
「右手の指がすべてなくても、日常生活での困り事は、あんまりなくて。料理も洗濯も自分でできますし、ネイルやヘアアレンジも、同世代の女性たちと同じように楽しんでいます」
そう話すのは、SNSで自身の障害について発信している、むろいのぞみさん(28)。むろいさんは、先天性四肢障害があり、右手の指がすべて未発達の「右手五指欠損」で生まれた。
「ぐーちゃん」は両親がつけた愛称
「先天性四肢障害は、生まれたときから手足に何らかの異常がある障害。例えば私のように指が足りない場合もあれば、逆に多指症といって指が多く生まれてくる人もいます」(むろいさん、以下同)
ほかにも、指と指の一部がくっついた状態の「合指症」や、指が曲がった状態で固定されている「屈指症」など、症状は多岐にわたる。
「遺伝的な要因と環境的な要因があるといわれていて、私は恐らく後者だろうと。お母さんのお腹の中にいたときに、へその緒が右手に巻きついてしまって、指が発達できなかったのが原因ではと診断されました」
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先天性四肢障害の発生頻度は、出生1万人当たり約8人。出生前のエコーで発見される場合もあるが、むろいさんのように出生後に判明するケースも少なくない。
自身の右手が“みんなと違うかもしれない”と感じ始めたのは保育園に入ってから。
「同い年の子たちと過ごすようになって、私の右手はみんなと違うんだ、と気づき始めました。両親は保育園に通う以前から、私が自分の右手に愛着を持てるように、『ぐーちゃん』と名前をつけてくれて。
それに、片手が不自由だから、なんでも手伝うのではなく、『1回自分でやってみて、難しかったら相談してね』というスタンスをとってくれたので、たいていのことは一人でできるように。自然と障害を受け入れられるように育ててくれた両親には、とても感謝しています」
初めての拒絶はアルバイトの面接
両親や周囲の支えと理解もあり、むろいさんは水泳にバスケ、サッカーなど習い事にも挑戦し、健やかに成長していった。一方で思春期には、同級生たちと写真を撮る際に、みんなでおそろいの両手でハートをつくるポーズができず落ち込んだり、恋愛に積極的にはなれなかったりといった悩みもあった。
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葛藤を抱えつつも、生活面においての苦労はほとんどなく、大学にも進学。
「自分自身が障害者だからこそ、ほかの障害がある人たちの生活にも関心があって。社会福祉を専攻しました」
初めて「社会の壁」に直面したのは、大学時代のアルバイト探しだ。
「周りの子たちと同じように、おしゃれなカフェや居酒屋で接客業をしてみたくて。いざ面接となって右手のことを話すと、『うちの店では難しい』『お客さんの前に出せない』……など。かなり苦戦しました」
実際に受けたバイトの面接は、なんと40社以上。
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「やる前から“あなたにはできないでしょ?”と決めつけられてしまうのは、やっぱり悔しかった。でも、それが現実なんだなと、社会人になる前に知れたのは今となっては良い経験だったと思います」
ようやく雇ってくれたのは、とあるチェーンのスーパーマーケット。理解ある店長に救われたという。
「食材などの品出しを担当していました。ただ、このままだと就職活動のときも苦戦するなと思い……。自分を受け入れてくれる業界、と考えたときに、人手が足りず、さまざまな障害への理解が最初からある福祉業界に行くべきなんじゃないかって。なので、障害者支援施設でのアルバイトも始めたんです」
夢は国民的なドラマに出ること
現在は、知的障害者の支援施設で働いている。
「7〜8人の方が住まわれているグループホームで、入居者さんの身の回りのお世話や家事をしたりしています」
そんなむろいさんには、俳優として、映画やドラマに出演したいという夢がある。きっかけは、大学時代に友人から誘われた、ドラマのエキストラだ。
「もともと、『花より男子』などの学園ドラマが大好きで、憧れもあったんです。友人が誘ってくれたのも学園ドラマのエキストラで。最初は主演俳優さんのすごく近くに配置してもらえたのですが、右手のことを話すと“やっぱごめん、後ろいこっか”と」
それでも、俳優になる道を諦めなかったむろいさん。就職後も、エキストラの募集があれば、夜勤明けに片道2時間以上かけて通ったり、オーディションに参加したりと活動を続けた。
「いいところまでいっても、最後は障害がネックで落ちちゃうことも多い。私の右手がないことで、『右手がない子がいるのは、何かの伏線のように視聴者は受け取ってしまう』と言われたこともありました。ドラマも映画も、健常者であることが前提として作られるんだな、と身に染みて感じています」
最近では、車いすユーザーや視覚障害者など、さまざまなハンディキャップがテーマのドラマも増えてきたが、自分のように“パッと見ではわからない障害”にフォーカスした作品は、ほとんどないのではと話す。
「なので、『一目ではわからないいろんな障害がある』、『日常生活を普通にこなしている障害者もいる』といったことを発信したいと、SNSを始めました。同じ障害のお子さんを持つお母さんから、『うちの子も、のぞみさんを参考に片手生活を頑張っています』とメッセージが来たときはうれしかった。
もちろん、俳優としての夢も諦めたわけじゃないです。いつか、大好きな朝ドラに出演したいというのが、今の大きな目標(笑)。夢も日常も障害を理由に手放したくないって、そう思っています」
むろいのぞみさん
2021年からSNSで自身の先天性四肢障害について発信。知的障害者のグループホームで職員として働く傍ら、障がい者モデル媒体「porte」の新人モデルに選ばれるなど、メディアでも積極的に活動をしている。(インスタグラム@guuuu_non)