画像はイメージです yu_photo - stock.adobe.com「クロネコヤマト」のヤマトホールディングスと、「佐川急便」のSGホールディングスの明暗がくっきりしてきました。2社ともに営業減益だったものの、ヤマトホールディングスは6割超も落ち込んだのです。苦戦する背景には、現場のオペレーション負荷が高まって効率化が進まないことがあるのではないでしょうか。中小企業コンサルタントの不破聡が解説します。
◆佐川とヤマトで分かれた明暗
SGホールディングスは2025年3月期の期初に、営業利益を前期比7.6%増の960億円と予想していました。着地は同1.5%減の878億円。計画を82億円ほど下回りました。
委託単価の引き上げなどにより、外注費が増加。利益を下押ししました。ただし、営業利益率は5.9%と高い水準を維持しています。
一方、ヤマトホールディングスの2025年3月期における営業利益率はわずか0.8%。前期から1.5ポイントも下がりました。小型荷物の取扱量が多いヤマトは利益率が低い傾向があります。しかし、営業利益率が1%を下回るのは2008年3月期から振り返っても一度もありません。
◆メール便の取扱量が8割減少するのは「異常事態」
ヤマトは2025年3月期の期初に営業利益を前期比24.8%増の500億円と予想していました。着地は同64.5%減の142億円。投函収入の減少が、377億円の営業利益下押し要因になったと説明しています。2025年3月期における「クロネコゆうメール(旧クロネコDM便)」の取扱数量は前期の8割減となる1億1000万でした。
ヤマトは2023年6月に日本郵政との協業を発表しました。「クロネコDM便」と「ゆうメール」を「クロネコゆうメール」に統合し、集荷をヤマト、配達を日本郵便が行うという協業体制を構築。2024年2月から本格稼働していました。
しかし、集荷と配達を2社による分業で行ったことにより、想定外のタイムラグが発生。配達日数の遅さが客離れを引き起こしました。取扱数量が8割減少するというのは異常事態とも言えるもので、ヤマトが一方的に協業体制の見直しを求めた理由はここにあります。
◆窮地に立たされたヤマトの問題点は…
日本郵政はヤマトに対して120億円の損害賠償を求めて提訴。ヤマトは請求棄却を求めて争うと見られています。当時の社長・増田寛也氏は協業体制を推進した主要人物の一人であり、ヤマトが当初の姿勢に立ち返ることで協議の門戸は開かれていると、態度を軟化させていました。
しかし、増田氏は今年6月に退任することが決定しています。新社長は根岸一行氏。根岸氏は旧郵政省出身者で、官僚が経営トップを務めることで官業回帰色が強まると見られています。ヤマトとの話し合いは硬直化する可能性もあるのです。
窮地に立たされたヤマトですが、仮にメール便の取扱数量が元に戻ったとしても、収益性が完全回復するのか疑問の余地があります。オペレーションに問題があるように見えるためです。
ヤマトは配達や仕分けなどの業務を一部外部に委託しています。2025年3月期における委託費は3645億円で、前期と比べて0.4%増加しました。この委託費は営業費用全体の2割を占めており、社員の給料に次いで金額の大きい項目です。そして、金額は年々増加しています。
◆作業効率が下がって社員の負担が増している?
ヤマトの「宅急便」や「ネコポス」「クロネコゆうパケット」、「クロネコゆうメール」の全取扱数量を委託費で割り、委託費1億円で取り扱える荷物の数を算出すると、2025年3月期は67万6000個となります。この数字は、2022年3月期が94万5000個でした。
ただし、「クロネコゆうメール」の取扱数量は急減しています。そこで、「クロネコゆうメール」を除外し、「宅急便」や「ネコポス」のみで算出すると、2025年3月期は64万5000個。2022年3月期は69万3000個でした。7%の減少。つまり、外部に委託する業務の生産効率が下がっていることを意味しています。
一方、社員の給与を中心とした人件費で同じ計算をすると、2025年3月期の人件費1億円当たりで取り扱える荷物の数量は29万6000個で、2022年3月期は26万1000個でした。13%増加しています。社員が生産効率低下の分をカバーしている様子が浮かび上がってくるのです。
◆“スキマバイト”で人手不足を補えるのか
ヤマトは2024年度に配達委託をしていた3万人の契約を打ち切りました。これは日本郵便との協業体制を構築したことで、自社が抱えていた人員を早い段階で断ち切った動きと見ることができます。
合理的な経営判断にも見えますが、業務委託者の中にはベテランと呼べる人も多く、倉庫の仕分け作業なども行っていたケースがほとんど。現在、ヤマトはスキマバイトサービスなどを使って人材不足を補っていたものの、経験不足の人員で簡単に補填できるほど物流業務は単純ではありません。
社員への業務負荷が高くなれば、離職率の急増を招きかねません。新たな人員を確保しても、すぐに抜けてしまうという悪循環にもつながります。
仮にメール便を日本郵政の協業と関係なく単独で扱うようになった場合、それをさばききれる余力があるのかも疑問。ヤマトは企業規模が大きい割に経営判断が早く、状況が目まぐるしく変化します。日本郵政との協業と大量の個人事業主の契約解除、そして一方的な提携解消の提案がまさにそうでした。
これは強みである一方で、現場の混乱も招きます。オペレーションが円滑に回る体制が作れているのか、改めて振り返るタイミングがきているようにも見えます。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界