
ハビエル・サネッティ(インテル副会長)インタビュー 前編
チャンピオンズリーグ決勝を戦うインテルのレジェンドで、現在クラブの副会長を務めるハビエル・サネッティ氏。今季のチームについて、かつての同僚・長友佑都との思い出、6月に浦和レッズと対戦するクラブワールドカップについて話を聞いた。
【今季はここまでの道のりだけでも賞賛に値する】
――今週末(日本時間6月1日早朝4時キックオフ)、インテルがチャンピオンズリーグ(CL)決勝でパリ・サンジェルマンと対戦します。忙しいなか、本日はお時間をいただき、ありがとうございます。副会長は、今季のインテルの好調の要因はどこにあると見ていますか?
「現在のチームは、2021年夏から指揮を執っているシモーネ・インザーギ監督が、綿密に築き上げたすばらしいチームです。毎シーズン、タイトルを手にしている競争力の高いチームで、今年も国内外の強敵に勝ってきました。ただし、セリエAとコッパ・イタリアでは、いいところまで行ったものの、優勝できなかった(セリエAは2位、コッパ・イタリアは準決勝敗退)。今週末、ミュンヘンでパリ・サンジェルマンとCL決勝を戦いますが、負ければ無冠となってしまう。私はそれでも、チームを大いに讃えます。この道のりだけでも、賞賛に値しますから。サポーターにも、同じように振る舞ってもらえたらいいですね」
――インテルの副会長として、日々、どんなことをされているのですか?
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「インテルという国際的なビッグクラブの副会長だから、あなたの予想どおり、なすべきことは数えきれないくらいあります。チームを強くするために何が必要かを考え、実行に移すのはもちろん、クラブ内外のイベントへの出席や、他クラブや協会、連盟とのやりとり、旅程やロジスティックスの管理などなど、多岐にわたります。例えば今は、CL決勝という大一番を控える重要な時期ですが、今年はさらにその後にクラブワールドカップに参戦するので、そちらの計画も同時進行している。すると、今度はもう来シーズンが近づいてくる。目まぐるしい日々ですよ(笑)」
【浦和レッズのサポーターは熱い人が多い】
――新しいフォーマットでのクラブW杯では、浦和レッズと同じグループに入りました。この日本のチームには、どんな印象をお持ちですか?
「我々はグループEの2試合目に、レッズと対戦します。この組にはあと、モンテレイとリーベルプレートが入り、実にタフなグループになった印象です。気を抜ける相手はひとつもないと思います。グループを突破するために、2試合目までに勝ち点を重ねておき、3試合目にすべてが委ねられるような状況だけは避けたいですね。私が知るかぎり、レッズは豊富な国際経験を持ち、すでにクラブW杯にも出場している。熱狂的なファンのなかには、アメリカまでやってきて声援を送る人もいるでしょう。レッズのサポーターなど、クラブに忠誠を誓うファンは熱い人が多いので、世界中の様々な地域のコアなフットボールファンの姿を見られるのも、楽しみにしています」
――あなたやインテルの日本との繋がりと言えば、やはり長友佑都選手でしょう。2011年から2014年まで、彼と共にプレーしていかがでしたか?
「ユウトとの思い出はたくさんありますよ! 彼は本当にすばらしい選手であり、人物です。今もすでに色んなことを思い出していますが、私にとってもっとも印象深い出来事は、2013年の11月に起きたことです。私は前のシーズンの4月にアキレス腱を断裂し、長期離脱を強いられていました。40歳となり、周囲には復帰など不可能だと考えるひとも少なからずいた。
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それでも私自身は諦めず、約半年後のセリエAのリボルノ戦で終盤に交代出場し、復帰を果たしました。その9分後のアディショナルタイムにユウトがダメ押しとなるチームの2点目を決めると、仲間たちは私の元に駆け寄ってくれ、復帰を盛大に祝ってくれました。最高のタイミングのユウトのゴールによって、感動的なシーンが演出されたのです。私のキャリアでもっとも美しい瞬間のひとつになりました」
【長くプレーできたのは自律と鍛錬の賜物】
――あなたは10代でプロになり、40歳までプレーしました。フィールドの選手としては、かなり長いキャリアです。トップレベルの現役をこれだけ長く続けられた秘訣を、教えてもらえますか?
「なにより、自律と鍛錬です。私はもともと、物事を継続的に進められるタイプの人間でもあります。ピッチ上で最高のパフォーマンスをするために、生活のすべてを捧げる。トレーニングだけでなく、食生活や睡眠、ジムでの筋力アップを含め、フィジカルを完璧な状態にする。精神面を安定させ、クリアなマインドを保つ。私は幸運にも、少年時代にそうした側面の重要性に気づくことができたのです。トップレベルのフットボーラーになり、その座を維持するのは、すごく難しいことですから」
――あのアキレス腱の断裂以外に、大きなケガはあまりなかった印象です。
「おそらくそれは、私が自分の身体をケアしていたからだと思います。コンスタントにストレッチをし、ジムで補強すべき筋肉を鍛え、よい食事と十分な睡眠を取る。プロフェッショナルとしてやるべきことを、徹底していました。アルゼンチンのバンフィエルドという小さなクラブからキャリアを歩み始め、そこからいきなりインテルに引き抜かれたのですが、そんな移籍は当初、ほとんどありませんでした。それでもうまくやれたのは、自己規律の賜物だと思います」
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――インテルへの移籍の背景を教えてもらえますか?
「私は本当に幸運でした。当時のインテルのマッシモ・モラッティ会長がアルゼンチンに視察とスカウトに来ていたのですが、一緒に来ていた彼の息子さんが私のプレーを気に入ってくれたのです。元々のリストには、私の名前は載っていなかったそうですが、すぐに契約書にサインし、数日後にはミラノの本拠地で、ロベルト・カルロスらと一緒に会見に臨んでいました。そこに私のことを知っている人は、ひとりもいませんでしたよ!(笑)」
>>後編「サネッティが語るCL決勝の見通し」
ハビエル・サネッティ
Javier Zanetti/1973年8月10日生まれ。アルゼンチン・ブエノスアイレス出身。タジェレス、バンフィエルドを経て1995年にインテルに移籍。2014年まで19シーズンも在籍しセリエA615試合出場の鉄人。主に右サイドバックや中盤でプレーし、数々のタイトル獲得に貢献した。アルゼンチン代表でも長くプレーし、国際Aマッチ143試合出場。2014年の現役引退後、現在はインテルの副会長を務めている。
セルヒオ・レビンスキー
Sergio Levinsky/アルゼンチン出身。ブエノスアイレス大学社会科学学部を卒業。バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号も取得。1982年より記者として活動を始め、ワールドカップは1986年メキシコW杯よりすべての大会を取材。アルゼンチン国内の各種メディアで活動するほか、ヨーロッパのスポーツメディアや日本のメディアにも記事を寄稿している。