10年前(2014年は3万381人)と比べると約2.5倍に増加しています。この背景には、外国人労働者や観光客が増加しているためと考えられています。
この外免切替にはいくつかの問題が指摘されています。まず審査基準が非常に緩いということ。筆記試験はわずか10問のみ。いずれも◯か✗の2択式で、設問は「赤信号は止まらなければならない」とか「酒を飲んだら運転してはいけない」などの、至極当然の問いが多く、ほとんどの人が正解できるようなやさしい問題となっているのです。
さらに、技能試験も非常に簡単だと指摘されています。一時停止を正確に守れるか、S字カーブを脱輪することなく走行できるかといった基本操作しか問われないのです。
さらに、住民票などの書類は不要で、滞在先の旅館やホテルの住所を記載すれば申請ができてしまうのです。そうなると、観光ついでに外免切替を利用して日本の運転免許証を取得しようという人が増えるのも納得です。
ではなぜ、外免切替はここまでやさしい制度になっているのでしょうか。
もともと外免切替は、海外に在住している日本人が、日本に一時帰国した際に利用することを想定した制度です。そのため、滞在先のホテルでも申請できるのは、一時帰国している日本人にとっては便利な制度といえます。
ところが、実際には日本に定住している外国人が多用しています。とある国では、日本の運転免許証を取得するためのツアーが開催されているそうで、実際、東京都内の運転免許試験場に行ってみたところ、平日の午前7時半の時点で、多くの外国人と思われる集団が試験場の入口で列をなしているのを確認できました。関係者によると、外免切替の予約が2、3ヶ月待ちの状態で、すでに手続きがパンク状態なのだそうです。
◆改善に向けた提言と今後の展望
警察庁は「外免切替制度のあり方について制度の運用の両面から検討を進めることにしている」と述べており、知識確認の問題(10問)を見直し、住民票の提出を必須とするなど住所確認を厳格化する制度改正を検討しています。
改善策を提言するのなら、知識確認の問題を10問から50問に増やすべきと考えます。この50問は、仮免取得時に出される学科試験(本免許取得時は95問)と同じ問題数です。少なくとも50問中、45問以上の正解(90%以上)で合格とすべきではないでしょうか。
さらに、学科試験以外に、標識の意味や右側通行など、日本独自の交通ルールを学ぶ講義の時間を設けることも必要だと思います。その際に必要となる教材の配布やビデオ鑑賞時間なども確保しつつ、外免切替対象者に対して、定期的な安全運転講習を実施することも検討してほしいと思います。
外国人による悪質な交通事故は、基本的な運転操作の誤りというよりも、日本の交通ルールへの理解不足からきている可能性があります。言語の壁によって、標識や法令理解が十分ではないことも影響しているかもしれません。制度を改正するためには、教材や試験の多言語化が必須だったり、通訳体制の整備が必要だったりして、手間も時間もかかるかもしれませんが、被害者や遺族のことを考えれば、制度の厳格化は必須です。
これ以上、外国人による悪質な交通事故を防ぐために、一刻も早い制度改正を願うばかりです。
〈文/室井大和〉
【室井大和】
自動車ライター。出版社の記者・編集者を経て、指定自動車教習所の指導員として約10年間勤務。その後、自動車ライターとして独立し、コラムや試乗記、クルマメーカーのテキスト監修、SNS運用などを手がける。