アメトーーク!にも出演した芸人が「2500万円稼ぐ」昆虫ブリーダーに転身したワケ。「1人で5000匹育てる」驚きの飼育生活

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2025年05月30日 09:31  日刊SPA!

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三森大輔さん(32)とヘラクレスオオカブト
埼玉県川越市でクワガタ・カブトムシの専門店「クワカブの部屋」を経営している三森大輔さん(32)。年間5000匹以上を繁殖・販売し、年商約2500万円を稼ぎ出す異色のブリーダーだ。
かつてはお笑いコンビ「スタンダップコーギー」として活動していた元芸人としても知られている。

「アメトーーク!」などの人気番組にも出演していた彼が、2023年に“昆虫ブリーダー”に完全転身した背景には、子ども時代から続く昆虫への熱い情熱があった。

◆芸人から昆虫ブリーダーに転身

三森さんがクワガタを飼育し、ブリーダーとして生体の委託販売をスタートしたのは20歳のころ。芸人として精力的に活動する合間に、趣味程度に行っていたという。

2019年にYouTubeチャンネル「クワカブの部屋」を開設して飼育方法や繁殖のコツを紹介し始めたことで、昆虫マニアや昆虫好きの子供たちからの注目を集めるようになった。

芸人を辞めてから2024年にオープンした実店舗の「クワカブの部屋」では、国内外のクワガタ・カブトムシの展示をメインに生体の販売も行っている。また、実際にクワガタ・カブトムシとふれあえる体験スペースも設け、8月の繁忙期には1日平均200人が集まってくる。

2年目ながら、順調に売上を伸ばしているというから驚きだ。

「僕と同じムシキング世代のほか、小学生の友達同士、親子連れなど、幅広いお客さんがいらっしゃいます。

中にはインバウンド客もいて、翻訳アプリを使ってコミュニケーションを取りながら、虫談議に花が咲くことも。お客様との交流が楽しくて、毎日が充実していますし、クワカブの魅力をもっと伝えるにはどうしたらいいだろうと、日々試行錯誤しています」

◆芸人時代とは一変。クワカブ中心の生活

芸人時代は、ライブやバイトの合間にクワカブの世話をする生活だった三森さん。今では、「芸人の部分」がまるごとクワカブ時間に変わり、生活は一変した。

「苦労の種類が違うので比較しにくいのですが、『それを好きでやっているかどうか』という視点で考えると、芸人時代の方が大変だったと思います。芸人時代は、バイトで生活費を稼いでライブに出て、中にはエントリー料を払うものもあったりして。ウケたらいいんですが、滑った日にはメンタルがやられて、また翌日バイトに行くの繰り返しでした(苦笑)。

今は、お昼過ぎから活動し出して、YouTubeの撮影や飼育をして、気づけば翌朝の6時を過ぎていることもあります。まわりから体調を心配されたりもしますが、結局はクワカブが好きで、やりたくてやっているだけなので、大変とか苦労してるとかは思わないんです」

◆年商2500万円の内訳は

YouTubeは毎日更新で、多い日には6本近く撮影することも。動画は常時20本ほどのストックがある状態を維持している。

それ以外の時間は飼育タイムだ。幼虫の土交換、産卵セット作り、餌交換、羽化個体の掘り出しなど、飼育段階別に様々な作業を行う。現在は、年間5000匹以上を世話しているため、「寝る時間以外はクワカブ漬け」というのも納得だ。

そして、意外と体力勝負な一面もあり、20キロほどの土の入ったダンボールを運ぶといった作業も多く、「腰に違和感が出始めた」と苦笑する。

2024年の年商は約2500万円。内訳は、YouTube広告収益が4〜5割、残りはクワカブの生体販売やイベント出演料、SNS関連の案件など。なんとも夢のあるような話に聞こえるが、現実はそんなに甘くないそうだ。

「ブリーダー部分でいうとトントンです。というか、売り上げから土や餌代などの必要経費を引くと、ちょっとだけマイナスです(苦笑)。ブリーダーが稼げる仕事だと僕が証明して、目指してくれる子どもが増えたらうれしいんですが……。

ただ、種類によっては稼ぎやすいものとそうでないものとがあります。売り上げを重視するならヘラクレスオオカブトなどの人気種だけを繫殖させる方法もありますが、僕は日本に流通している国内外のクワカブを全種類ブリードするという野望があるので、売り上げの面はあまり重視していません。

また、クワカブのブリードは季節性が強く、秋冬は閑散期になるんで、春夏でいかに売り上げを作って、次の夏まで持たせるかが重要です。野生の熊が冬眠前にたくさん食べておくみたいな感覚です(笑)」

◆クワカブ愛の原点は小学生時代の夏休み

そもそも、三森さんがクワガタ・カブトムシの繁殖を始めたのは小学4年生の頃にさかのぼる。地元・宮崎の夏休みイベントで海外産の虫を間近に見て衝撃を受けたという。

「当時はムシキングブームで、めちゃくちゃクワガタ・カブトムシが大好きだったので、夏休み期間中は昆虫イベントに毎日通っていました。そのうち主催者と仲良くなり、『繁殖はもっと楽しい』と、育て方を教えてもらったんです」

