透明で薄くて強粘着!だけど扱いにくい…「OPPテープ」の不便を解決した“専用カッター”の開発秘話

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2025年05月30日 20:31  All About

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梱包などに使うOPPテープは、透明で薄くて粘着力が強いのでとても重宝しますが、テープの端を見つけてそれを剥がすのが大変だったり、裂けやすかったりして、なかなか扱いにくいテープでもあります。その不便を一挙に解決したのが、ミドリの「OPPテープカッター」。その開発の苦労を伺いました。
文房具やデザイン文具の総合メーカー、ミドリの「クラフトテープカッター」は、それまで、とにかく大きくて扱いにくかったクラフトテープに付属するカッターの不満点を見事に取り除いて、わざわざお金を出して付属するものを買い替えたいと思わせる出来の名品でした。

ただ、「クラフトテープカッター」という製品名からも分かるように、これは基本的に紙製のクラフトテープ専用の製品で、梱包テープならなんでもオッケーというわけではありませんでした。

とはいえ、養生テープや布粘着テープには使えるので、筆者的には十分に満足していたのですが、唯一、うまくいかなかったのが、いわゆる「OPPテープ」でした。透明のプラスチック系素材であるオリエンテッドポリプロピレン(二軸延伸ポリプロピレン)を使った梱包テープで、薄くて粘着力も強く、透明なのでいろいろと便利。

ただとにかく、一度使ったら次に使うときにテープをどこから剥がしていいのかが分かりにくく、さらに、やっとテープの端を見つけて剥がそうとすると、縦に裂けてしまって真っすぐにテープを剥がすことが難しいのです。

便利だけど扱いにくいOPPテープに特化した専用カッター

そんな便利なのに扱いにくいOPPテープ専用に作られたのが、ミドリの「OPPテープカッター」です。そのポイントは、使ったあとに、テープの端を保持するローラーです。
テープを貼ったあとは、このローラー部分にテープがくっつくので、次に使うときもスムーズに使い始められる

「もともと『クラフトテープカッター』を開発していたときも、OPPテープにも使えたらいいよね、という話はしていたんです。ただ、そうすると、OPPテープ用の製品のようなサイズになってしまいますし、クラフトテープだけにフォーカスしたときには必要のない機能を付けることになります。

それならば、まずはクラフトテープ専用を作って、その次にOPPにも使えるものにしていきたいと考えていたんです」と、クラフトテープカッターでも開発を担当したデザインフィルのクリエイティブセンター プロダクトグループの高城裕太(※高ははしごだか)さん。

似ているようで全く違う、クラフトテープとOPPテープ

一番右が、「クラフトテープカッター」、一番左が完成した「OPPテープカッター」、その間が試作品たち。使い勝手を考えると、どうしてもある程度の大きさが必要になった

「クラフトテープカッターのときは、実際手でも切れるテープですから、とにかくコンパクトで切れ味がよくて安全という点に注力しました。自宅で使ってもらうためには、なるべくコンパクトで邪魔にならないことが重要だと思ったんです。

一方でOPPテープに対応しようとすると、“貼り戻り防止機能(使い終わりのテープが巻き芯側に戻ってしまうのを防止する機能)”を付ける必要があり、どうしても大きくなってしまうんです」とプロダクトデザインを担当した神瀬泰二さん。

実際、「OPPテープカッター」の見た目の大きな特徴になっているのは、刃の部分とは別に用意されたローラーです。貼り終わったテープは、このローラーにくっつくので貼り戻りがなく、次に使うときもテープ端を探す必要がありません。

また、ローラーから剥がして、段ボール箱などに貼り付けようとするときに、テープが裂けることもないのです。

「貼り戻りを防止することも大きな課題でしたが、実際にOPPテープを使っていて感じるのは、“テープを引き出すときの重さ”なんです。粘着力が強いからなのですが、開発の途中からは引き出しやすさにもフォーカスしました」という神瀬さんの言葉通り、実は、OPPテープというのは、かなり使いにくいのです。

例えば、従来のテープカッターでも、テープの貼り戻り防止のためにテープを保持しておくパーツが付いているのですが、そこにテープを通すのが難しかったりします。この製品では、ローラー部分が開くようになっているので、狭いところにテープを通す必要がなく、簡単にセットできるのです。

開発は、“なるべく使いやすく”と“なるべくコンパクトに”のせめぎ合い

こんなふうにローラー部分が開くので、最初のセッティング時に、テープをローラーとカッターの間に通すのも簡単

「ローラーを付けて、それを開閉式にすれば楽にセットできるというのは、比較的早い段階で思いつきました。ローラーの素材も、くっつきにくさや、回転性、摩耗性の低さなどを考えると、選択肢が絞られたので、おそらくそうなるかなと思っていたPOM(ポリオキシメチレン)樹脂になりました」と神瀬さん。

