
プレミアリーグの2024−25シーズンは、4試合を残した時点でリバプールが優勝を決めた。1カ月後の最終節、全節出場を意味する38試合目のピッチで29得点目を記録したモハメド・サラーは、第10節から首位を走り続けた今季プレミア王者のずば抜けた"安定性"の象徴だ。
得点王兼アシスト王となったサラーは、直接的に関与した得点数を「47」とし、プレミア歴代最多記録にも並んでいる。年間最優秀選手賞に輝いた、国内フットボール記者協会による投票では、筆者の1票もリバプールの右ウインガーに投じられた。
そこで今回、ポジション別に「最優秀選手」を選びながら今季を振り返ってみようと思う。
ベスト11の陣形は、リバプールに敬意を表して4−2−3−1。就任1年目に優勝監督となったアルネ・スロットが好むシステムであり、リーグ全体で最も頻繁に採用されたシステムでもある。
当然、2列目右サイドはサラーのものになる。32歳で量産したゴールとアシストの裏には、新体制下における守備面でのハードワーク免除がある。とはいえ、実際に記録的な数字を残してみせるあたりは、ワールドクラスのワールドクラスたる所以だ。
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優勝チームからは後方にも2名を選出した。ひとりはGKのアリソン・ベッカーだが、GKにはマッツ・セルスという有力候補もいた。
ノッティンガム・フォレストの背番号1は、リーグ最多の13試合で無失点を記録した今季ゴールデン・グローブ受賞者。賞はアーセナルのダビド・ラヤと分け合ったが、「120」のセーブ数はラヤを大幅に上回る。時流に飲まれず、ポゼッションを捨てたチームを最後尾で支えたセルスの活躍は、フォレストのチャンピオンズリーグ(CL)出場権争い参戦に大きく寄与。ひいては最後までリーグ戦の見どころを提供した。
今季は、残留争いも早々に終結した。2部勢との格差は明らかで、昨季に続いて昇格3チームが揃って降格している。
唯一、最後までもつれたレースが、欧州への切符を懸けた戦いだ。マンチェスター・ユナイテッド(15位)と、トッテナム(17位)の低迷で"ビッグ6"の牙城が崩れたなかでも、予想外に5カ月近くを今季CL出場圏のトップ5で過ごしたフォレストの大躍進が注目を集めた。ただし、最終的には7位でのカンファレンスリーグ出場止まり。それでも快挙とは言えるが......。
アリソンは、優勝へとひた走るチームで安定の土台を支え続けた。プレミアにおける"足元派"の先駆者的な存在だが、そのセービング能力もボランチの遠藤航を感服させるほど。肝心の"手元"が怪しく、ミスが目立った新参GKたちとは違い、攻撃の起点となれると当時に、守備面で最後の砦ともなれる「守護神」の信頼度は抜群だ。ケガによる計10試合の欠場がなければ、ゴールデン・グローブもアリソンのものだった可能性は高い。
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【攻撃も魅力的だったディフェンダーたち】
リバプールからのもう1名はCBのフィルジル・ファン・ダイク。圧倒的な存在感は、28歳だった2019年、バロンドール賞の選考で、リオネル・メッシに次ぐ2番手となった当時を彷彿させた。優勝決定の前々週には、2位アーセナルがポイントを落とした第32節の終了間際に勝ち越しのヘディングを決めた。頼れる主将は、自軍が敗れても、自身の去就(再来年まで契約延長)に関する質問が飛ぶとわかっていても、必ずミックスゾーンで立ち止まってくれる、記者陣にとっても「頼れる男」だった。
CBの相棒には、エバートンのジェームズ・ターコウスキーを選びたい。守備能力で言えば、リーグ最少の34失点でシーズンを終えたアーセナルでコンビを組むウィリアム・サリバとガブリエウのほうが上だろう。また、ポゼッション重視のチームが増えるリーグにあって、速攻カウンターで一石を投じたボーンマスでは、20歳のCBディーン・ハイセンのパス能力も目を引いた。
だが、エモーショナルな一面もサッカーの魅力。文字どおり体を張るターコウスキーによる渾身の守りがなければ、エバートンは、132年来のホームだったグディソン・パークでの最終シーズンを、プレミアにも別れを告げる不安をともに過ごす羽目になっていたかもしれない。第30節、敵地でのリバプール戦の行きすぎたタックルは、退場を命じられるべきではあった。しかし、ホームでの第15節では、CFも顔負けのフィニッシュで土壇場の同点ゴール。グディソンでの最後のマージーサイドダービー(リバプールとのダービーマッチ)に、感動のドラマをもたらした。
右SBは、クリスタル・パレスのダニエル・ムニョスで決まりだろう。不安定だったチームにあって、一貫性のあるパフォーマンスを見せ続けた。ウイングバックが本職とも言えるだけに、攻撃参加はお手のもの。リーグ戦での4得点には、ホームでの第31節、ファンが激しく敵対視するブライトンから奪った決勝点が含まれる。守備面でもSBでは最多となるタックル数「123」を記録。シティを下したFAカップ決勝でも、攻守に上々の出来でパレス初の主要タイトル獲得に貢献した。
