「目の付け所がシャープでしょ」は復活するのか――新型「AQUOS」TVを見て感じた兆し

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2025年05月30日 11:11  ITmedia PC USER

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シャープが新たに掲げた企業スローガン「誠意をもって人々の日常を見つめ、創意をもって新たな体験を提案する(Our Sincerity

 シャープは5月12日、2027年度までの「中期経営計画」を発表した。


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 本計画では、「亀山モデル」で一世を風靡(ふうび)した液晶パネル生産拠点「亀山第2工場」を2026年8月までに鴻海精密工業(Foxconn)に譲渡することを始めとしてデバイス事業のさらなる構造改革を実施する他、本社を堺市から大阪市の堺筋に移転することを盛り込んでいる。


 また「ブランド事業」の強化に伴い、AIoT家電の累計出荷目標を1450万台(2024年度実績で1000万台を突破)、「COCORO MEMBERS」の会員数を1300万人以上、AIサービス利用者数を400万人以上を目指す成長戦略を打ち出した。そして、シャープ独自のAI技術である「CE-LLM」を活用した新たなDXソリューションなど、新事業領域への展開にも意欲的な姿勢をみせる。


 シャープの沖津雅浩社長兼CEOは「中期経営計画を着実にやり遂げ、再成長を実現すると共に、将来の飛躍に向けた確かな基盤を構築する。シャープらしい新たな価値を次々と提案していきたい」と意気込む。


●「目の付けどころがシャープでしょ」の精神が失われつつある


 今回の中期経営計画の発表で印象的だったのが、沖津社長が「目の付けどころがシャープでしょ」という言葉を持ち出してきたことだった。


 沖津社長は「かつてのシャープは『目の付けどころがシャープでしょ』というスローガンのもと、他社とは一味違った“シャープらしい”商品を次々と生み出してきた。成功したものばかりではないが、違いを生み出す力こそが“シャープらしさ”であり、競争力の源泉であると考えている」と語る。


 しかし、沖津社長は「経営危機やマネジメントの変化などを背景に、“シャープらしさ”が徐々に失われつつあると感じている。その危機感から、社長就任時に『再びシャープらしさを取り戻す』ことを使命に掲げた。シャープらしさの根幹にあるのは、創業者である早川徳次の精神/経営理念/経営信条であり、これにこだわりながら事業活動に取り組む」と宣言した。


 新たな企業ミッションとして、シャープでは「誠意をもって人々の日常を見つめ、創意をもって新たな体験を提案する」ことを掲げた。ここにある「誠意」と「創意」は、シャープの経営信条であり「二意専心」とも呼ばれる。この「二意」にあふれる仕事こそ、人々に心からの満足と喜びをもたらし、真の社会への貢献につながるということだ。


 つまり、経営理念や経営信条にこだわることが、シャープらしさの復活につながる近道だと捉えているのだ。


 ところで、「目の付けどころがシャープでしょ」のスローガンは1990年から2009年まで使用されていた。シャープ創業者である早川徳次氏の「他社がまねするような商品を作れ」という言葉と、同じ意図を持つものだといっていい。


 実際、この期間には「液晶ビューカム」や「プラズマクラスターイオン空気清浄機」、ウォーターオーブン「ヘルシオ」、液晶テレビ「AQUOS」、さらにはカメラ内蔵携帯電話を世界で初めて発売して「写メール」の文化を定着させるといったように、“目のつけどころ”が他社とは違う新製品が相次いでいた。


 言い換えれば、目の付けどころがシャープな、“シャープらしい”製品が相次いでいたからこそ、この言葉が生きたといえる。


 このスローガンは、2010年に「目指してる、未来がちがう」に変わった。それ以降、沖津社長が指摘するようにシャープらしさを持つ製品が減ってきたのは明らかだった。そしてシャープらしさを象徴するスローガンが終わってから15年を経過し、この言葉を知らない人たちも増えている。沖津社長がシャープらしさを打ち出しても、その“シャープらしさ”そのものが伝わりにくい状況が生まれているのかもしれない。


●新しいAQUOSに感じる「目の付け所がシャープでしょ」


 そんなことを感じながら、シャープが5月14日に発表したAQUOS TVの新製品(2025年モデル)を見て、「目の付けどころがシャープでしょ」といえる機能をいくつか発見した。


 新製品は有機ELパネルを備えるモデルが3シリーズ8機種、miniLED液晶パネルを備えるテレビが2シリーズ5機種で、5月31日から順次発売する予定だ。


 説明会では、有機ELモデルでは新たな発光素子を使用することで、発光効率を高めて輝きを2倍にしたこと、miniLED液晶モデルではきめ細かな明暗制御と光反射シートの採用によって、明るい部屋でも「AQUOS史上最高の輝きと色彩を実現」したことを強調していた。


