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※画像生成にAIを利用しています オーバーツーリズムが各地で問題となっているが、日本の大動脈である新幹線、特に東海道新幹線では外国人観光客の増加でさまざまなトラブルが起きているという。
◆座れない自由席と溢れるスーツケース
月に3〜4回、多い月だと5回以上の出張がある会社員の片岡功二さん(仮名・47歳)は、出張スケジュールを調整しながら憂鬱な気持ちになるという。
「最近の新幹線の混み具合は尋常じゃない。私のような“自由席ユーザー”からすると本当にツラいんです」
片岡さんによると、仕事の都合で決められた時間に新幹線に乗ることが難しいため、新幹線での移動は自由席がメインとなるという。
「最近はネットで新幹線のチケットを手軽に購入、座席も指定できますが、私のように仕事で時間が読めない人にとっては自由席が便利なんです。始発なら1本遅らせるくらいでほぼ確実に座りたい席を確保できます。しかし、最近はインバウンドが増えて自由席がギュウギュウ。東京からの列車だと、品川からでも座れないこともあるくらい。新横浜からなんてまず無理でしょうね。逆もしかりで、新大阪から乗る場合、始発以外は座れないこともあります」
◆スーツケースを何個も持ち込む外国人観光客
座れないこともツラいのだが、片岡さんがキツいなと感じるのは訪日外国人観光客たちの「荷物によるトラブル」だという。
「1人で大きなスーツケースを2つも3つも持ってくる観光客もいる。そうなると自分の上の荷棚には当然乗りきらないわけで、座席や通路に置くことになります。3人掛けの窓側に座ろうものなら、トイレに行くのも一苦労。一度、隣に欧米系の家族が座ったときは本当に地獄でしたね。窓際に私、中央にお父さんとスーツケース、そして赤ちゃんを抱っこ。通路側にはお母さんで足下にはベビーカー。私のスーツケースが荷棚にあり、さらに前後の観光客のスーツケースもあり、彼らは荷棚にスーツケースやベビーカーが置けなかったんです」
その客は足下にスーツケースやベビーカーを置いていたため、当然足がはみ出し、片岡さんの膝には父親の足がずっと当たっている状態だったようだ。
「少し時間が経ったあたりで、赤ちゃんがギャン泣き……。でも、通路もパンパンで母親が連結部分に連れてってあやすこともできない。そういうときに限って腹の調子が悪くなるんですよね(苦笑)。もう、席から通路に出るのも一苦労だし、トイレに行くまでにもう一苦労。静岡辺りでトイレに行ったんですが、席に戻る頃には三河安城通過のアナウンスが聞こえました(笑)」
◆外国人客が急増した理由
片岡さんのような自由席ユーザーは、昨今のオーバーツーリズム問題の影響で、快適に新幹線を利用できないこともあるようだ。
なぜ新幹線でオーバーツーリズムが起きているのだろうか。事情に詳しい旅行ライターA氏に話を聞いた。
「東海道新幹線が訪日外国人客で混雑する要因の一つにジャパン・レール・パス(JAPAN RAIL PASS)があると思います。これはJRグループ6社が共同して提供するパスで、訪日外国人のみが購入できる、いわゆる乗り放題パスです(※一部例外規定あり)。当初、東海道新幹線におけるジャパン・レール・パスは『ひかり』と『こだま』しか乗ることが出来なかったため、『ひかり』の混雑が問題となっていました。しかし、2023年より追加料金を支払うことで『のぞみ』にも乗車が可能になり、加えて『のぞみ』の自由席車輌が減らされたこともあり、自由席が大混雑するようになってしまったのです」
ジャパン・レール・パスはその値段の安さも問題視されたこともあり、価格は改定され、7日間で大人1人5万円。東京―新大阪の移動で「のぞみ」に乗車する際はプラス4960円が必要となる。
◆乗客の善意で保たれていた荷物問題
A氏によると、プラス料金があっても「円安も加味すれば、世界的にはまだまだ安い」という。また、スーツケースなどの荷物問題についても、まだまだ課題が多いと指摘する。
「荷棚も『ここからここがこの座席番号』という規定も特になく、持ち込める荷物のサイズについて注意をすることもまれです。現状、荷物問題については“乗客の善意”に頼っています。最後部座席の後ろを最後部座席を予約した人が荷物を置けるようにしたり、特大荷物を車内に持ち込む際は『特大荷物スペースつき座席』や『特大荷物コーナーつき座席』を予約するようにアナウンスしてますが、たまに旅行する日本人だって荷物サイズの規定について知らない人が多いくらいです。せめて荷物に対するアナウンスの強化くらいはするべきでしょう」
A氏によれば、欧州では鉄道会社で異なるものの、荷物のサイズは持ち込める数などが飛行機のように決められており、違反した場合は罰金が科されることもあるという。その代わりに荷物専用の車輌があるなど、乗客に寄り添った対応がなされているようだ。
訪日外国人の増加は観光立国としての成功の裏返しでもあるが、その波が新幹線という“日本人の日常”にまで押し寄せている現実を見過ごすわけにはいかない。観光客もビジネス利用者も気持ちよく移動できるよう、インフラ側の早急な対応と、利用者側のモラル向上の両輪での改善が求められている。
文/谷本ススム
【谷本ススム】
グルメ、カルチャー、ギャンブルまで、面白いと思ったらとことん突っ走って取材するフットワークの軽さが売り。業界紙、週刊誌を経て、気がつけば今に至る40代ライター