1回目で無事に繁殖が成功し、そこからどっぷりハマったが、中学進学を機に一度飼育をやめ、近所の小学生たちに育てた虫を配った。そして上京後、一人暮らしの寂しさを埋めるために再びクワガタを飼育するように。

「子どもの頃からずっと動物や昆虫に囲まれていたので、どうも一人暮らしに慣れなくて……。犬や猫は物理的にも金銭的にも厳しかったので、大好きなクワガタを育てることにしました」

◆飼育部屋の拡大遍歴「一時は5軒借りて家賃だけで72万円に…」

当初は1Kで2種類のクワガタを育てていた。やがて卵を産んで数が増えていき、1Kが手狭になっていった。その時に、通っていた昆虫ショップのオーナーからブリード(繁殖・販売)について教わり、安心して飼育に集中できるように。

「クワカブのために都内の1Kから郊外の2DKへ引っ越しました。さらに、ブリード専用のシェアルームと一軒家を借りて合計3軒に。

その後、芸人を辞めて川越市に引っ越す前に、東京の3件と新しい自宅と今の店舗の合計5件を同時に借りていた期間がありました。3ヶ月ほどでしたが、家賃だけで70万円を超えたのは正直きつかったです。でも、クワガタのためだと思って頑張りました」

◆クワカブショップのオーナーとの出会い

現在は「クワカブの部屋」が入る物件に集約されていて、7畳、21畳、8畳、10畳、13畳の計5つの部屋でクワガタ・カブトムシを飼育している。

「今のお店は、実はYouTubeの視聴者さんがオーナーなんです。きっかけはX(旧Twitter)のDMで届いた『うちの物件でお店やりませんか?』というメッセージでした」

実は、YouTubeで引っ越し状況を逐一報告していた三森さん。審査を通るのが難しいということも正直に発信していたのだ。

「大きな物件ほど虫がいる時点でNGの場合が多くて、10軒くらい連続で断られたこともあります。また、無事に契約できたものの、引っ越し報告の動画を見たオーナーから『こんなに飼うなんて聞いてない』と言われ、結局、半年ほどで引っ越しすることになりました」

こういった経験から、確実に引っ越せる状態になってから動かざるを得ないため、前述の合計5件を同時に借りる期間が発生してしまうのだ。

そんな中でめぐり合ったのが、今のオーナーだ。

「最初は怪しいと思いましたが、小さい頃から西武ライオンズファンだったので、埼玉県も西武線も好きでした。運命なのかもしれないと思い、一度信じてみることにしたんです」

◆年間5000匹以上の飼育が可能なワケ

ひとりで年間5000匹以上という驚異的な数のクワガタ・カブトムシを繁殖する三森さん。まわりからも、「ひとりでこの数を育てるのは異常」と言われているそう。

この数字を可能にしている理由はなんなのだろうか?

「20年以上前から『むし社』という昆虫ショップが出版する専門雑誌を愛読していて、常に新しい知識を吸収するようにしています。飼育の歴史を見直すのも面白いので、バックナンバーを取り寄せることもあります」

その上で、クワガタ・カブトムシの飼育の基本となる飼育部屋の湿度や温度管理の部分では、クワガタ・カブトムシになった気分で調整を加えている。

「湿度が高い時は土に含ませる水の量を減らし、乾燥していたら水分を多めにするといった経験則的な部分も大きいです。ただし、種類によって産卵しやすい環境が違うので、実際にはクワカブ目線で環境を整えます。例えば土の詰め方でも、『詰めすぎて固いと掘るのが大変だし、自分なら嫌だな』と思ったら、詰めすぎないようにするといった感じです」

カブトムシは木には産卵しないが、クワガタには木にも土にも産卵する種類がある。また、産地によって好む温度帯も違う。そういった種類別の特性を熟知し、最適な環境に整えることが繁殖成功の鍵だという。

「特に決まったセオリーはありませんが、この方法で20年くらい繁殖を続けてきました。日々、クワカブの気持ちになって考えることが、結果的に5000匹の飼育を可能にしていると思います」

◆梅雨が明けてからがベストシーズン

梅雨が明けると、クワガタやカブトムシが活発化する季節が本格的にスタートする。三森さんにとって一年で最も忙しく、また最もワクワクする時期の始まりだ。

「夏はクワカブと出会うベストシーズンです。『クワカブの部屋』には、国内外の様々な種類がそろっているので、実際に見て、触れて、その魅力を感じてほしいですね。日本にクワカブのブリーダーがもっと増えてくれたらいいなと思います」と笑顔で語る。

昆虫への情熱が導いた、意外なキャリアチェンジ。今年の夏、クワカブの魅力に触れてみるのも、新しい体験になるかもしれない。

<取材・文/安倍川モチ子>

【安倍川モチ子】
東京在住のフリーライター。 お笑い、歴史、グルメ、美容・健康など、専門を作らずに興味の惹かれるまま幅広いジャンルで活動中。X(旧Twitter):@mochico_abekawa

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