『あの星に君がいる』場面カットNetflix初の韓国オリジナル長編アニメーション作品『あの星に君がいる』が5月30日より配信中。
本作は、火星探査で行方不明となった母を持つ宇宙飛行士ナニョンと、音楽の道を一度はあきらめた青年ジェイとの淡い恋模様を描く作品だ。近未来の2050年を舞台に、宇宙を目指す女性と地上にとどまり彼女の帰りを待ちながら音楽の夢を再生させていく青年の、地球と宇宙にまたがった遠距離恋愛を描く内容だ。声の出演は、映画『お嬢さん』で知られるキム・テリと『D.P. 脱走兵追跡官』のホン・ギョンが出演している。
本作の監督を務めたのは、韓国のインデペンデント・アニメーション界で注目され続けてきたハン・ジウォン。ソウルのIndie-Anifestなどで高い評価を得てきた作家で、これまで短編アニメーションやミュージックビデオ、オムニバスの長編や配信シリーズを手掛けてきた。そんなハン監督に本作の制作経緯やこだわりについて話を聞いた。
[取材・文=杉本穂高]
■短編から始まった企画の構想
――本作はオリジナル作品ですが、どんなところから企画を発想されたのですか。
ハン:私は以前から夢が描かれているアニメーション作品が大好きで、常に夢というテーマを表現したいと思っています。そして、女性と宇宙飛行士が登場する作品も大好きだったので、この企画を思い立ちました。実は以前にも、宇宙飛行士が登場する短編のMVを制作したことがあります。それは、お母さんを恋しく思っている子どもがいて、その子どもはある人形を持っているんですが、それは別れを象徴するものという内容の短編です。今回製作を請け負ったクライマックス・スタジオの方が、その短編を気に入ってくださり、そのストーリーを引き継ぐ形で、今回の作品を構想しました。
本作は、愛が重要な要素になっています。実は脚本を書いている頃に私は恋愛をしていたので、愛についても表現したいことがたくさんあったんです。クライマックス・スタジオも、それならば愛の要素も取り入れてみましょうとおっしゃってくださったので、このような作品が生まれることになりました。
――Netflixの韓国アニメーションとしては初のオリジナル長編作品となりましたが、ハン監督のこれまでの作品と比べて制作規模が大きくなっているのではないかと思います。
ハン:そうですね。これまでウェブ用の短編作品や広告、配信のシリーズ作品など、さまざまなフォーマットでアニメーションを制作してきました。それらと比較すると『あの星に君がいる』は作品時間も予算もスタッフの数もかなり増えています。これまでの作品は、自分で絵コンテを描き、キャラクターデザイン、作画や背景、撮影まで自分でやることがありましたが、今回は分業制で制作しています。スタッフが増えて分業できることで監督作業に集中することができましたし、多くのスタッフとのコラボレーションのおかげで面白い作品に仕上がったと思います。複数のチームと一緒に作業するのは複雑な過程でもありましたが、コミュニケーションを取りながらうまく作業できたんじゃないかと思います。
■周囲にいそうなリアルで等身大のキャラクターたち
――本作は宇宙と地上に引き裂かれる恋人の物語と言えますが、日本のアニメファンは新海誠監督の作品を思い出すかもしれません。新海監督の影響はあるのでしょうか?
ハン:新海誠監督は、世界中のアニメーションに影響を与えている方ですから、私もその影響を受けた一人と言えると思います。しかし、この作品は『君の名は。』公開以前から構想していました。基になった短編作品は、地球と宇宙で離れ離れになった母親と子どもの物語でした。そこに先ほどお話した愛の要素が入ってきて、このような形になったわけです。
宇宙と地球で距離が離れている分、切ない感情が強くなると思います。この企画を考えているとき、元々興味があった宇宙を舞台にしたいと思っていました。新海監督からの影響だけでなく、子どもの頃からいろいろな作品に触れて影響を受けてきたものが入り込んでいる作品だと思います。
――本作は、人間の描写がとてもリアルで、等身大の魅力にあふれたキャラクターが多いですね。キャラクターを作る際、どんなことを大事にされているのですか?
ハン:私が一番表現したいと思っていたことを上手く汲み取ってくれてうれしいです。アニメーションという表現には、それに合ったキャラクターがあるとは思います。アニメーションならこういうキャラクターでこういう表情をするだろうという、ともすれば固定観念があると思うんですけど、私は、それに沿ったものではなく、私たちの周囲を探せば見つかるような、そんな身近な存在で個性を持った人間を描きたいと常に考えています。それが私のキャラクター造形の核となっていますし、作品のアイデンティティです。今回の作品の主人公ナニョンもジェイも、私たちの周りにいそうな人たちとして造形しています。
そして、彼らが着ている服も、今流行っていそうな服を参考にしました。ファッションはよく25周年単位で流行が戻ってくると言われますよね。この物語は2050年が舞台ですから、ちょうど今から25年後なので、きっと今と似たような服を着ているんじゃないかと考えました。キャラクターデザインについては、表情などをいかに立体的に見せるかに気をつけました。そして、リアリティを出すためにナニョンにはシミやそばかすなど不揃いに入れるようにしました。ディテールにまで気を使って、現実的な存在感を出したかったんです。類型的なキャラクターではない、固有の存在として認識してもらえるようなキャラクターを作りたいと考えてキャラクターを作るようにしています。
――本作の主人公ナニョンとジェイを演じるのは、有名俳優のキム・テリとホン・ギョンですね。
ハン:はい。お2人には声だけの出演だけではなく、実写撮影でも演じてもらい、それを参考に制作させていただいた部分もあるんです。例えば、2人が口論するシーンや愛し合っているシーンを実際に演じてもらって、アニメーションを制作する際にも参考にしています。シーンによっては2人の解釈を聞かせていただき、この場面ならナニョンとジェイはどう思うか、どう行動するのかなどの意見も参考にして作品に反映して、セリフを修正したりもしました。キム・テリさんとホン・ギョンさんの参加によって、キャラクターの感情の幅がすごく広がりました。まるで実写映画のように表現の幅が広がり、私が考える以上にリアルで立体的な人間描写ができたと思います。
『あの星に君がいる』
Netflixにて配信中
出演者
キム・テリ、ホン・ギョン、カン・クハン、アン・ヨンミ、シャロン・クォン、ユン・アヨン、デヴィッド・ジョン・ロビンス、チャンミ