
兵庫県の元県民局長のプライバシー情報が漏えいした問題。第三者委員会が「斎藤知事の指示の可能性が高い」と発表しました。これまで兵庫県と斎藤知事の周辺で何が起きていたのか。取材しました。
【写真で見る】「これ一般職の公務員のやることではないです。ヤクザです」竹内元県議のLINEには懸念が
「誰から聞いたんや?」抜き打ちで行われた県民局長への事情聴取兵庫県をめぐる一連の問題の発端は2024年3月、当時の西播磨県民局長が、斎藤知事のパワハラなどを告発する文書をメディアなどに送ったことだ。
斎藤知事は、片山副知事らに告発者を特定するよう指示。
県民局長への事情聴取が行われた、2024年3月25日。県側が録音していた音声がある。「告発文書を書いたのか?」と片山副知事が、県民局長を問い詰めている。
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【2024年3月25日の事情聴取音声】
片山安孝副知事(当時)
「全部な、お前がわかる話じゃない。誰から聞いたんや?聞いた者、全部名前言え」
「もう一回聞くけど、作ってないんかい?」
県民局長(当時)
「知りません」
片山安孝副知事(当時)
「ほなその文書は誰かに渡したんかい?誰に渡したんや」
県民局長(当時)
「いや、だから誰にも渡してませんけど」
片山安孝副知事(当時)
「勤務時間にやっとったんちゃうんかい。どないやねん、公用パソコンで」
聴取は事前にマニュアルが作られていて、抜き打ちで行われた。
片山安孝副知事(当時)
「悪いけど、パソコン持って帰らせてもらうわ。ここ座っとけ。ログインしてあるんやろ。これ、USBは私物か?」
公用パソコンを取り上げられた。中にあったのが県民局長のプライバシー情報だった。
元県民局長が亡くなったあとも片山元副知事は、この公用パソコンのプライバシー情報を公にすることにこだわった。
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【2024年10月 兵庫県議会インターネット配信より】
片山安孝元副知事
「倫理上問題のあるファイルがありました。それは当該本人の××過去××わたります××」
奥谷謙一委員長
「証言していただかなくて結構でございます」
片山安孝元副知事
「いやこれは…」
奥谷謙一委員長
「プライバシー情報ということで」
【2024年10月 会見】
片山安孝元副知事
「本人の不倫日記に言及したときに…」
――記者:ちょっとまってください制止します。個人的情報は…
「だめですか?」
発言を制止した場面は「一部県議とマスコミが結託して情報を隠し、知事を貶めようとしている」との陰謀論につながった。
斎藤知事自身も県知事選挙中、そのプライバシー情報について言及していた。
斎藤元彦知事(2024年11月)
「職場のパソコンを使って、公務員としては良くない行動をしていた。プライベートなことで、公務員としての不適切な内容をたくさん書いていた」
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――お話聞いてもいいですか
井ノ本知明 元総務部長
「困りますよ」
――県議について少しだけ…
「すみません」
今回、第三者委員会は元総務部長の井ノ本知明氏が、このプライバシー情報を、3人の県議に漏えいしたと認定した。
「報道特集」の取材に応じた、第三者委員会の工藤涼二委員長は、この情報漏えいが元県民局長を追い詰めた原因の一つだと推測する。
――(井ノ本)元総務部長が行った情報漏えいは、非常に重い意味があるようにも思うんですけれども
第三者委員会 工藤涼二委員長
「そりゃ重いでしょうね。おそらく自らと思われる命を落とされてるわけでね。今回のような情報漏えいとかあったからこそ、起きたんだと思うんですよね」
井ノ本氏は当初、第三者委員会に対し情報漏えいを認めていなかったが、2025年2月、人事課に出した弁明書で一転して漏えいを認め、こう主張した。
第三者委員会の報告書
「知事及び元副知事の指示に基づき総務部長の職責として正当業務を行ったにすぎない」
漏えいは「知事と副知事の指示だった」とした。
井ノ本氏によると、それは元県民局長の公用パソコンを取り上げた後の2024年4月初旬。総務部長も経験した幹部A氏と共に、斎藤知事に「公用パソコンにプライバシー情報にかかわる大量の文書があった」などと報告。
知事は、こう答えたという。
「そのような文書があることを議員に情報共有しといたら」
第三者委員会は、このとき同席していたA氏にも事情を聞いた。すると…
元総務部長A氏
「根回しというか議会の執行部に知らせておいたらいいんじゃないかという趣旨と理解できる知事からの発言があった」
その後、A氏は、斎藤知事からの指示を片山副知事に報告。片山氏は第三者委員会の聴取に対し、こう話したという。
片山安孝副知事(当時)
