月1万円の手当が半額に…特別支援学級担任たちの悲鳴「仕事は1.5倍に増えているのに」“過酷な現場”から上がる怒りの声

0

2025年05月31日 16:21  日刊SPA!

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

日刊SPA!

画像はイメージです
「現場の状況がわかっていないんだ、という印象しかないですね」と、あきれ顔で言ったのは東京都内の小学校で特別支援学級を担任しているAさん(30代)だった。
 特別な支援を要する子どもたちが在籍する特別支援学校や特別支援学級を担任する教員には、給与月額の3%相当、金額にして1万円前後が「調整額」として支払われている。通常学級の担任より負担が大きいということが、調整額が支払われている理由なのは言うまでもない。

 この調整額を半分にするという動きがある。2024年8月に中教審(中央教育審議会)が「(調整額の)検討をすすめることが考えられる」と答申したのを受けて、今年4月15日の閣議後記者会見で阿部俊子文科相が「半減とする」と具体的な方針を示したのだ。2027年1月から0.75%ずつ減らし、28年度には1.5%相当にする予定だという。現在の約1万円が、28年度には約5000円になってしまうことになる。

◆“調整額半減”について現場の声は

 さて、“調整額半減”を当の特別支援学級の担任はどう受けとめているのか。訊いてみて戻ってきたのが、先ほどのAさんの答えだったのだ。現場の忙しさやたいへんさを無視した方針でしかない、というわけである。Aさんが続ける。

「通常学級は同じ歳の子が集まっていますが、特別支援学級では複数の違う学年が同じ教室にいます。それぞれの学年に合った授業をし、学級運営もしなければならないので、けっこうたいへんです。しかも、あるときは1年生が多かったり、ある年はまったくいなかったりとバラツキが大きいので、その状況に合わせていくのも簡単ではありません。さらに通常の学習にくわえて、支援のための特別指導の時間もあります。授業自体も足りないですし、たくさんの授業があっても授業準備はしなければいけないので、かなりの時間が必要です」

◆通常学級の保護者対応より工数が多い

 学習面だけではない、通常学級の担任にはない苦労もある。それが、保護者対応だ。通常学級の保護者対応と、ちょっと違っているからだ。

「支援が必要な子の家庭は、やはり支援が必要だったりもします。たとえば提出物のお願いをプリントで連絡しても、家の方がうまく受けとってもらえなくて、表現を変えて再度お願いしたり、電話したりも、しょっちゅうです。ここにも、かなりの時間をとられてしまいます。こうした家庭支援は、まず通常学級では無いことですね」

 そして、教育委員会から降りてくる調査などで提出しなければならない書類も通常学級に比べて多いという。どういう支援が必要な子がいるのか支援別の人数を知らせろ、といった書類づくりに時間のかかるものを、いろいろと要求されるのだ。こうしたアンケートや調査への回答は、通常学級でも多く、教員の多忙化の原因のひとつにもなっている。それ以上に多いのだから、間違いなく多忙化につながっている。こんなことをやっていては、定時で帰れるわけがない。

◆残業しても仕事が終わらず、当たり前のように休日出勤

「定時は16時45分ですが、私の場合、職員室を出るのは20時から20時半ごろ、それがほぼ毎日です」と、Aさん。それでその日の仕事が終わるのかといえば、そうではない。

「終わらないので、家に仕事を持ち帰ってやります。それでも終わらないと、休日に出勤して仕事を片付けなければいけません。休日出勤は私だけでなく、同僚たちも普通にやっています」

 通常学級の担任も忙しく、かなりの残業を強いられている。だからこそ、現在は残業代が支払われない代わりに払われている月額給与4%の「教職調整額」を段階的に10%まで引き上げる案が、国会で審議されているところだ。

 過労死ライン超えの残業を強いられながら残業代も支払われない教員の、過酷と言っていい教員の働き方に、せめて教職調整額の引き上げで応えようと文科省も考えたのかもしれない。もちろん教職調整額を10%にしたところで、教員の働き方の現状に見合った給与にはならない。見合った給与にするには、残業時間に対して残業代が支払われなければならない。民間企業なら普通のことであり、実行されて当然のことである。それを文科省はやらないで、教職調整額を少し引き上げるだけで誤魔化そうとしているのだ。

◆仕事が減っているならまだしも…

 そんな過酷な条件のなかで働かされている教員のなかでも、さらに忙しく、たいへんな仕事をこなしているのが特別支援学級の担任である。にもかかわらず、これまで支払われていた調整額が半減されそうなのだ。

「とても理屈に合わない話です」と、Aさんは怒る。「仕事が減って楽になっているなら、調整額が減るのも理屈に合うのかもしれませんが、まるで逆のことが起きようとしています。私が受け持っているクラスも、去年より人数が1.5倍に増えています。私のクラスだけでなく、ほかの学校のクラスでも同じように在籍する子どもの数は増えています。それだけ特別支援学級の担任の仕事は、ますます忙しくなっているのが現実なのです」

 ますます忙しくなっている特別支援学級担任の負担を軽くする方策はいっさい講じられることなく、調整額削減だけを文科省は打ち出してきたのだ。誰の目にも、「おかしな話」でしかない。

 ところが、肝心の特別支援学級の担任をしている教員たちから不満の声が挙がっているという話は聞こえてこない。それについて、Aさんは次のように言う。

「中堅の教員になると『おかしい』とは思っています。しかし若い教員は、あまり気にしていないようにしか、私にはみえません」

◆若い教員は気づかないようにされている?

 忙しく真面目に仕事に取り組んでいる自分たちの待遇が、改善どころか、改悪されようとしているのである。にもかかわらず、「気にしていない」とは信じられない。その疑問をAさんに向けてみる。

「『気にしていない』というか、『気づかないようにされている』のかもしれません。毎日の仕事をこなすのに精一杯で、調整額のことにまで関心をもっていられなくなっているのが現実ではないでしょうか。それくらい、特別支援学級の担任は忙しいのです」

 おかしいと感じている中堅どころでも、声に出して不満を述べることまではしていない。それも、忙しさのために文句を言っている暇もないからなのだろうか。

 教員が不満を口にしたり、関心さえもたせないようにするには、そんなことを考えるをもたせないくらい忙しくしておくにかぎるのかもしれない。そこまで文科省が考えているのなら、「あっぱれ」と言うしかない。

 なぜなら、教員から大きな反発もないままに、特別支援学級担任に支払われている調整額を半分にする「とんでもないこと」を文科省が成功させそうな気配だからだ。これで、いいのだろうか?

<取材・文/前屋毅>
 

【前屋毅】
1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。ジャーナリストの故・立花隆氏、田原総一朗氏のスタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーランスに。流通、金融、自動車などの企業取材がメインだったが、最近は教育関連の記事を書くことが多い。日本経済が立ち直るためにも、教育改革が不可欠と考えている。著書に『教師をやめる』(学事出版)、『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)などがある。

    話題数ランキング

    一覧へ

    前日のランキングへ

    ニュース設定