 さらに、両モデル共に新開発の画像処理エンジン「Medalist S6/S6X」により、映像に合わせて画質と音質を自動調整し、空間認識AIを使うことで明暗と精細感を自動で補正することが可能だという。


 だが「目の付け所がシャープでしょ」な機能は、これらではない。新製品説明会の機能説明パートの後半で、シャープの上杉俊介氏(TVシステム事業本部 国内事業部副事業部長)が急に説明をし始めた“細かい”機能こそがそれだ。


 1つ目は、時間が重なった番組を2番組同時に視聴する「よくばり視聴」だ。最近は動画視聴において「タイムパフォーマンス(タイパ)」を重視する動きがあるが、そのニーズに応える形で、放送中の番組とUSB HDDに録画した番組を同時視聴可能にしたのだ。再生画面のサイズは大小9通りに対応している。


 「目の付けどころがシャープ」なポイントとして、よくばり視聴では音が出ていないサブ画面で字幕表示を行う機能も備えている。メイン画面でドラマを見ていて、サブ画面でスポーツ中継を見ている場合などに便利だろう。


 音はどちらか1つしか聞くことができないが、字幕で聞けない分をカバーする――この発想は秀逸だ。


 2つ目は「L字カット機能」だ。TV番組では、例えば大型台風が日本に近づいてきた場合などには本編映像に気象情報や避難情報などがL字状に割り込んで表示されることがある。しかし、録画した番組を再生する際には、L字で表示された情報は不要になっていることが多い。不要な情報によって、映像が小さくなってしまうのだ。


 その点、新モデルが搭載したL字カット機能は、名前の通り録画番組を再生する際にL字を検出して“切り取って”再生してくれる。これにより、録画したコンテンツを大画面で楽しめるので、再生時の“モヤモヤ感”を拭える。


 そして3つ目が、ゲームプレイ時の「リサイズ機能」である。これは大画面ゲーミングディスプレイでもおなじみの機能で、画面表示領域をあえて狭めるものだ。ディスプレイ自体も、応答速度を最短約0.83ミリ秒、リフレッシュレートを最大144Hz(VRR:可変リフレッシュレート対応)としている。


 リサイズ後の画面サイズは24〜27型相当となり、「部屋の照明が反射する場所を避ける」ために、画面内で表示位置を移動することもできる。


 なめらかな映像でゲームを楽しめる技術的な優位性を訴求する一方、リサイズ機能によって大画面TVで問題となるゲームプレイ時の視線移動距離を最小限に抑え、操作しやすくできるともアピールする。


 さらに、TVを視聴している間の“隙間時間”に視力の検査ができる「めめログ」を新たに搭載した。リモコンのカーソルボタンを使って、簡単に視力検査ができる仕組みだ。


 昨今、若年層の近視が課題となっているが、親がそれに気付かずに近視対策が遅れるという課題が生まれている。簡単なテストを実施することで、子供の視力の変化にも気がつきやすい環境を作ることを目指して搭載したという。


 従来は「TVを見ると目が悪くなる」と言われ続けてきたが、「TVを使って近視を早期発見する」という新たな使い方ができるようになる。TVが視力対策の強い味方になるというわけだ。


 シャープでは、今後発売するTVにめめログを標準搭載し、さらにAIを活用したアドバイス機能を付加することも視野に入れているという。


 このように、TVの本質機能とは異なる部分に「目の付けどころがシャープ」といえる機能がいくつか装備されている。上杉氏は「これらの機能は、若い社員たちから上がってきたアイデアを形にしたものだ。若手社員が、自分たちがTVを使っていて必要だと感じた機能を搭載した」という。


 これらの機能が新たな市場を創造するというものではない。しかし、こうした「目の付けどころ」の小さな積み重ねが、シャープのTVそのものを、“シャープらしい”製品に変えていくことにつながるのは間違いない。


 そして「目の付けどころがシャープでしょ」というスローガンを使っていた時代を知らない世代の社員が、「目の付けどころがシャープ」といえる機能を生み出していることは「シャープらしさ」の復活につながるとの期待感も生まれる。


 シャープの高橋秀行氏(TVシステム事業本部 国内事業部 事業部長)は「お客さまから見て、一目で分かるような独自の特徴を備える商品を市場投入してきたのがシャープである。今後も、この考え方をしっかりと受け継ぎながら、お客さまから喜んでいただけるような製品提案を続けていく」と約束する。


 これからシャープらしい製品が、どれだけ登場するのか。そのインパクトをどれだけ最大化できるのか。それが、中期経営計画の成否を握ることになる。



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