奥深い中国茶の世界 【辛酸なめ子 コラムNEWS箸休め】

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2025年05月31日 09:10  OVO [オーヴォ]

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OVO [オーヴォ]

(C)2025 Nameko Shinsan

 お茶の世界は奥が深いです。先日、珍しい中国のお茶を飲む機会がありました。中国出身の有名な画家、リーエンさんの個展が東京・丸の内で開催され、友人に誘ってもらい伺いました。リーエンさんは作品だけでなく人柄もすてきで、その人徳に惹(ひ)かれて中国からお茶や中医学のレジェンド的な先生が来日。会場内でワークショップが行われました。

 お茶の講師は、王方辰(ワン・ファンチェン)先生。一見普通のメガネをかけた穏やかなおじさんに見えるけれど、北京生態文明研究院の生態学者という経歴の持ち主。「茶の酵素酸化理論」 の創始者で、「大紅袍(岩茶の銘柄)」の研究でも有名です。そのため先生は市場に出回らない希少なお茶も入手できるとのこと。


 先生は茶色い茶葉を回して見せてくれました。ウーロン茶というと日本ではあまり高級なイメージはないですが、先生が持ってきた「大紅袍」は「岩茶の王様」と呼ばれているそうです。福建省武夷山(ぶいざん)で生産され、原木からとられたお茶は世界で最も高級とされているとか。通訳の男性が「今は市場に出回っていないので買えませんが、このお茶は原木が数本のみで、1キロ約2億円の値がついたことがあります」と教えてくれました。ということは、参加者約10人のために5グラムほど使ったとして、100万円分ということに! 優雅で深みのある味わいの「母本大紅袍」をありがたく試飲。先生は、ハンディー加湿器にお茶を入れて、超音波で発生したスチームを顔に吹きかけると肌に良いという美容法を教えてくれました。乾いた毛穴がお茶を吸い込んでいきます。

 健康にも良いし、コミュニケーションの道具でもあるお茶。中国では若手ビジネスマンの間で、高級なお茶を披露するのがはやっているようです。上の世代がワインを収集していたように、希少価値の高いお茶を持っていると一目置かれるとか。社交の場での暗黙の作法もあるそうです。通訳さんが教えてくれたちょっと怖いお作法は・・・お茶がまだ残っているのに茶盤(ちゃばん)にバンと茶碗(ちゃわん)を伏せて置くのは、「お前とは同席したくない」「もう帰れ」といった意味が込められているとのこと。また、持てないくらいなみなみと熱いお茶を注ぐのは「お前のことは好きじゃない」という意味に・・・。京都で「ぶぶ漬け」を出されたら「帰れ」みたいな暗黙のサインが中国茶の世界にもあったとは。緊張感でせっかくの高級なお茶の味わいが半減しそうで、やはりお茶は平和な環境で飲みたいです。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 20からの転載】

辛酸なめ子(しんさん・なめこ)/ 漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に「女子校育ち」(筑摩書房)、「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「大人のマナー術」(光文社新書)など多数。2024年7月に「川柳で追体験 江戸時代 女の一生」(三樹書房)を上梓。

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  • 日本でも取っ手の無い湯吞茶碗になみなみと注ぐのを多くの家で見かける。育ちが分かると言うものだ。酒となれば多少変わるが…。嗜好品は自分が美味しく楽しく頂ければいいだけなのに、古今東西口うるさい人が多い。お茶を濁そう。
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