写真はイメージです 2006年の会社法改正で最低1000万円の資本金規制が廃止されてから、オンラインでの起業支援が充実し、法人化の手続きも簡素化されたことで、以前と比べて起業のハードルは低くなった。だが、それに伴いトラブルも増えているという。
◆申告や社会保険加入を知らない起業家が多くいる
「ビジネスとして当たり前の確定申告や社会保険加入などを知らない起業家が多くいます」と警鐘を鳴らすのは、これまでに多くの中小企業や個人事業主のコンサルティングを行ってきたLM&Cの宮子智子氏。
3〜4年前まではゼロだった相談件数が、近年は増加。昨年の無料相談は50件を超えており、簡単な診断シートを使った問い合わせを含めると80件にも上るという。
「多くの起業塾がお金の稼ぎ方を教えていますが、前提となる事業計画やミッション・ビジョン・バリューを教えているところはほとんどありません。
社会人経験のないまま起業して、そのまま軌道に乗る人も少なくありませんが、確定申告や社会保険などの重要性を理解していないケースが珍しくないのです。
起業家本人のリテラシーによるところもありますが、税理士・社労士・弁護士など各士業の業務が縦割りなのも問題。『誰に何をどう頼んでいいのか、どう選んでいいのか』がわからず、事業だけが走っているような状態です」
◆年商3000万円なのに税金申告漏れ&社会保険未加入
その結果、違法と気がつかないまま、確定申告や社会保険のトラブルを抱える起業家が後を絶たないというわけだ。2021年に宮子氏が相談に乗った、当時20代後半だった起業塾経営者の男性もその1人。
「彼は、起業からわずか2年で年商3000万円を達成したにもかかわらず、それまでアルバイトをした経験しかなかったので、確定申告や社会保険の知識がゼロ。周囲に言われるがままインターネットで法人化したところ、『社会保険加入の問い合わせがきている』と相談を受けたのがきっかけでした」
男性に詳しい話を聞くと、杜撰な経営状況が次々と明らかになったという。
「『社会保険事務所から督促がガンガン来て迷惑している』と、被害者のように言うんですよ。知識がないから、自分が違反をしているという認識がないんですね。
さらに話を聞いてみると、申告の概念もないので、確定申告もしていませんでした。ただ、彼みたいに若くして成功している人に、確定申告や社会保険の仕組みを淡々と説明しても効果はありません。
このままだといかにリスクがあるのか、会社として損をしているのかを交えながら説明したところ、すぐに理解してくれましたね。紹介した税理士のもと、遡って修正申告を行い、社会保険にもきちんと加入してもらいました。
事業計画のアドバイスも行ったことで月次の数字を見られるようになり、安心して経営が行えるようになった結果、4年連続で売上が15%アップになったと聞いています」
◆税理士に相談しにくい環境が原因のケースも
確定申告は、プロの税理士に任せるのが一番だが、相談しにくいケースもあるという。
「特に地方に多いのですが、プライドの高い税理士が多くて高圧的だという話はよく耳にします。今ではAIを導入している事務所も多く、都市部では比較的安くても、地方だと昔ながらの金額でやっている事務所が残っている。それで税理士に相談しにくいという起業家もいるようです」
カウンセラーとして2500万円の売上を達成した40代の女性も、誰にも相談できずに経理の悩みを抱えていたところ、宮子氏に打ち明けたそう。
「彼女の場合は以前の年収が200万〜300万円だったこともあり、法人化はしていませんでした。ですが、カウンセリングを学校で学び直したところ、急激に生徒が増えて売上が一気に2500万円を超えたそうです。
売上が急激に増えたことで私の元に相談にこられたのですが、地元の税理士はハードルが高くて相談できなかったと打ち明けられました。
自分なりに確定申告をしていたものの、申告漏れがあったので修正申告を行い、その後法人化のサポートを行いました。現在は娘さんを社員にして、安心して仕事ができているようです」
◆どんな人に相談すべきなのか?
申告や社会保険の知識に自信がないときは、誰に相談するのがベストなのか。
「手間がかからないのは、税理士・社労士・弁護士をまとめて紹介してくれるところです。インターネットで調べると、『ワンストップですべてやります』と謳っている会社が出てくると思うので、そういったところに相談してみるのがいいのではないでしょうか」
また、経営者や専門家に相談するときは、ポイントもあるという。
「経営者なら信頼できる人がいいですし、専門家の場合は自分よりも稼いでいる人がおすすめです。税理士や社労士の収入は幅がありますが、中には年収が多くない方もいます。そういった人たちの元に高所得者が相談に行くと、本質を理解してくれないという話を耳にしたこともあります。
それに稼いでいない専門家は、的はずれなアドバイスをする可能性も高い。金銭感覚がズレているので、『なんでこんなに広告費をかけているの』『講座料が高すぎる』と、相談していないことを言われたと愚痴を聞いたこともあります」