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少し前にすかいらーく傘下に入った「資さんうどん」が話題となったが、現時点でうどんチェーンの2トップは「丸亀製麺」と「はなまるうどん」だ。両者とも2000年に創業し、それまで一般的でなかった「ファストフード形式のうどんチェーン」として勢力を伸ばした。しかしその後は徐々に差が開き、丸亀製麺が著しく拡大していった。現時点で丸亀は国内863店舗(4月時点)、はなまるは418店舗(2024年2月期)と差は歴然だ。
とはいえ、両者は味やメニューに大きな違いがあるわけではない。一般的に味の評価は飲食店の雰囲気などに左右されがちといえる。筆者の所感では、本場に近いのは実ははなまるの方ではないかと考えている。今回は“本場らしくない”丸亀製麺の方がなぜ勝者となったのか。商品以外の側面からその要因を探っていく。
●「本場」に近いのははなまるうどんだが……
丸亀製麺のメニュー構成はうどんにトッピングの天ぷら、ご飯ものなどが中心だ。はなまるうどんも構成は同じである。うどんメニューを比較すると両者とも「かけ」や「ぶっかけ」「ざる」などがある。セルフ式で商品によって冷温選べる点も共通している。「かけうどん」で比較すると、並(中)サイズの価格は丸亀が420円、はなまるが520円と後者が高めだが、サイズははなまるの方が大きめである。
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トッピングはいずれも天ぷらがメインだが、はなまるにはコロッケや唐揚げなどがある。ご飯ものは丸亀がおむすびだけだが、はなまるではミニ豚丼や牛丼などを提供している。細かく見ればこのような違いはあるが、全体的な構成は同じであり、一般的に優劣はつけられそうにない。
うどんの味に関しては、たびたび論争が起こる。讃岐うどんの麺はコシが強く、だしにはイリコ(煮干し)を使うのが特徴だ。コアな讃岐うどんファンの間では、丸亀製麺の方がコシが弱く、イリコも使われていないという意見が聞かれる。とはいえ、店舗数では丸亀が勝者になったのであり、明らかに讃岐うどんの再現度が要因ではないといえる。
●過度の安売りがアダとなった
店舗数が200を超えたのは、はなまるが先で2007年、丸亀製麺は2009年である。しかし2009年以降に丸亀が急速に店舗数を拡大し、現状は先述の通りだ。はなまるは2012年に吉野家ホールディングスの完全子会社となったが、出店ペースは上がらず、500店舗を達成したのは2019年である。その後、コロナ禍で店舗数を減らした。
両者に差が現れた要因の一つにはブランド力の違いがある。はなまるのブランド力を語る上で「安売り」は欠かせない。はなまるでは2013年まで「かけ(小)」を税抜100円で販売するなど、安売りしていた。行き過ぎた安売りがオペレーションに影響したのか、当時は店舗の清掃が行き届いていないと指摘する意見もあった。100円マックで品質イメージを落としたマクドナルドと構図は似ている。
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一方、丸亀製麺はデフレ時代でも過度の安売りをしなかった。かけうどんの並は当時280円で提供し、はなまるの2倍以上である。テレビCMで品質もアピールし続けた。店舗で粉からうどんを打つ様子を映し、国産小麦粉の使用をうたっており、「国産信仰」の強い日本人消費者に対してはかなりの効果があっただろう。――とはいえ、実際の讃岐うどんはオーストラリア産の小麦粉を使用していることが多い。ちなみにはなまるうどんもオーストラリア産が主体であることを公表している。
●はなまるが3位に転落する日も近い?
立地戦略の違いも両者の明暗を分けた。いずれも地方都市の道路沿いに1号店を構えたが、はなまるはイオンやイトーヨーカドーなどの商業施設内や都市部の駅前に出店したのに対し、丸亀製麺はロードサイドを中心に展開した。はなまるのロードサイド比率は2割にも満たず、安売りを迫られた背景には、他の飲食店に隣接するなど、競合の多さも影響したと考えられる。
対する丸亀製麺はコンビニが出店したがるような角地に大きい店舗を構え、店舗自体が広告効果を発揮した。近年では駅前や施設内でも丸亀製麺の店舗が見られるが、拡大当初は郊外立地を攻めたのが奏功したといえる。はなまるは飲食店が乱立する都市部で埋もれてしまった印象が強い。そのため、自宅の近くにある丸亀製麺の場所は分かるが、はなまるはどこにあるか分からないという人も多いのではないか。
立地の違いはコロナ禍の業績に影響した。運営元であるトリドールホールディングスの国内丸亀製麺事業は、2020年3月期に売上高956億円を記録し、25年3月期には1281億円となった。感染を避けたい消費者が郊外に流れたことで、同様の立地にある飲食チェーンは軒並み好調だった時期だ。はなまるは、2020年2月期の売上高が308億円となり、翌2021年2月期は都市部・施設内立地がアダとなって203億円となった。2025年2月期は308億円と、回復が遅れている。
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丸亀製麺、はなまるはともにセルフ式だが、はなまるはロードサイドでタブレットによるテーブルオーダー制を展開する方針だ。利便性で差別化を図ろうとしている。近年、うどん業態ではすかいらーくホールディングスが資さんうどんを買収し、関東で展開し始めている。同社は専門店業態を強化しており、ガストの既存店から資さんうどんへの業態転換も進むとみられる。既に郊外立地を押さえているすかいらーくホールディングスのポテンシャルは大きく、はなまるが業界3位に転落する可能性も見えてきた。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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