逆サイドには、フラムのアントニー・ロビンソン。左SBにして10アシストを記録し、マンチェスター・ユナイテッドのブルーノ・フェルナンデス、アーセナルのブカヨ・サカという、チャンスメイカーと並んでアシスト王4位にランクインしている。同じロンドン市内のチェルシーやアーセナルと同様、必要だと指摘され続けた一線級のCFがいれば、ランクアップも可能だったはずだ。
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控え役として、マンチェスター・シティのヨシュコ・グバルディオルを挙げておこう。チームとしては、プレミア5連覇が見込まれたシーズンに、突然に訪れた主軸の負傷と過渡期の波に襲われて3位に終わった。だが、ペップ・グアルディオラ流の("偽")左SBとしてのグバルディオルは、チーム再建への希望を体現するひとりとなった。
【三笘を超える数字を残したウイング】
2ボランチの1枚には、ニューカッスルのサンドロ・トナーリを選んだ。いわゆる守備的MFではない。実際、相手ボール時には、左インサイドハーフのジョエリントンとポジションを入れ替わる。
しかしながら、CL出場権を獲得する5位フィニッシュ。そして70年ぶりの主要タイトルを手にしたリーグカップ決勝リバプール戦では、中盤の底で試合をコントロールするイタリア人策士の支配力がものを言った。その影響力は、結果的にCL出場権を逃したアストン・ビラのユーリ・ティーレマンス、さらにはリバプールのアレクシス・マック・アリスターに勝るとも劣らない。
もう1枚は、ニューカッスルを下した第37節で、アーセナルに決勝の1点をもたらしたデクラン・ライス。ダイレクトで決めた右足ミドルは、チームのCL出場を確定するゴールでもあった。優勝争いで貴重な対抗馬となったアーセナルは、「セットプレー王者」の異名を取るが、ライスは、CKやFKのキッカーとしても力を発揮した。
強さとうまさが共存するプレーを目の当りにすれば、200億円台の移籍金を要したMFを「半額で獲れた!」と絶賛するアーセナル・ファンの歌声にも頷ける。オールラウンドなクオリティーの高さは、"最成長選手"に相応しいリバプールのライアン・フラーフェンベルフを凌いでいた。
2列目左サイドには、サラーと重なる本来の持ち場から、ブライアン・ムベウモに回ってもらう。ブレントフォードは10位に終わったものの、最後までクラブ史上初の欧州進出への望みをつないだ。チーム得点王となる20ゴールに加え、8アシストも記録したウインガーがいればこそ、見ることのできた夢だった。
心情的には左ウイングに選出したい三笘薫には、「ベストゴール賞」を贈りたい。直接関与の得点数はムベウモの半分に終わったが、第25節チェルシー戦で3点差快勝の口火をきる先制ゴールは、肩越しに届いたロングボールへのファーストタッチから、ここしかないというコースに打ったシュートまで、一連の4タッチすべてが最高水準だった。
【最優秀監督はスロット】
トップ下は、前半戦だけを見ればチェルシーのコール・パーマーだが、通年ではウォルバーハンプトンのマテウス・クーニャが相応しい。第2節での今季初ゴールに始まり、コンスタントに計21得点に直接絡み、降格圏脱出の原動力となった。本稿執筆時点で引き抜き秒読み段階と言われるマンチェスター・ユナイテッドを筆頭に、格上の複数クラブが興味を示した事実が、今季のインパクトを物語る。
1トップの担い手は、ニューカッスルが手放すわけにはいかないアレクサンデル・イサク。クラブのレジェンドでCFだったアラン・シアラーをして、「欧州屈指の9番」と言わしめるシーズンを送った。得点王争いではサラーに敗れた。とはいえ、イサクの23得点は、怪物アーリング・ハーランドが今季のようにケガと自信低下に悩むなら、例年ならば得点王の個人タイトルを獲れる数字だ。
最後に、ベスト11の指揮官を選ぶとすれば、やはりスロットになる。フォレストを上位に留め続けたヌーノ・エスピリト・サントも捨て難い。フォレストは第4節でリバプールに初黒星をつけてもいる。だが、20年前のジョゼ・モウリーニョを第1号とする、「プレミア初挑戦で優勝」監督リストの5人目に名を連ねた手腕は、やはり"スペシャル"だ。
スロットは、ユルゲン・クロップの後任というプレッシャーにも打ち勝った。ほぼ前体制のままと言えるスカッド(チーム)を率い、基本システムを変え、ポゼッション重視の姿勢を強めながら、下馬評では「トップ4維持なら上出来」とされたチームを、5年ぶりのプレミア王座に導いた。
自らのチーム作りが本格的に始まる今夏を経て、リバプールが優勝候補筆頭と目されて始まる来季が楽しみだ。