ある中堅IT企業の課長が、営業課長の相談を受けていた時のことだ。その課長は「部下が最近、冷たい態度をとるようになった」と困惑していた。
部下は入社4年目。なぜか距離を置かれている。
詳しく話を聞くと、課長は今でも部下の商談に頻繁に同行し、資料作成にも細かく口を出していた。このような過干渉の上司と、うんざりしている部下という構図は、現代の職場ではよく見られる光景だ。
そこで今回は部下からウザがられる上司の特徴と対処法について解説する。部下との適切な距離感に悩む管理職は、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
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●「部下離れ」できない上司の実態
「部長、正直に言っていいですか? H課長、心配しすぎなんです」
小さなミスでも必ず事前に確認を求められ、顧客への連絡一つとっても「念のため内容を見せてくれ」と言われる。まるで新人時代に戻ったような気分になるという。しかもH課長は「君のためを思って」と善意のつもりらしい。
「ありがたいのは気持ちはあるのですが、正直、息が詰まるんです」
このような事例は他にもある。
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ある製造業では、部下がプレゼン資料を作ると、上司が「顧客に失礼があってはいけない」と言って、誤字脱字から話す内容まで細かくチェックし、最終的には上司が同席し、自ら補足説明を始めてしまう。部下からすれば「信頼されていない」ような気持ちになるという。
●部下からウザがられる上司3つの特徴
部下から煙たがられる上司には、決まった特徴がある。私が20年以上企業の現場で見てきた中で、次の3つが代表的だ。
1. 過度に先回りする対応
2. 細かすぎる確認
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3. 挑戦をさせない過保護
1つ目の特徴は、やたらと先回りしようとする姿勢だ。ある営業3年目の若手が「ウザイ……」とため息をついていた。営業3年目なら、ある程度の判断はできるはず。にもかかわらず「大丈夫か?」「何か困ったことはないか?」と1日に何度も声をかける上司がいる。
メールの文面から会議の進め方まで、事前に確認を求めたがる。部下からすれば「そこまで心配されなくても」という気持ちになるだろう。
2つ目の特徴が、確認が細かすぎることだ。スケジュールや進捗(しんちょく)を異常なほど管理したがる上司がいる。「この件、どうなってる?」「明日の準備はできてる?」といった確認を繰り返す。しかも自分なりのやり方を押し付けてくる。
「重要な商談はオレンジ色のフラグを付けたほうがいい。それから、フラグごとにソートをかけることでスケジュールの優先順位が分かって……」
このように、メールソフトの細かい設定にまで口出ししてくるのである。
そして3つ目の特徴が、過保護すぎて挑戦させないことだ。これは最も問題のある姿勢だろう。部下が新しい提案や挑戦をしようとすると「失敗したらどうする」「リスクが高すぎる。まだやめておけ」と止めてしまう。
「それよりも、このような企画にしたほうが安全だから。まだ経験が足りないんだから、社内で目立つ必要はない」
このように、結局は上司が「安全な方法」を指示して、部下の成長機会を奪ってしまう。部下のやる気は徐々に削がれていくだろう。
●上司は「部下離れ」を心掛けよう
では、どうすれば適切な距離感を保てるのか。答えは「部下離れ」だ。親が子離れするように、上司も部下離れする必要がある。
そのためにも、まずは責任と権限を明確に分けよう。「この案件は君の責任で進めてくれ。困ったときだけ相談に来い」と伝える。そして実際に部下に任せる勇気を持つことだ。次に、失敗体験もさせる覚悟を持とう。
「成功体験を積ませたい」
という上司の気持ちは分かる。
「失敗するのを、みすみす見逃すわけにはいかない」
経験豊かなベテラン上司であれば、そう考えるのも無理はない。しかし上司の予想通りに失敗するかどうかは分からないし、たとえ失敗したとしても、それも素晴らしい経験だ。その経験を重ねることで創意工夫ができるようになるし、ストレス耐性もアップする。
●上司こそ自分のキャリアに集中すべき理由
実のところ、過干渉になる上司の多くは、自分自身のキャリア形成に課題を抱えている。部下のことばかりに気を取られて、肝心の自分の成長を怠っているのだ。上司が自分のキャリアに集中すべき理由は3つある。
時代の変化についていけなくなる
部下の面倒を見るだけで満足していると、新しいスキルや知識の習得がおろそかになる。例えばDXやAIといった技術革新に対応できず、組織から取り残されてしまう。ある製造業の部長は、部下の指導に忙殺されるあまり、業界のデジタル化に乗り遅れ、結果的に部門全体が競争力を失った。
マネジメントの本質を見失う
過干渉な上司は、しばしばマネジメントの本質を見誤っている。マネジメントとは「リソースを効果効率的に配分すること」だ。部下の細かい作業に口を出すのではなく、チーム全体の目標達成に向けて戦略を練るのが本来の仕事である。
何をやるべきで、何をやるべきでないか。これを決めるのが戦略だ。部下の作業レベルに固執していては、真の管理職として成長できない。
後継者育成の機会を逃す
過干渉な上司のもとでは、優秀な部下が育たない。結果として、自分が昇進する際の後継者がいなくなってしまう。これは組織にとっても個人にとっても大きな損失だ。ある商社の課長は、部下への過度な干渉により優秀な人材を次々と他部署に転出させてしまい、最終的に自分の昇進の機会を逸した。
●まとめ
上司が自分のキャリア開発に時間とエネルギーを注げば、部下への過干渉も自然と減る。経営戦略の勉強、新しいマネジメント手法の習得、業界動向の分析など、やるべきことは山ほどある。
部下を信頼して任せることで、自分は本来の上司としての仕事に専念できるのだ。もっと自己中心的に考えたほうがいい。
部下の成長を本当に願うなら、過干渉は逆効果だ。適切な距離感を保ちながら、必要なときだけサポートする。これが現代のマネジャーに求められる姿勢である。
著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
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