
3年前、変形性股関節症で両脚の人工股関節置換術を受けた歌手の岡崎友紀さん。実は40代から股関節に痛みを感じていたが無理をして動いていたのだそう。「痛みもなくなり、スタスタ歩けるようになったことがもう、うれしくて」と話す岡崎さんが一大決心して臨んだ手術、そしてリハビリ生活について語った。
「前屈みになれないし、脚の痛みで歩くのもゆっくり。還暦そこそこですでに“高齢のおばあさん”状態で(笑)」
そう話すのは、1970年代にテレビドラマ『おくさまは18歳』で一世を風靡した歌手で俳優の岡崎友紀さん(71歳)だ。
40代ごろから股関節に不具合が
4歳からモダンバレエを始め、その後はクラシックバレエやジャズダンス、タップダンス、日本舞踊などの踊りに親しみ、ストレッチをする習慣もあり、柔軟性にも筋力にも自信があった。しかし、40代になると脚の付け根に違和感を覚えるようになった。
「車の運転中、信号待ちの間に脚の位置を変えると股関節のあたりで“パッキーン”と音がするようになったんです。脚の付け根の奥のほうからも痛みが出始めたので、何かおかしいなと」
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知人の紹介で、著名な専門医がいる大きな病院の整形外科を受診してみたことも。
「とはいえ、当時は痛みもそれほどでもなく、股関節に違和感がある程度でしたから、診察時、指示どおりに身体を普通に動かすことができたんですね。先生に『身体が柔らかいですね』と言われただけで、画像検査や薬の処方などもなく、そのまま終わってしまって。私のケースは病院では治らないと思い込み、医師にかかるのを諦めてしまったんです」
その後は脚の動きに不具合を感じる場面が、さらに増えていった。
「例えば、バレエを踊るとき、振り付けの角度に脚をキープできなくなったり、脚の動きのコントロールに不自由さを感じるようになりました。40代後半にダンスシーンが多いミュージカルに出演したときには思うように脚を上げることができず、別の動きに変えてもらったことも」
不調を実感していたものの、当初は気合で治せるような気がしていたとか。
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「ミュージカルでダンスシーンがあれば張り切って踊っていましたし、趣味だったゴルフも楽しんでいました。ただ、歩くのはつらいので、常に乗用カートで移動。少しでも歩く距離を短くしようとしていましたね」
60歳を超えると日々の生活にも影響が及ぶようになる。
「歩幅がどんどん小さくなり、脚を上げることが難しくなって数センチほどの段差にもつまずくようになって。足の爪を切ったり、靴下をはいたり、ズボンの脱ぎはきをするのが、気が遠くなるほどたいへん。また、身体をまっすぐにして寝られなくなり、就寝時には股関節が痛まない体勢を探してタオルなどをかませ、朝まで同じ体勢で眠っていました」
仕事にも生活にも影響が及んだ
60代半ばには、講演会の会場で客席に落ちてしまったことがあるという。
「股関節の痛みで脚を曲げられなくなってしまってからは、床にあるものを拾うときは脚を伸ばしたまま、お辞儀をするように上半身を折り曲げていたんです。裸足ならこの動きで床のものを拾えるんですけど、そのときの靴がローヒールだったので、床に置かれたマイクをつかもうと上半身を折り曲げた瞬間にバランスを崩してしまい、客席に転げ落ちちゃって。幸いなことにケガはなく、笑顔で立ち上がり、お客様に安心してもらったんですが(笑)」
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周囲からはさまざまなアドバイスがあったという。
「脚の筋力が足りないのではないかと言われて運動をすすめられ、ヨガ教室に通っていたこともありますし、寝床が硬いほうがいいと言われて板の上で眠っていた時期もあります。結果的にいろいろな情報に振り回されることになってしまいました」
将来歩けなくなるのではないかと危機感を覚えた岡崎さんは、人工股関節の手術に関する情報を集め始める。2022年6月には専門医の診察を受け、両脚ともに変形性股関節症と診断された。
「このまま“動けないおばあさん”になるのが怖かったので、やっと診断がついたことに正直、安心しました。先生にエックス線画像を見せてもらったら、丸いはずの大腿骨の先が四角くなって骨盤にぶつかっているのが素人目にもわかり、人工股関節に置き換える手術をすぐに受けることを決めたんです」
そして2022年8月末に右股関節、12月に左股関節の人工股関節置換術を受けた。
「最近は、両脚を一度に手術するケースも多いようなんです。私の場合、先生が『両脚を一度に人工股関節にすると両方に負担がかかってしまうので、片方ずつのほうがラクですよ』とおっしゃったので、時期をずらして手術してもらうことにしたんです」
岡崎さんは術後、医師から次のような話を聞いた。
「メスを入れた瞬間、骨から血が噴き出したそうで、先生には『相当痛かったんだろうね』と言われました。私自身は麻酔で眠っている間に手術が終わり、手術の傷の痛みもほぼなし。異物感もなく、片脚だけでも鈍痛が消えたのは、ありがたかったです」
記録的な早さでの退院
手術翌日からリハビリが始まり、車いすから歩行器、両手でステッキをついての歩行を経て、片手でステッキをついた歩行ができるようになって退院となった。
「身体はだいぶ硬くなっていたけれど、バレエ歴も長かったし、ストレッチはお手のものだから、“リハビリなんて簡単”と思っていたんです。でも、実際のリハビリは想像とはまったく違って。長い間、常に鈍痛があり、歩くのもひと苦労で、身体をまっすぐにできない状態が続いていましたから、筋肉の一部がほとんど使われずに衰えていたんです。まずは股関節まわりの固まった筋肉を刺激するための小さな動きの運動から始め、右脚の術後は9日、左脚の術後は7日で片手のステッキで歩行ができるようになり、退院となりました」
先生からは「記録的な早さでの退院」と驚かれたそう。
「とても信頼できる先生に主治医となっていただけたことは幸運でしたね。リハビリでは、孫くらいの年齢の理学療法士さんのおっしゃることをよ〜く聞いて、“なるほど〜”と納得しながら楽しんで取り組むようにしました」
退院後もリハビリを重ね、今ではサクサクと歩くことができるようになったという岡崎さん。当たり前の動きができる喜びを噛みしめながら過ごしている。
「普通に立ったり歩いたりできるようになり、人工股関節に置き換える手術を受けてよかったと思っています。身体の中のパーツが新品に部品交換されたおかげで、たくさんの動きが蘇りました」
人工股関節になると、脱臼や摩耗を防ぐため、日常生活で避けるべきことがある。
「転ぶと人工股関節を入れ換えることになると言われているので、転ばないように気をつけています。また、脚をクロスしたり、横座りをするのはよくないんですって。以前のように踊ることはできないのですが、1年ほど前からフラダンスを始め、自分のペースで楽しく身体を動かせるようになりました」
変形性股関節症を経て、岡崎さんは改めて気づいたことがあるという。
「私は誰かに笑顔になってもらうことを意識して生きているということを再確認しました。人工股関節に置き換える手術のおかげで脚だけは30年くらい若返ったと思ってます(笑)。これからも皆様に笑顔になっていただけるよう、活動していきたいですね」
おかざき・ゆき 歌手、俳優。8歳で子役デビューし、TBS系列テレビドラマ『おくさまは18歳』をはじめとする主演シリーズが高視聴率を記録。7月12日には東京・汐留BLUE MOOD(中央区築地5-6-10)にて「YUKI OKAZAKI BIRTHDAY LIVE」を開催。
取材・文/熊谷あづさ 撮影/山田智絵