藤本さん(仮名)―[貧困東大生・布施川天馬]―
2025年5月22日、突如アメリカ国土安全保障省から、ハーバード大学の留学生受け入れ資格の停止が発表されました。
世界トップクラスの大学で、各国から広く留学生を受け入れる名門大学なだけに、世界中が大混乱。
もちろんハーバード側も黙ってはおらず、5月23日には剥奪処置が違憲として政権を提訴。同日ボストン連邦地裁が政権の措置を一時差し止める処置を下しました。同大学は「大学と7000人以上のビザ保有者に即時かつ壊滅的な影響を与える」措置であると徹底抗戦の構えを見せています。
トランプ氏は「学生の31%近くが、アメリカに友好的でない国を含む諸外国から来ている」と指摘しており、5月26日には数十億ドル規模の助成金の取り上げを警告。
27日には1億ドル規模の契約の打ち切りが発表され、学生ビザの新規受付も停止されるなど、確実に政権による外国人排除の動きは強まっています。
世界中から留学生を受け入れるハーバードには、もちろん日本人学生も通っています。
今回は、昨年から同大学に留学している現役大学生の藤本さん(仮名)から、留学中の学生が感じるリアルな本音をうかがいます。(※本稿は日本時間5月26日13時時点での情報に基づいて取材)
◆「あの人ならやりかねない」不安だった
――今回の留学生受け入れ資格の剥奪措置は、やはりショックでしたか?
藤本:確かにビックリはしましたが、「寝耳に水」というほどではありませんでした。
実は、今年の4月頃から、校内新聞などで「ハーバードと政権の仲がよくないらしい」とうわさが流れていたんです。留学生受け入れ資格剥奪措置をちらつかせたのも今回が初めてではなかったようで、「ついにやったか」といったところ。
――現地では、むしろ「やっぱりね」と受け入れられているんですか?
藤本:トランプ氏が大学に何か仕掛けてきそうだとうわさが流れたときには、正直、半信半疑でした。
「さすがに受け入れ資格剥奪なんてしないだろう」と楽観視しつつも、「でも、あの人ならやりかねない」と不安もあった。ただ、反対運動とかデモとか、そういった大規模なハレーションは、少なくとも僕の周りでは起きていません。
※5月27日にハーバード大学でデモが行われ、留学生に加え、学生や教職員らも参加した
◆いま留学準備をしている人たちが不憫でならない
――トランプ氏の一連の行動に対して、学内ではどんなリアクションがありますか?
藤本:そもそも、学内ではそこまで政治的な話題をパブリックなスペースで話すことはないんです。
政治的な話題がそこかしこから聞こえてくるわけでもなく、私もそこまで友人と話し合うわけではないので、周りに支持者がいるかとかは正直わかりません。ただ、学生が数人で歩きながらトランプ氏を揶揄している会話が耳に入ってきたことはあります。
――今回の剥奪騒動を受けて、どんな思いを抱かれましたか?
藤本:やはり、不安でした。私はもうすぐ帰国となるので、比較的被害は受けていないのですが、現地に残って研究を続けられる先輩もいらっしゃいますし、逆にこれから留学してくる後輩もいます。
留学に際しては、大学に推薦書を用意してもらったり、エッセイを書き上げたりと、それなりに準備が必要です。もしも、それらが無駄になってしまうようなら、あまりにも不憫でならない。
◆大学側の「学生を守る動き」に感謝
――今回、ハーバード大学は即日政権を提訴する動きを見せたようですが。
藤本:そうなんです。迷うことなく、学生を守る動きを取ってくれたことが、何よりもうれしいですね。
私自身、ハーバード大学で勉強する機会を頂いて、大変な刺激になりました。こっちの学生は、自分の勉強がどんな研究や社会課題の解決に役立つか考えている方が多いんです。
日本ではついつい単位取得とか就活とか、狭い範囲でしか見られなかったので、視野が大きく広がった気がします。自分とは違う国、違う言語、違う文化の中で生活するハードルは低くないですが、大切なものが得られました。
もちろん、留学先は世界中にあって、ハーバードだけではありません。分野によって強みが違いますから、ハーバードに来れば誰でも安心というわけではない。
ですが、ここが非常にすぐれた大学であることも、また事実です。仮にトランプ政権側の言い分が通ってしまったなら、貴重な選択肢の一つが失われてしまうでしょう。
◆政治イデオロギーに巻き込まれる若者たち
留学は大変な費用と手間、時間をかけて行う、一大イベントです。だからこそ、これを鶴の一声でひっくり返されてしまうと、多くの人生に影響が出る。特に、研究者として身を立てようとしているならば、その程度は計り知れません。
政治イデオロギーの前に、前途ある若者の人生が閉ざされるのは、おかしいと感じてしまいます。「自由の国」では、いま何が起きているのでしょうか。
<取材・文/布施川天馬>
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)