お話を伺うと、実は機能の実現よりも、いかにコンパクトにするかということと、引っ張りやすくすることのバランスをどう取るかという点が一番苦労されたようでした。

「ローラーと刃が近いと、切った後にテープがローラーにくっつかずに貼り戻ってしまいます。そこに引っ張りやすい角度などの条件も重なって、この刃とローラーの距離と角度は、いろいろなバランスを考えなければならず難しいんです。

テープは上方向に引っ張ろうとすると力がいるし、刃がテープに当たる角度で切れ味が変わります。その結果として、ローラーと刃の距離は空けたいし、刃自体も少し前に出したいということになって、サイズが大きくなってしまいました」と神瀬さん。

それでも、コンパクトさと使い勝手のギリギリのバランスを攻めたのだろうことは、いくつも作られた試作品の数が物語っています。構造自体は早い段階で決まっていたのに、開発に1年以上かかってしまったというところに、道具としての使い勝手と、生活の邪魔にならないサイズ感の間で苦心したあとがうかがえます。

おかげで、実際に使ってみると、テープは切れやすいのに裂けることはなく、もちろん貼り戻りもなく、スムーズにOPPテープで梱包ができました。確かに引く力を軽くするにはちょっとコツが要りますが、角度を覚えればとてもスムーズ。

ちょっとした角度や刃のギザギザの数でも使い勝手が大きく変わる

こんなふうに、上方向に引っ張るほうが、少ない力で引けるため、ローラーと刃の間の距離は空いているほうが使いやすい

「OPPテープは100m巻きの製品などもあるため、かなり重くなることもあります。重いテープも引っ張りやすくするために、今回、テープとカッターを固定する部分のバネを強力なものにしました。

実はそれに合わせて『クラフトテープカッター』もバネを強くしています。本体の側面にあるストラップ穴にひもを通しフックなどかけてぶら下げるとき、テープが重いと、バネが開いたりしていたので改良しました」と神瀬さん。
大量の刃の試作品。この何枚もの刃を作ってテストを繰り返す。刃の交換がしやすいように作られているとはいえ、取り換え作業だけでも大変だ。刃は、ミドリの人気商品「エッチングクリップス」の生産技術を応用して作られている

結局、構造に間違いはないわけで、開発のポイントは使い勝手になっていきます。つまり、何度も試作品を作って実際に試すことの繰り返しで、完成に近づけるしかありません。見せてもらったのはたくさんの刃の試作品。

「刃自体の角度やギザギザの数と、そのバランス、厚み、強度などを変えながら、たくさん試作してそれを使ってみるの繰り返しです。ただ、刃自体は、結構簡単にいろいろなパターンのものが作れるんですよ。

とはいえ、しっかりしたOPPテープならキレイに切れても、安価なOPPテープは薄くて裂けやすいのでうまくいかないということもあって、単に切れ味だけで比べるわけではないんです。

縦に裂けることを防ぐためには、端が刃に当たってから逆の端までしっかり刃に当たり続けることが必要です。そのための刃の形を探るのも大変でした」と高城さん。
テープを切るときは、この写真のように少しひねるようにすると、テープが刃の端までしっかり当たるので、真っすぐスムーズに切ることができる

細かいところでは、安全のために刃をカバーしているシャッター部分のバネの強度も調整が難しかったと言います。そこのバネをかなり弱くしても、切ろうとするとテープをシャッターが押し戻してしまって、そこからテープが裂けてしまったそうです。

「刃の部分に触ってしまっても指は切れないけれど、テープを押し戻さないようにするのは、とても苦労したポイントです。一時はシャッターは諦めようかと思ったほどでした。本当にちょっとした力でも、テープが裂けてしまうんです。

シャッターの力に押し戻されないまま、最後までテープが刃に当たるようにするのは、とても難しかったです」と高城さん。

そんなふうに、機能と安全性の両方に徹底して配慮した製品が、この「OPPテープカッター」なのです。

実は、この開発チームは、すでに十分実力を証明していたダンボールカッターのセラミック刃を応用した「ボックスカッター」や、マグネットで棚などにくっつけたままで使える「マグネットレターカッター」などの開発も行っているチームなのです。

「仕事用に使われているものを、いかに家庭で便利に使えるものにするかは、弊社の多くの製品でコンセプトとして持っています。すでに世の中にはさまざまなものがありますから、これまでなかったものをゼロから作るというのは、もうほとんどできないと思うんです。

ただ、不便なものはたくさんあって、また、家庭で使ったらとても便利なのに業務用しかないものも世の中には多くある。それをどう見つけるか、そこからどうヒントを得てどうしていくかといったことに取り組んでいるチームという感じはしますね」と高城さんは語ってくれました。

納富 廉邦プロフィール

文房具やガジェット、革小物など小物系を中心に、さまざまな取材・執筆をこなす。『日経トレンディ』『夕刊フジ』『ITmedia NEWS』などで連載中。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方を伝える。All About 男のこだわりグッズガイド。
(文:納富 廉邦(ライター))

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