玄関で“ピッ” 職場へ向かうべく家を出る寸前、「あー、行きたくねえ!」とグズったことはないですか? 私はあります。そういえば、子どもの頃も学校に行きたくなくてグズってたっけな……。
Xユーザーであるダンボールビーダマン工作・発明さん(@dandanb_dama)の息子さんも、保育園に行く寸前に玄関でグズるタイプだそう。そこで、ダンボールビーダマンさんはあるものを作りました。
“子鉄”(子どもの鉄道ファン)である息子さんのために玄関に設置したのは、ダンボール製の改札機! 電車好きの我が子ならば、ICカードを“ピッ”とタッチして颯爽と保育園に出発するのでは?……という効果をねらい、改札機を工作したのです。
この自作改札機の詳細について、ダンボールビーダマンさんに話を聞きました。
◆ICカードのタッチは子どもにとってあこがれ
――ダンボールで改札機を作ったのは、息子さんが保育園に行くのをグズっていたからですか?
ダンボールビーダマン:工作したきっかけは、大きく二つありました。一つ目は、保育園に連れていくのが大変で、工夫をしないと毎日大変だし疲れてしまう。だから、なにか作って解決しようと思ったんです。
――お子さんはそんなに通園を嫌がっていたのですか?
ダンボールビーダマン:イヤイヤ期なのかわからないんですけど、気分によってすんなり行ってくれる日もあれば、「行こう」と呼びかけてから30分から1時間くらい「今日は行きたくない」とグズる日もあります。
――30分から1時間! 忙しい朝なのに大変ですね……。
ダンボールビーダマン:本当は9時には保育園に預けたいと思っているので、8時45分くらいに「行こうよ」と声をかけるのですが、だいたい保育園に到着するのは9時半ぐらいになっていることが多いです。
――9時には朝の用事を済ませたいけども、9時半になっちゃうことが多かったんですね。
◆ある付録もきっかけのひとつに
ダンボールビーダマン:はい。もう一つのきっかけは、2024年冬におばあちゃんが買ってきてくれた『げんきMOOK 光る! リアルサウンドICカードかいさつき』(講談社)を息子が気に入って、付録でよく遊んでいたこと。改札のICカードをタッチする部分が独立したようなつくりで、ここを押したら本物のようにLEDライトが光り、「チャージしてください」といったセリフや効果音が鳴るという仕様です。タッチするICカードも付いており、このカードで押さないと音は鳴りません。
――すごい付録ですね!
ダンボールビーダマン:このおもちゃにはタッチ部分しかないので、床に置いた状態でカチカチやりながら息子は遊んでいました。でも、それだと最初は楽しそうなんですけど、だんだん飽きていっちゃうんです。だから、「子どもの背丈に合わせて作った改札機があれば、もっと遊んでくれるんじゃないかな?」と思ったんです。
正直、工作してもすごく精巧なものができるわけではないので、アイデアと組み合わせることで精巧ではないなりにおもしろいものを作れるよう、がんばっています。
――小さい頃を思い出すと、私も自分で駅員さんに切符を渡したいと思っていました。たぶん、息子さんにもそういう憧れがあるのでしょうね。
ダンボールビーダマン:うちの場合、ICカードを持たせて抱っこした状態でタッチさせてあげたりはするのですが、それも一瞬の出来事なので憧れてはいると思います。
◆改札機の材料、構造は?
――改札機の構造が気になるのですが、まずはICカードタッチ部分には先ほどの雑誌の付録を採用したわけですね?
ダンボールビーダマン:はい。せっかくいいものがあったので、出来合いのものだけどそれは採用しようと。
――ダンボールビーダマンさんのポストで見たのですが、切符を入れると自動ではなく手動で切符が出てくるようになっているのもポイントですね。
ダンボールビーダマン:そうですね。妻が改札機のなかから切符を受け取り、出てくるところから切符を排出する“全手動改札機”の仕様になっています。
でも、私としては切符を出すという構造はまったく考えていませんでした。技術的に難しいので(笑)。
◆切符が出てくるところにはボックスティッシュを
普段は、改札機の内部にケースを入れていて、落ちてくる切符を受け止めるようにしています。
あと、切符を出す代わりにボックスティッシュを置いておき、ティッシュを取り出せるようにしました。改札機から切符は出ないけど、切符の代わりに取り出したくなるものを置けばそれっぽさは再現できるんじゃないかな? と想定しました。
◆改札機の下の部分には収納スペース
――切符は手作りですか?
