
ヤクルトドラフト1位ルーキー・中村優斗の現在地(後編)
前編:ヤクルト・中村優斗は「気づいたらメモ」で進化中>>
一軍昇格に向けて順調に調整を続けているヤクルトのドラフト1位ルーキー・中村優斗。最近は一軍の試合をテレビ観戦しながら、投手のボールを研究している。そのなかで、西武の今井達也が印象に残っていると話した。
【今井達也をボールの変化量から分析】
「今井さんはあれだけ無双しているのに、じつは真っすぐの縦の変化量はそれほど大きくないんです。それでもあれだけ打者を圧倒できるのは、スライダーが真っすぐに見えているからじゃないかと。打者が真っすぐだと思って振ったら、じつはスライダーだった......みたいな。映像で見ていても、打者の反応からそれがわかるので、そこが空振りを取れる理由なのかなと思います。
しかも、そのスライダーも打者の反応に比べて変化量がものすごく大きいわけではないんです。やはり、リリースの位置など、数値だけでは見えてこない要素があるのかなと。本当に勉強になりますし、すごいなと思います」
|
|
そして、ドラフト同期のチームメイト、荘司宏太の名前も挙がった。
「荘司さんの真っすぐのホップ数値は65センチくらいあって、自分が見た限りでは一番大きい数字でした。それがあるから、チェンジアップといった変化球が効いているのかなと」
自身の数値については、「フォークの回転数が一般的な数字より多いくらいで、そんなに突出した数字はないです。それが一軍にいって通用するのかしないのか」と言い、こう続けた。
「ただ、ホップ成分がいいとか悪いとかではなく、打者を抑えるためには"平均的な数値から外れたボール"を投げることが大事だと思っています。最近のホップ成分の平均値は40センチから50センチくらいで、打者にとっては見慣れた軌道なんです。だから、回転数が平均より少ないボールのほうが、打ちにくいのかもしれません。自分としては、そうした"平均から外す"ことが重要だと感じていて、意識的に平均値から外している球種もあります」
【奥川恭伸からのアドバイス】
先日、中村は奥川恭伸に一軍の打者と対戦することへの不安を打ち明けたところ、「おまえのボールなら一軍でも押しきれる」と、心強いアドバイスをもらったという。
|
|
「奥川さんが言っていたのは、『ストライクゾーンは二分割くらいで十分だし、たとえバッターのスイング軌道にボールが入っても、ファウルになるから大丈夫。だから「オレは中村だ」と相手を見下ろすくらいの気持ちで投げればいいんだよ』ということでした。
もちろん、ギリギリのコースを狙うことも大切ですが、上から見下ろすような強気の気持ちで投げることで、カウントも有利に進められるし、自然と投手にとって有利な展開になると思います。奥川さんからのアドバイスは、メンタル面でほんとにありがたかったです」
5月25日のDeNA戦。軽い体調不良により一度登板を見送っていた中村だったが、この試合は100球予定で先発のマウンドに立った。
3回までは1本のヒットも許さず、4奪三振。しかし、「後半は体がへばって、腕が横ぶりになってしまいました」と、4回に3安打1失点。6回にも3安打で1点を許した。結果は6回を投げて7安打、5奪三振、2四球、2失点。苦しみながらも粘り強いピッチングを披露した。
「課題は真っすぐの質が後半に落ちてきたこと。あとスライダーも抜けたのがあったので、そこをなくしたい。100球近く投げきれたことは収穫でしたし、4回と6回は点を許しましたが最少失点でいけたので、そこもよかったです」
|
|
この試合で中村と初めてバッテリーを組んだ捕手の松本直樹は、「マウンドが若干合っていないようで、投げづらそうにしていましたが、それでも何とか粘ってくれたのでよかったと思います」と振り返った。
「本来のピッチングではなかったかもしれませんが、手札をたくさん持っていると感じました。『もう真っすぐしかない』『スライダーしかない』というふうにならず、『フォークでもいけます』『カットボールもあります』と。手札がなくなり、相手にこれしかないというのがわかってしまえば、打たれる確率が高くなりますので」
松本は中村のピッチングについて、次のようにイメージしたという。
「まずコントロールがいいので、"自分との戦い"にならずに、しっかりバッターと勝負できる。ストライク先行で、いろんな球種でストライクを取って、真っすぐで差したり、また変化球に戻したり......。それに真っすぐが速いから、相手はある程度ポイントを前に置かざるを得なくなって、そこを変化球でストライクを取ったり、空振りを取ったりもできる。一軍のバッターは当然いろいろ考えながら打席に立っていますが、こちらも考えながら投げられるピッチャーなのかなと。『もうこれしかない』ってならないですからね(笑)」
【金丸夢斗と投げ合いたい】
次回も二軍での登板が見込まれているが、一軍のマウンドに立つ日はそう遠くないはずだ。中村は、今年の目標について「1年間投げきることを目指しています」と語った。
「周囲のレベルの高さを毎日痛感していますが、それが逆にモチベーションにもなっています。本当に毎日が勉強の連続で、この1年間で学べることをしっかり吸収して、まずは一軍で活躍するイメージを持って取り組んでいきたいです」
5月27日、神宮球場で行なわれたヤクルト対中日戦では、ドラゴンズのドラフト1位ルーキー・金丸夢斗が先発した。勝敗こそつかなかったが、6回1失点(自責点0)の堂々たるピッチングを見せた。
中村はその試合をテレビ観戦したという。
「金丸とは一緒に旅行したこともあるくらい、すごく仲がいいんですよ(笑)。アイツはほんとにすごい投手ですし、投げ合いたかったので、正直めちゃくちゃ悔しかったですね。でも、いつか必ず投げ合える日が来ると信じています」
中村優斗への期待は、日を追うごとに高まっている。