クロワデュノール
写真/橋本健 6月1日、東京競馬場で第92回日本ダービーが行われる。
世代の頂点に立つのはどの馬か。東京大学在学中に東大ホースメンクラブで予想の腕を磨いた鈴木ユウヤ氏にレースの見解を聞いた。
(取材・構成=中川大河、取材日=5月29日)
◆6年前はロジャーバローズ本命も…
——今週はいよいよ日本ダービーですが、レースとの相性は?
鈴木:6年前(2019年)に12番人気のロジャーバローズを本命にしたにもかかわらず、馬券は外すという苦い思い出があります。
——あの時のダービーは私の本命もロジャーバローズでした。1枠1番が根拠でしたが、まさか勝つとは思っておらず、3着付けで買っていたような……。
鈴木:あの年もそうでしたが、ダービーで穴をあける馬はたいてい先行馬なんですよ。今年も枠順次第で予想もかなり変わってきそうです。
——おっと、ちょうどその枠順が発表されましたよ。クロワデュノールは13番、ミュージアムマイルが7番、マスカレードボールは17番ですか。
鈴木:サトノシャイニングも厳しいところ(18番)に入りましたね。取捨選択が難しくなった印象です。
——枠順も踏まえて、ズバリ軸馬は?
鈴木:やや外目には入りましたが、クロワデュノールですね。
◆前走は前に行ったもん負けの展開
——前走の皐月賞は単勝オッズ1.5倍の断然人気を裏切っての2着。勝ったミュージアムマイルには1馬身半差をつけられました。
鈴木:前走は前に行ったもん負けの展開で、4角2番手と早仕掛けだったにもかかわらず、最後までよく踏ん張っていました。「負けて強し」といっていいと思います。2400mへの距離延長も問題ありませんし、東京コースも新馬戦と東京スポーツ杯2歳Sを勝利しています。
——確かに皐月賞はこの馬以外の先行馬は軒並み馬群に沈みましたからね。
鈴木:今回は確たる逃げ馬が不在でスローが濃厚。この枠でも楽に4〜5番手につけられそうです。折り合いに苦労しない点も強みで、勝利に最も近い位置にいるとみています。
——北村友一騎手が「クロワデュノールのために頑張りたい」と相当な意気込みを見せています。
鈴木:皐月賞は人気を背負っていた分、結果的に早めに動かざるを得ない競馬になりました。ただ、1度負けたことで、ジョッキーも心理的に守りに入らず乗れるでしょう。
——ダービーを迎えるにあたって皐月賞の敗戦は決してマイナスにはならないということですね。皐月賞馬のミュージアムマイルはどうでしょう。
鈴木:母のミュージアムヒルがマイルで3勝しているように距離延長は決してプラスではないです。ただ、皐月賞を差して勝った馬はダービーの2400mまではこなせるというデータもあるので、上位争いには加わってくるでしょうね。
——前走は展開がはまったようにも映りましたが。
鈴木:今年のように皐月賞で差し馬が優勢だった年は、皐月賞の上位組がそのままダービーで好走することが多いです。古くは2005年のディープインパクトとシックスセンス、10年のヴィクトワールピサとエイシンフラッシュなど。16年のディーマジェスティ、マカヒキ、サトノダイヤモンドは順番だけ変わってダービーでもワンツースリー。23年のソールオリエンスとタスティエーラもそうでした。
◆東京コースを味方につけるのは
——となると、皐月賞の1〜2着馬の争いになりそうですね。
鈴木:そうなる可能性は高いと思いますが、ミュージアムマイルの前走は鞍上がかなり上手に乗っての結果。強い馬なのは間違いないですが、上積みという点でクロワデュノールよりも評価は下げたいところです。
——東京替わりで最も評価を上げそうなのが、皐月賞3着馬のマスカレードボールですね。
鈴木:この馬は左回りがいいというよりは右回りが上手ではないと思っていました。皐月賞でも1コーナーで外に膨れていました。それでいて3着に来たのですから、広い東京へのコース替わりはプラス材料になるでしょう。
——東京は過去2戦2勝と相性抜群ですね。
鈴木:東京での2戦はどちらも加速ラップで強い内容でした。アイビーSの勝ちタイムは、コントレイルに次いで2位タイ(東京芝1800mの2歳戦)ですし、共同通信杯もレースレコードタイをマークしました。ただ、今回は枠順が外すぎますね。
——17番枠に入ってしまいました。
鈴木:内の馬を見ながら好位につけるのが理想ですが、それができるかどうか。坂井瑠星騎手には、ワグネリアン(18年に同じ17番枠から勝利)のような騎乗を期待したいですが、悩ましいところです。
◆ドウデュース、クロノジェネシスらと肩を並べる穴候補
——おそらく名前が挙がった皐月賞の上位3頭が3番人気までに支持されそうですが、これ以外に気になる馬は?