「『知事から元県民局長の私的情報について議会と情報共有しておくようにとの指示があった』と聞いたので、特に反対もせず、井ノ本氏において『根回し』をするように指示した」
「指示はしていない」という斎藤知事と、完全に食い違う3人の証言。
元裁判官でもある工藤委員長は、情報漏えいが「知事の指示により行われた可能性が高い」と結論づけた理由をこう話す。
第三者委員会 工藤涼二委員長
「知事のお話を伺ったんですね、3月6日でしたかね。そしたら知事は文字通り真っ向から(指示を)否認されて。『一切そういうことはしていない』ということを即座に否定されたんです。それはちょっと不自然だなって。
片山さんはやはり知事と同じように、そんなこと言ったら責任を負う立場ですよね。そういう責任を負う立場の方が、『指示があったということを聞いた』と、自分もそれに同調して『(根回しを)やっておくように』と。そうなると、この片山さんの供述の証拠価値ってすごく高くなりますよね。3名の方の供述がおおよそ一致している。知事の証言は、採用できないんじゃないか、っていうそういう結論に達したんですけど」
斎藤知事は、第三者委員会の会見のあとも主張を変えていない。
第三者委員会 工藤涼二委員長
「第三者委員会としてはですね、私達の判断に自信を持ってます。知事が未だに否認されてても、それを何回繰り返されても我々としては、その供述は採用できません」
そして「個人的な見解」とした上で、こう話す。
第三者委員会 工藤涼二委員長
「この調査報告書を受け入れてくださっていない知事のスタンスっていうのは、非常に残念だと思います。間違ったと思ったところは、素直に認めて謝って(県政を)前に進められたらどうなのかなと。それがやっぱり、県民にとっては一番幸せなことじゃないのかなって気は個人的にはしますね」
2025年1月に亡くなった、竹内英明元県議。
元県民局長のプライバシー情報をめぐる井ノ本氏らの動きを当初から察知し、自ら調査に乗り出していた。
2024年5月、竹内さんのLINEには、プライバシー情報が悪用され、元県民局長は信用できないとされてしまう懸念が示されていた。
竹内元県議と関係者のLINE
「押収したパソコンの中身をみて、片山副知事は、これは行ける!と知事会見を前に進言したそうです」
「これを持ってるぞと中身は言わないけど、反論をする。これ一般職の公務員のやることではないです。ヤクザです」
メッセージを受け取っていた、県の関係者は。
兵庫県の関係者
「気づいて調べたんだと思います」
――不都合な情報が、竹内さんの調査で分かってしまうことに対して(井ノ本や片山は)よく思っていなかった?
兵庫県の関係者
「それは思わないでしょうね。自分たちのストーリーが、どんどん壊されていくことになるので」
ところが、第三者委員会の調査では、井ノ本氏が元県民局長のプライバシー情報の“出所”は竹内元県議だと名指ししていたことが明らかになった。
井ノ本氏の供述
「元議員がもうひとつの情報の出所だと思う」
その根拠について、井ノ本氏は竹内元県議が「野党で唯一の告発文書の送付先であり、元県民局長が頻繁に連絡を取り合っていたことは聞いていた」と説明。
これを受け、第三者委員会は竹内元県議に、調査への協力を依頼した。
――こちらがその手紙ですか。
竹内元県議の妻
「はい」
――これは、奥様が受け取られた?
「事務所の方に届きました。(議員の)仕事を辞めて、事務所の片付けをしていまして、で届いて…」
書面で調査依頼があったのは、竹内さんが県議を辞職した翌月の2024年12月20日。
知事を貶めた“主犯格”などと様々な誹謗中傷に晒されるなか、親しかった元県民局長の情報を漏えいしたのは自分だと疑われた、と感じ、さらに追い詰められていったと、妻は明かす。
竹内元県議の妻
「その時は、そんなふうに名前が挙がっているなんていうのは、考えもしませんでしたから。議員の職を辞めて、何の力も持たない(夫に)なお、悪事を働いたとか黒幕だっていうように、どこまでも追い込んで痛めつけてっていう、本当に恐ろしいことだし」
責任を押し付けられた竹内さん。調査に応じる気力も無く、ひと月後、自宅で命を絶った。
第三者委員会は、元県民局長のプライバシー情報漏えいについて、竹内さんが「情報の出所とは認められない」と結論付け、斎藤知事らが井ノ本氏に指示した可能性が高いと指摘した。
竹内元県議の妻
「まさか(知事らの)指示があるとは、さすがに思わなかったので。本当に何と言うか、ありえないことがもう、その問題の当初からやっぱり起き続けていたんだな、っていうのが 改めて分かって、愕然としたっていう感じですかね。
今も混乱が続く中で、なぜこうなったのか。本当に24時間、頭から離れなくて、ずっと考え続けているんです。当然やっぱり怒りもありますし、すごくやりきれないんですけど、否定する気も、声を上げることもなんだかもう、それをしても、亡くなった人間は戻らない。あまりにもひどい…」