花王が高級シャンプーで「塗り洗い」を強調したワケ “即改善”のマーケティング手法

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2025年05月31日 09:11  ITmedia ビジネスオンライン

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花王のヘアケアシェアが回復した理由

 市販シャンプー市場で、近年需要が伸長し続けている「高価格帯シャンプー」。花王は参入が遅れていたが、SNSの声を機敏に捉え、マーケティング施策に取り入れることによってシェアを伸ばしているという。5月29日、ヘアケア事業部ブランドマネジャーの野原聡氏が具体的な戦略を明かした。


【画像】meritポスターギャラリー


 2015年頃から「BOTANIST」「アンドハニー」「エイトザタラソ」などの新興企業が手掛けたブランドが、高価格帯シャンプー市場の拡大をけん引してきた。


 花王は高価格帯への参入が遅れた結果、同社のインバスヘアケア製品(高価格帯およびリーズナブル品を含む)のマーケットシェアは2017年の約20%から2023年には11%強まで低下した。(インテージ調べ)


 そこで2024年春より高価格帯シャンプーのテコ入れに着手。「melt(メルト)」「THE ANSWER(ジアンサー)」といった高価格帯シャンプーを発売した。併せて、マス市場向けの既存シャンプーブランド「merit(メリット)」「Essential」「Segreta(セグレタ)」をリブランディングして改良、新発売した。


 2024年春に発売したmeltは出荷本数250万本を突破、同年秋に発売したTHE ANSWERも100万本を突破した。


 花王のヘアケア製品のうち、同社が価格1400円以上と定義する高価格帯シャンプーの売上構成比は、参入前の1%から20%強にまで拡大した。インバスヘアケアの直近シェアも13%まで回復したことで、同社は2027年の目標を上方修正。シェア18%を目指すとした。


●ヘアケア事業、なぜ回復できた?


 ヘアケア事業のV字回復の背景には、「SNSで共感を得る工夫」や「顧客の声を迅速に反映する仕組みづくり」といったマーケティング手法があるという。


 例えば、meritのリブランディング後に放送された、“家族愛”をアニメーションで描いたCMは、放送直後にXでトレンド入り。ブランドの持つ「家族愛シャンプー」「長いブランドの歴史」といったブランドコンセプトへの共感を促す狙いがあった。


 CMでは入学式で娘を撮影する両親を描き、「このメリットのCM、かなり涙腺にきてしまう」「メリットのCM公式まで見に行って涙止まらん」など、多くの共感の声を集めた。3月末の入学・卒業シーズンだったことや、学園ものテレビドラマ『御上先生』(TBSテレビ)の卒業式シーンが放送された最終回に合わせてCMを配信したことも、共感を集めた背景にあるという。SNS上での強い共感が、meritのブランドイメージ向上につながった。


●顧客の声を施策に即反映


 高価格帯シャンプー「THE ANSWER」の施策では、SNSの声をすぐに広告に反映するという取り組みを行った。当初のCMでは、同シャンプーの特徴の1つである「泡立てる前に髪に塗って使う塗り洗い」はあまり訴求されていなかった。野原氏は当初、「塗り洗いに関しては少し面倒くさく感じる人もいるかもと考えていた」と語る。


 しかし実際には、顧客の「塗り洗い」への反応は肯定的で、「実験みたいでとても面白い」といった声がSNS上で上がっていた。そこで同社は訴求方法を変更。塗り洗いを他のシャンプーとの差別化ポイントになると再評価し、新たな広告動画「塗り洗い編」を制作した。


 これらの施策を行う上で、同社は部門ごとのリレー形式ではなく、研究やマーケティングなどの各担当者が同じチームで働く体制を採用。2週間に1度、市場の声を集めて全員に共有することで、迅速に施策へ反映できるようにした。


 また、ブランドイメージの“一貫性”にも力を入れた。製品開発には数年の時間がかかる一方、市場の流行や競合は常に変化していく。そこで注目したのが「感情のニーズ」だという。「『髪がきれいになることで自信がつく』といった感情は時代に左右されにくい」と、野原氏は語る。複数展開しているヘアケアブランドを人の感情に基づいてポジショニングすることで、各ブランドの世界観やコンセプト、商品設計に一貫性を持たせた。


 同社は高価格帯シャンプーを含めたインバスヘアケア商品の売り上げを、2027年までに2023年比で1.56倍に伸ばすことを目指す。2025年夏にも高価格帯シャンプーの新たなブランドを展開する予定だ。



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