鈴木:今のところ皐月賞で掲示板を外した馬と別路線組はバッサリ消すつもりです。
——ということは、皐月賞4着ジョバンニと5着サトノシャイニングにもチャンスがありそう?
鈴木:そうですね。皐月賞で掲示板に載った5頭に絞っていいんじゃないかと。特にジョバンニは、操縦性が高くて器用な分、スローになればポジションを取れる強みが生きるでしょうし、前走以上の着順が期待できます。
——ただ戦歴を見ると、相手なりというか勝ち味に遅いタイプのようにも見えます。
鈴木:確かに他の掲示板組4頭に比べると、絶対能力は半歩下がるかもしれませんが、新馬戦が秀逸でした。昨夏の小倉でラスト1ハロン11秒2をマークしたのですが、小倉芝1800mの2歳新馬でこの時計を叩き出したのは、過去にドウデュース、クロノジェネシス、ピースオブエイト、そしてジョバンニの4頭だけ。G1を勝つだけの能力を秘めていてもおかしくありません。
——サトノシャイニングはどうでしょう。
鈴木:能力自体は評価していて、ダービーでも買いたい馬の1頭だったのですが、18番枠ですからね。折り合いが難しい馬なので前に壁をつくれる内枠が良かったです。
——5頭以外で気になる馬はいませんか。
鈴木:強いて挙げればファイアンクランツでしたが、この馬も外枠(16番枠)に入ってしまいましたね。
——ちなみに私、中川はロジャーバローズにあやかってダービーでは必ず1番枠の馬を買っています。今年はリラエンブレムが入りました。
鈴木:鞍上がロジャーバローズと同じ浜中俊ジョッキーですね。あの時と同じくらいハッキリと内前が有利ならといったところでしょうか。ただ、今開催は週末に決まって雨が降っているので、Cコース替わりとはいえ馬場が例年のような内前有利になるのか断言できない面もあります。
——関東地方も警報級大雨のおそれですか……。土曜日のレースを見て、外伸びの馬場になっている可能性もあるかもしれません。ちなみに今週もワイド1点で勝負ですね。
鈴木:今のところクロワデュノールとジョバンニの2頭に傾いていますが、最終的な買い目は土曜の夜までに決めて、Xアカウントに投稿するつもりです。
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有力馬は比較的外目の枠に入ったため、波乱の気配も漂う今年のダービー。世代の頂点に立つのはクロワデュノールか、ミュージアムマイルか、それとも……。発走は6月1日、15時40分の予定だ。
【鈴木ユウヤ氏 プロフィール】
東京大学卒。編集者を経てライターとして独立。中央競馬と南関東競馬をとことん楽しむために日夜研究し、Xやブログ『競馬ナイト』で発信している。好きな馬はショウナンマイティとヒガシウィルウィン。
【中川大河】
競馬歴30年以上の競馬ライター。競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。競馬情報サイト「GJ」にて、過去に400本ほどの記事を執筆。