ダンボールビーダマン:切符は100円ショップでフレークシールを見つけたので、それを使っています。
――あと、これも登園を促すためだと思うのですが、改札機が靴箱になっているのも素晴らしいです(笑)。
ダンボールビーダマン:作る前から切符を入れるところと出るところはなんとなく想定していたのですが「下部の空間が結構余っちゃうな」と思っていました。で、私たちが駅を使うとき、改札機をメンテナンスしている場面をたまに見るじゃないですか?
――はいはい、切符が詰まったときとか。
ダンボールビーダマン:改札機をパカっと開けて駅員さんが見ている瞬間って、すごくワクワクしないですか? 大人でも覗いちゃったりして。その機械チックな内部を再現しようと最初は思っていました。普段は蓋が閉まっているけれど開けたらガチャガチャしていて、見ても楽しめるようなものにしようと。
でも、そこまでするのは大変だし、きっとすぐ飽きられると思ったんです。玄関に置くものだから、実用性があるほうがいいし。
もともと、子どもの靴箱は大人の靴と同じところに入れていたのですが、大人に合わせた高さに扉の取っ手があるので、息子は自分で靴が取れないんです。でも、子どもの靴も自分で出し入れできるようにしたら勉強になると思い、最終的に改札機と靴箱はひとまとめにしました。
◆製作費はたったの1000円
――使われている材料は、タッチ部分の付録以外すべてダンボールですか?
ダンボールビーダマン:ほとんどダンボールで、細かい部分に色画用紙なども使っています。ダンボールは、息子が使っていた子ども用おむつのダンボールです。
――制作費はどのくらいになりますか?
ダンボールビーダマン:もともとダンボールは家にあったのですが、“改札感”を出すために反射する銀色も必要でした。その感じを出すため、ダイソーで折り紙を買いまくりました。それらを合わせても、合計で1000円以内くらいです。
――たしかに、改札機の画像を見ると光っていますね(笑)。
ダンボールビーダマン:はい。改札機の外観はインターネットで調べて、なるべく本物に沿った形で仕上げました。
◆実はまだ未完成だった!
――製作はどのくらいかかりましたか?
ダンボールビーダマン:いろいろほかのことをやりながら製作したのですが、2週間かかっていないと思います。
――製作時に苦労した点や失敗談はありますか?
ダンボールビーダマン:実は……まだ、未完成なんです。
――まだ、未完成!?
ダンボールビーダマン:昨年末の時点で今の状態まではでき上がっていたのですが、もっと装飾しないとリアルな改札っぽくならないと思っていました。
たとえば靴箱の蓋、改札の蓋の部分も作ろうと思っていたんです。改札って、中の部分は見えないじゃないですか? だから、靴箱の部分の蓋をちゃんと作らないと“改札感”が出ないかなあと。あと、フラップバー(エラー時、通行を遮断するために出てくるバー)もせめてスポンジで作ろうと思っていました。
でもある日、息子が車掌さんみたいな帽子をかぶり、切符を切るような感じで爪切りをカチカチさせながら車掌さんごっこをしていたんです。その姿を見ていたら、改札機があるともっと喜ぶなと思い「もう、出しちゃえ!」と、未完成のまま玄関に設置したんです。
――息子さんは、どんな反応でした?
ダンボールビーダマン:電車好きの息子にとって改札機はすごく新鮮だったようで、最初は何度も遊んでいました。「チャージしてください」と改札で足止めされる、残高が足りない大人みたいでしたね(笑)。
◆「改札を通って保育園駅に行こうよ」と声をかけると…
――改札機ができた後、保育園に行きたがらなかった息子さんはどうなりましたか?
ダンボールビーダマン:これができてから「改札を通っていくよ」「切符を使って保育園に行こうよ」「保育園駅に行こうよ」と言うと、いつもより足早に玄関へ向かってくれるようにはなりました。でも、子どもは飽きやすいので5月になった今はまた新しい刺激を求めています。
――つまり、また通園をグズり始めている?
ダンボールビーダマン:グズったり、単純に気分が乗らなかったり。改札を通ってスムーズに行ってくれる日もあるのですが、スムーズじゃない日のほうが多くなりました(苦笑)。
――また新たに工作をしなきゃ、という感じですかね(笑)。
ダンボールビーダマン:そうですね。でも、お友だちが来たときはよく一緒に遊んでいます。
――お友だちも、やっぱり子鉄が多いのですか?
ダンボールビーダマン:やっぱり、3歳のくらいの子はみんな電車が好きみたいですね。家に改札機がある子はほかにいないと思うので、「やりたい」と遊びに来てくれます(笑)。
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「改札を通って保育園駅に行こう!」と呼びかけても、またグズるようになってしまった息子さん。だとしても、「我が子のために改札機を作ろう」という発想からは愛を感じました。
この改札機がまだおもちゃとして活躍しているならば、結果オーライでしょう!
<取材・文/寺西ジャジューカ>