「万博で土下座」が騒動に…警備員がカスハラ被害を“受けやすい”ワケ 「ヒエラルキーの下層にいる存在と見られている」

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2025年05月29日 17:31  日刊SPA!

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大阪・関西万博の会場周辺で「土下座をする警備員」の動画はご覧になっただろうか。オペレーションの稚拙はたびたび指摘されているものの、「いくらなんでもやりすぎ」と思った人が大半だと思う。実際、昨今社会問題化する“カスハラ”の文脈で大いに話題になったのは記憶に新しい。
さて、万博のようなイベントや、工事現場の交通誘導・商業施設など、警備員が働く現場は枚挙にいとまがない。ただ普段具体的にどんな仕事をしているのかは、当事者以外は把握していないのではないか。

そこで、警備会社を数社渡り歩いた経験を持ち、警備員の日常を、X上に淡々と投稿している「とある施設警備員」(@toarukebiin)という人物に話を聞いてみることにした。リアルな仕事の様子を探っていきたい。

◆土下座したのは「2号警備員」?

日本の警備業法の上で、警備員は1〜4号に分類される。とある施設警備員氏によれば、今回の土下座騒動の当事者となったのは「2号警備員」ではないかという。

「2号は建設現場や駐車場での交通誘導や、人混みが発生するイベントや祭りなどの雑踏警備をして安全確保を担当するので、今回の件は2号の方だと思います。私は主に1号警備の仕事をしていて、こちらは商業施設やオフィスビルなどを巡回・監視して犯罪や事故を防ぐ施設警備です。万博でも、パビリオンの警備などは1号がやっているはずですよ」

ひとくちに警備員といっても様々で、3号は現金や貴重品の輸送を安全に行う役割、4号はVIPや要人の身辺警備をするボディーガード的な仕事を担うらしい。

◆ロビーで爪を切る人物に注意したら…

今回の「土下座事件」では、「カスハラだ」という指摘が多く上がっている。1号および2号の警備員は、施設・イベントの利用者や来場者と最前線で接することから、常にクレームを喰らうリスクと対峙している。とある施設警備員氏は、カスハラが発生する理由について、世間の潜在的な意識にも要因があるように感じるのだとか。

「警備員をはじめて7年ほどですが、世間からヒエラルキーの下層にいる存在と見られている感覚はあります。私は主に、タワマンの警備をしていますが、居住者には高所得な方が多いからか、その傾向が強いようにも感じますね」

場所が場所だけに小間使いのように扱われるエピソードも。

「つい先日、マンションのロビーからパチンパチンと音がしていて。見に行くと、居住者の若い男性がロビーのソファーで爪を切っていたんです。切った爪を床に散らかしていたので、『ご自身の爪はお持ち帰りください』とできる限り丁寧に優しく話したんですが、『うるっせえな! こっちは管理費払ってんだから、このくらいお前がなんとかしろ!』と怒られてしまいました……」

結局、男性はそのまま立ち去ったためにとある施設警備員氏が後片付けをしたのだという。

◆横柄な配達員は珍しくない

タワマン内で接するのは、居住者ばかりではない。管理人や清掃業者、コンシェルジュや引越し業者など様々な人が出入りする。なかでも、最近はヤマト運輸や佐川急便などの宅配業者や、Uber Eatsなどの食品配達員とのトラブルも増えているという。

「防犯上、タワマンは配達する人にとって面倒なルートになっていることが多いんですけど、『居住者ルートで入らせろ!』と迫られることがあります。この前ある配達員から『じゃあ、お前が届けてこい!』と凄まれて……。『私たちはそういった仕事ではないので』と断ると『生意気だな』と語気を荒げられて大変でした。やり取りする様子を動画に撮る配達員の方もいて、本当に困りますね」

プライベートの時間であるならまだしも、少なくとも会社の看板を背負っている仕事中のはず。にもかかわらず、このような事象が横行しているのは驚きだ。

◆行方不明の人物がエレベーター内で…

「1号警備員」のとある施設警備員氏が任されるのは、施設内の警備。ただ、時にその範疇を超えているとも感じられる仕事も。ある時、泥酔した居住者の男性がマンション内で行方不明になったと、男性の友人から通報が。警備員総出で、館内を捜索した結果、男性はエレベーター内で発見されたのだが……。

「全裸で、なおかつ子宮の中にいる胎児のようなポーズで寝ていたんです。しかも、口からは嘔吐、お尻から脱糞して……汚物が本人を囲むように散らばっていました。時間帯によっては清掃の方にお願いできますが、深夜だと一次対応はしないといけません。ウイルスなども気になりますしニオイも強いので……最悪な出来事でした」

◆睡眠が浅くなってしまった

もちろん、巻き込まれるのは大きなトラブルだけではない。

「仮眠中に全員出動の事象が起こるのが地味につらいです。眠りそうになったタイミングで、酔っ払った人が間違えて排煙ボタンなどを押して非常ベルが鳴ることがあります。睡眠時間が削られるので、あくびを押し殺しつつ現場に行くハメに……。そのせいか、2〜3時間で起きてしまう癖がつきました。休みの前日でもふと目が覚めてしまって、ゆっくり寝られないなんてこともザラです」

また、「警備員が低く見られている」と感じるのは、現場の話だけに留まらない。たとえば仮眠室の設備。

「警備員の仮眠室は雑な扱いになっていることが多いです。大学の警備に入ったとき、仮眠室に行ってみると、3畳くらいの部屋の壁びっしりに姿見が置いてあって、全部が合わせ鏡になっていたんですよ。そして布団を取り出そうと押入れを開くと、なぜか日本人形が入っていて……。あまりに怖くてまったく眠れませんでした」

◆ハラスメントが横行する業界

警備員の働き方には改善されるべき部分が少なくない。世間では、あらゆるハラスメントに厳しい目が向けられるようになってきたが、警備業界はまだまだ遅れていると感じるのだという。

「現場ごとにボス的な人がいて、その人の機嫌しだいで采配されることがあります。まだ全然眠たくない夕方くらいに仮眠を取らされたり、ボスは一度も嫌な巡回に行かずに全て押し付けられたり……」

くわえて、会社の管理体制に疑問を持った経験も聞かせてくれた。

「2号警備の代役として、交通整理の現場に行ったら私ともうひとりしかいないんです。AポストとBポストの2か所を3人で休憩を回しながら警備するんですが、つまりは『休憩なし』ということですよね……。こういったことがまかり通っている業界なんです」

◆いろいろあるけど、オススメできる仕事

大変なことばかりのようにも思える警備員の仕事。とある施設警備員氏は、どんな経緯で警備員の仕事を始め、7年間も続けているのだろうか。

「本業であるサラリーマンだけでは収入が乏しかったので、ダブルワーク先として働きはじめました。現在は月〜金曜には通信関連企業でフルタイムで働き、週末に警備員として働いています」

先日、警察官が火事場泥棒をして捕まった際、「いくらお金があっても将来が不安だった」と供述していることがニュースに。賃金も上がらず、将来の年金がきちんと受け取れるかもわからない現代日本。こうした懸念が蔓延するのもうなずける。

「警備員の仕事が収入の一翼を担っているのは間違いありません。土曜早朝から日曜早朝までの24時間勤務一回で2万円程度稼げます。本業だけでは難しい時代になっているので、ダブルワーク先としてはオススメです」

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24時間勤務はさすがに……という場合であれば、夜勤のみの選択肢も。1回で1万円前後の収入になるという。人手不足が顕著であるらしく、入りやすい業界であることは間違いない。持て余した時間を換金したければ、検討の余地アリかもしれない。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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